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1-25 嫌われる理由に心当たりは大体無い

 ニコラス先生の教務室から出てきたところで、派手な色彩の二人とかち合った。


「やぁ、リーチェ。こんなところで会うなんて奇遇だな。」


「セドリック様!ライオネル様!ごきげんよう。」


 慌てて頭を下げると軽く手を振られた。


「フローレンス伯爵令嬢。ファーストネームで呼ぶ程気安い関係になった覚えはありませんが。」


 顔を上げると嫌悪のこもった緑の瞳とぶつかる。


「大変失礼致しました。ノートリアム卿」


 一体私は、そんなに嫌われる程の何をしたと言うのか。ただ、ライオネル様-ーーノートリアム卿の言うことも確かなので、大人しく謝罪する。


「またそんな意地悪を。リーチェ、私のことはセドと呼んでくれて構わない。生徒会のメンバーは皆そう呼んでいるからね。」


 セド様は、後輩たちの争いに、困ったように微笑んだ。


「意地悪だなんて人聞きの悪い。指導ですよ。生徒会役員たるもの、淑女の鑑であってもらわなければ。」


「ご指導ありがとうございます。ご期待に添えるよう、精進して参ります。」


 貼り付けたような笑顔を見せる私に、不機嫌を隠そうともしないノートリアム卿、間に挟まれて眉を下げるセド様。側から見たら異様な光景に違いない。


「エドワード王子殿下だけでなく、アーサー様とも随分親しいようですが、交友関係で私は忖度しませんので。」


 言いがかりにも近い理不尽さに慌てて首を横に振る。


「エドワード王子殿下には、同期の学生として仲良くして頂いておりますが、アーサー様と親しいとは畏れ多いことです。」


「では、アーサー様は親しくもない後輩のために、私に光の魔術について教えるよう指示されたと?」


 あっ、と声が出そうになってすんでのところで堪える。声が出ていたらまたノートリアム卿に怒られるところだ。

 先日、図書室でのアドバイスは本気だったのかと憂鬱な気持ちになった。


「光の魔術師である私に、よく勉強するよう激励頂いただけですわ。」


「ふん、口だけは本当に良く回る。いくらアーサー様の頼みとはいえ、勉強不足の人間に教えることは何もありません。」


 私からは一言も頼んでいないんだけど。いい加減腹が立ってきたな。


「ええ。お忙しいノートリアム卿お手を煩わせるつもりはありませんので、お気遣いなく。」


 変わらず微笑む私が気に入らないのか、ノートリアム卿は顔を歪めた。


「......まるで、人が変わったみたいですね。」


 憎々しげに小さく呟いたかと思うと、私に聞き返す間も与えず通り過ぎた。


「大丈夫だったか?リーチェは、何というか、喧嘩っ早いな。」


「セド様、ご心配をおかけして申し訳ございません。」


 図星であるので眉が下がる。セド様には、セシル様のと口論も目撃されているので言い訳のしようもない。


 あんな言い方をする必要は無かったな、と確かに思う。意外とこの辺りは元々のリーチェの方が得意だった立ち回りかもしれない。


 いや、どうだろう。元々のリーチェも大概人の性格を逆撫でする余計なことを言うタイプだからな。


「悪いのはライオネルだから、謝る必要は無い。ただ、貴女はか弱い女性なのだから、あまり危険に首を突っ込むものではない。」


 4年生の包容力というのだろうか。セド様に優しく説かれると素直に聞こうと思える。


「はい。気をつけます。」


「ああ。良い子だ。」


 セド様に笑顔でポンポンと肩を叩かれて、微笑み返した。これは長兄の包容力かもしれない。


「あ、いたいた。お兄様!」


「ローズ!」


 セド様が弾かれたように顔を上げた。


「あら、リーチェ。ごきげんよう。」


「ごきげんよう。ローズ様。」


「ライオネル様のごきげん斜めは貴女との喧嘩が理由かしら?」


「ええ。申し訳ございません。」


「いいのよ、喧嘩して深まる仲もあるのだし。」


 ニコリと笑顔で言うローズ様の瞳は思わせぶりだ。

 乙女ゲーム版をローズ様はプレイしているという設定だから、ノートリアム卿と私の甘い展開を予想しているのだろうが。


 ここは破滅回避ルート版の世界なんですよ!!


 何があるかわからないけど、大体、仲違いは物理的危機に直結している。


 セド様の言う通り、喧嘩してる場合じゃ無いんだよなぁ。


「私を探していたようだが。」


「あ、うん。今年の新入生歓迎パーティーの予算を相談したくて、みんなを集めているのよ。」


「来月のイベントか。」


 この間、生徒会で議題に上がっていたイベントか。

 新入生歓迎の夜会を開催するとか。


「今年の特待生はアレクだけでしょ?彼に支援金は必要無いから、その分の予算で何かできないかしら。っていう相談をね。」


 殆どが貴族のこの学園だが、稀にアレクのような特別魔術に秀でた者も入学してくる。

 そういう特待生が、慣れない夜会で窮屈な思いをしないよう、あらゆるサポートをしていくのも運営の仕事だ。


 確かにアレクに支援は全然必要無い。多分その辺の貴族よりお金持ちだものね。パーティー慣れもしているし。


「あ、リーチェは今回もてなされる側だから、当日までのお楽しみよ!今日は生徒会に来なくて大丈夫だから。」


 セド様の背中を押しながら、私に向けてウィンクをする。

 悪役令嬢として転生したとは思えないぐらい朗らかだ。


 とりあえず、ノートリアム卿のことを思い出せるようにもう少し頑張ろう。


いつも読んで頂きありがとうございます!

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次は火曜日に更新致します

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