閑話 は大体サブキャラの独白〜白髪の麗人は約束を守る〜
ニコラス・ドゥ・ノースモンド。学園の教師で、魔術省の創設者でもある。今年で250歳。生徒たちの交わす、ニコラス先生100歳超えているらしい、という噂話には、私もまだまだ若く見えるものだ、と微笑ましく感じている。
240年前、10歳の時に光の魔術師の始祖と呼ばれる、サクラ様に拾って頂いて、弟子に、あまつさえ公爵家の養子にして頂き、そうして最後を看取った。
50年という短い時間の中であらゆる知識を、魔術を教えてくれた。
まだこの国が今よりも迷信に囚われていた頃、白髪に赤眼のこの色彩を、生まれた瞬間に母を殺したこの膨大な魔力を、忌み嫌われ、捨てられて、それでも魔力の強さ故に死ななかった自分を、拾い、受け入れ、教え、導き、人間にしてくれたのは師匠だ。
師匠との最後の約束は、今後現れる光の魔術師を妹弟子だと思い教え導くこと、だった。
教会と皇帝の政治的対立のために、無理やり側妃にさせられた師匠は、今後光の魔術師が自分のように利用されることが無いよう、願っておられた。膨大な魔力量から長命であろうことを見込まれたのだろう。
それから190年3人の光の魔術師を教え導いた。
一人目は、とにかく元気な娘だった。寝起きに極大魔法を無意識で発動してしまうことも、初回だけではなかった。操れるまでに時間はかかったが、彼女以上の攻撃魔法の使い手はこの190年出会ったことはない。
帝国に請われて魔物討伐も一人でこなし、各地を回る姿は勇者と呼ばれた。最後は魔王を封印し、息を引き取った。私が別の地へ討伐を命じられている最中の出来事だった。長生きするはずの光の魔術師であったのに、わずか20年で生涯を終えた。
当時の教皇に何故一人で行かせたのかと、せめて自分を待って欲しかった、と訴えたが取り合ってもらえなかった。そうして私は、魔術省を創設した。全ての魔術師の保護のために、教会から独立する機関を立ち上げた。
二度と、師匠との約束を違えることの無いように。
二人目は、隣国の公爵令嬢だった。公爵令嬢らしくプライドの高い娘だったが、真面目で勉強熱心な良い生徒だった。貴族にしては少し潔癖なところのある娘だったが、光の魔術師の信奉の厚い国であるので、それぐらいがちょうど良いかと思っていた。
異変が起こったのは、王太子から婚約破棄された後だ。失恋のショックでこもっていたかと思えば、さっぱりした顔で部屋から出てきた。
その後は、予知能力を発現して災害を防ぎ、事業を成功させ、王太子の不正を暴いて廃嫡に追い込み、第二王子と結婚して王妃として末永く国民に愛された。
そうして、130年ほど生きて、天命を全うした。
三人目は、帝国の伯爵家の娘だった。
幸いにも平和な帝国、賢明な陛下、敬虔な教皇に恵まれて、無闇な争いに巻き込まれることもなかった。
しかし、その千里眼と妖精の使役という平和な世だからこそ必要な能力は、周辺諸国との調整に使われた。
彼女の夫が宰相だったから、というのも大きな要因だ。
器として、光の魔術師とは思えないほど脆弱だった彼女は、その魔術を使うたびに衰弱した。
何度か、もう辞めるよう進言したが、彼女は緩く首を横に振るばかりだった。
「これが元々の私の寿命なのです。短命な私に、神が過ぎたギフトを授けて下さった。そのご恩に報いねば、神に見放されてしまいますわ。それに、愛する夫のために、この子達のいる国のために、力を使うことは幸福なのです。」
敬虔な信徒である彼女にそう言われてしまえば、何も言い返すことはできない。神などいない、と言うには、この国に宗教は根付き過ぎている。
「じきに、次の世を支える偉大な光の魔術師が誕生するでしょう。私はその繋ぎにすぎません。」
「馬鹿なことを言うな。千里眼に妖精の使役など、私が教えた光の魔術師の中で最も高等な魔術だ。だから、二度と繋ぎなど言うな。」
「ありがとうございます、先生。でも、私には視えてしまいますから。」
固い顔でこちらを見つめる息子と、まだ幼い娘の頭を撫でながら、まるで聖母のように微笑んだ。
千里眼を持つものの視える世界など、誰にわかると言うのか。教え子の視る孤独な世界に、思わず涙が溢れそうになる。
「それに、私の生きた証なら、この子達がおりますもの。」
神が本当にいるのなら、何という試練を彼女に与えたのだろう。子を想う母としての彼女が、本当の姿だというのに。
このギフトが無ければあと20年は生きられただろう。どちらかの魔術しか無ければせめてあと10年は生きられただろう。
「先生、この子達は光の魔術師では無いですけれど、どうかお願いします。この子達の未来を見届けて下さいませ。」
「......わかった。約束しよう。」
そうして、3年後彼女が息を引き取った後、彼女の言葉を証明するかのように、すぐに光の魔術師が誕生した。
リーチェ・フォン・フローレンス。
特異な魔力を持つ娘。
読んで頂きありがとうございます。
次は木曜に投稿いたします。
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