1-23 王家の歴史は大体どの国も闇が深い
寮の自室に戻ってから、今日図書室で借りてきた本を読み始める。後日ユリナやアレクとレポートを書く予定なので、それまでに5冊決めなければ。
アーサー様に一番簡単と勧められた本から読み始めた。
「光の魔術、基本編。光の魔術師にはある共通点が存在する。回復魔術が使える点である。」
確かに、この魔術だけは息をするように使える。階段から落ちた時にも使えたし、あまりにも自然に使えるので記憶喪失ネタは近々使えなくなりそうだ。
あとは、基本的な光の攻撃魔術も使えると。光の攻撃魔術にも色々あるようだけれど、イメージ的にはレーザービームのような形になるのね。
大型魔法になると局所的に消し炭にできると書いてある。
これは、本人のそもそもの才能によるみたいだけど。そんな怖いものを使う機会は無い方が良いし、期待されても困る。
「応用編は、と。」
その時々の光の魔術師によって、回復魔術と攻撃魔術に加えて何らかの魔術を行使できるようだ。
「予知、千里眼、妖精の使役、魔獣の使役、未来視、念視、読心術、極大攻撃、魔術増強、転移術など。」
おお、色々あるのね。私は何ができるのかしら。
この世界に来て初めてワクワクした。
危険を回避するのにいっぱいいっぱいで、魔術のことを考えている暇が無かったけど、せっかくファンタジーの世界に転生したのだ。ちゃんと勉強して使いこなしたい。
レポート5冊にげんなりしていたが、俄然やる気が湧いてくる。
「光魔術の始祖はこの魔術を全部使えたのね。」
こんなの全部使えたらもう神の領域だと思うのだけど。
ああ、だからか。信奉者が多いというのはそういうこと。
アーサー様に渡された本の中に何か始祖に関連する本があった気がする。
「あ、あった、これかな?」
『サクラ・アルニスその偉業〜アルニス帝国の栄華を追う〜』
前世だと漫画でわかる歴史、みたいな感覚なのかしら。ライトな文体で物語調なので読みやすい。
時の皇帝に嫁いだところから物語は始まるが、出自については一切が謎だとされていた。太陽の女神の使いだったというのが、通説となっているが、この本でもその説を採用しているようだ。
皇家に連なる人となると、いよいよどこまで本当かわからないな。それこそ皇帝の愛した身分の無い女性に権威付するため、設定を盛っている可能性がとても高い。
300歳まで生きたとあるが、さすがにそれは嘘でしょう。
読み物としては前世のライトノベル感覚で楽しくサクサク読み終えることができたが、レポートとしては使えないなぁ。
ただ、アーサー様が私に読ませたかった理由はなんとなく理解した。皇家への忠誠が薄そうな私へ、釘を刺す意図があったのだろう。我が家は皇帝派で、現皇后様とは派閥が違う。しかし、皇家の歴史を紐解けば光の魔術師は取り込んでおきたい、そいうことだろう。
その後もパラパラといくつかの本を読んでいく。
光の魔術師と聖魔術師の差は、瘴気を祓う魔術を持つかどうかで決まるようだ。聖魔術師は皆、回復魔術と同じぐらい息をする様に瘴気を払えるらしい。
サクラはこの瘴気を祓う魔術を使えなかったため、光魔術と聖魔術に分けられてしまった、と考えられているが、近年では、光魔術も聖魔術と同じものとする考えが一般的になっているそう。
そもそもアルニス帝国の魔術への考え方は、遍く魔術師は太陽の女神の元、民衆のためにその力を与えられた。
という考え方なので、光魔術と聖魔術の分類がサクラを基準に考えていた今までが不自然なのかもしれない。
かつての皇家と教会の確執が伺えるエピソードだ。
「アーサー殿下に言われたし、とりあえず全部読まなきゃなぁ。」
自分がどの魔術を使えるのかわかれば、もう少しやる気も湧いてくるのだけど。
今度ニコラス先生にどうやったらわかるのか相談してみよう。
✳︎
「......エドワード王子。」
ユリナとアレクと一緒に談話室に迎えば、何故かエドワード王子が先に座っていた。
「僕も同じ課題が出ているから、一緒にやりたいな、と思って。ね、ユリナ嬢?」
「はい!!」
頬を染めながら頷くユリナを引っ張ってエドワード王子から引き離す。
「ユリナ!?」
「ごめんね、でも怖い人だとわかっててもファンだから。あのお顔で頼まれたら断れなくて。」
あのお顔で頼まれたら断れないのはわかるけど。そもそも隣国の王族のお願いは断れないだろうけど。
「それに、あんまり避けると不自然よ。」
「それはそうだけど......。」
「お話は終わった?」
エドワード王子が後ろから顔を覗かせる。ユリナが顔を真っ赤にしてフラリと倒れそうになったのを、エドワード王子が支えた。私はといえばあまりの恐怖に心臓がバクバク音を立てている。
「エドワード王子、あんまりご令嬢に近づくものではないですよ。レポート、始めましょう。」
アレクの一声で、やっと全員が席につく。アレクとユリナが守るように私を挟んで座ってくれて、ほっとした。
「3人は本当に仲が良いんだね。昔から?」
「いえ、最近ですよ。」
「そうなの?」
意外そうに目を丸めるエドワード王子に、自分の言葉が失言だったと気がつく。
「ユリナとは同じクラスになってから仲良くなったんです。」
「ああ、ユリナ嬢とね。」
エドワード王子の中では、私とアレクは昔から庇うほど仲が良かったはずなのだ。疑われたらおしまいだろう。
「そういえばエドワード王子も同じレポートですのね。王族の方の血統魔術はレポートで出してもよろしいんですか。」
ユリナが慌てて話題を変えてくれた。ほっとして、ありがたくその話題に便乗させてもらう。
「ああ、うちのは隠すような魔術じゃないから、国では元々広く公開されてるよ。鉱石を出せる、自在に加工できる、という魔術はむしろ公開した方が国益になるでしょう?その代わりに利益関連の問題で、血統を厳しく管理されているんだ。」
例えば、王女が他国に嫁ぐときには多くの誓約を負うのだとか。
「僕からしたら、アレクの方がよっぽどレポートに出して良いの?って感じだね。門外不出のため、国に属していないんでしょ。」
「あれ言ってませんでしたか?」
アレクの言葉に全員が首を傾げる。
「私は水の魔術も扱えますから、そちらをレポートとして出します。血統魔術の方は今更改めて勉強することも無いですし。」
血統魔術と個人魔術両方の使い手!さすが攻略対象。身分のハンデを能力で埋めているのね。
「アレクは着々と有能になっていくね。歴代で最も有能な商会頭になる、とマクトゥムが色んなところで親バカを発揮しているよ。」
「父が、失礼いたしました。」
照れ臭そうに額に手を当てて、ため息をついた。耳が赤い。
「アレクサンドラ様は砂漠のご出身ですから、これから背も伸びてさらにおモテになるでしょうね。」
ユリナもエドワード王子に賛同するように言い募る。
「ユリナ嬢まで。俺は別に今もモテていないですよ。爵位もないただの商人です。」
「爵位が欲しいならうちの国に来たらいいのに。マクトゥムはどこの国も喉から手が出る程欲しがっているでしょう。アレクが来てくれるなら僕も嬉しいよ。リーチェと一緒に来たら寂しくないんじゃない?マクトゥム一人なら伯爵、光の魔術師が妻となるなら侯爵ぐらいは用意できるよ。」
妻、という単語が出てきたことで場の空気が一瞬止まる。エドワード王子が勘違いしていることは共通認識だが、勘違いを正すことで地雷を踏みかねないからだ。
「意外ですのね。私てっきりエドワード王子はリーチェに好意を寄せられてると思っておりましたわ。」
ユリナがさりげなく話題を変えようとしてくれる。この話題もどんな顔をしていたらいいのかわからないが、背に腹はかえられない。
エドワード王子は小首を傾げた後、一瞬虚な目をした。美形が虚な目をすると、すごく怖い。
「ないよ。王族と、光の魔術師の婚姻は、王太子にしか認められていないんだ。うちの国だと政争になりかねないからね。」
エドワード王子が肩をすくめて思わせぶりにこちらを見た。
「恋情は無くても大切であることに変わりはないけど。」
熱っぽい視線に思わず目を逸らす。私の向こうにローズ様を見ているのだと思うと気が気でない。
この後も針の筵のような心地で、エドワード王子の視線を受け流した。
いつも読んで頂きありがとうございます!
次は木曜日に投稿致します。
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