1-22高位の魔術師は大体若作り
お茶会が無事に終わってから数日。生徒会役員として正式に認められたからなのか、お茶会の翌日セシル様が謝罪した効果なのか、私の不名誉な噂はすっかり収束し、クラスメイトとの距離も徐々に戻りつつあった。
定期的に教室に来るエドワード様には、皆中々慣れないけれど。ローズ様の身代わり作戦は今のところ奏効している。
今日は魔術の講義の一環で、図書室に来ている。白髪に赤眼の、前世ならアルビノと呼ばれる色彩の男性が、生徒たちの前に立つ。ニコラス先生、魔術の専任教師で魔術省の偉い人だとか。
顔の良さといい、設定といい、まるで登場人物のようだが、小説には登場していなかった。安心して授業を受けられそうで何よりだ。
「よし、全員揃ったな。今日は、自分の適正魔術についての歴史を学んでもらう。これまでの講義についての復習だ、マクトゥム、魔術とは大別して何と何がある?」
「個人魔術と血統魔術です。個人魔術はあらゆる要因で生まれ持った魔術であり、火、水、木、土、風の5要素を基本に持つことの多い魔術です。血統魔術は、家系に受け継がれる独自の魔術であり、帝国でも貴族家の約半分の家では血統魔術の家系があると聞いています。」
「その通りだ、マクトゥムに拍手。」
アレクの説明に、あれ?と思いながらも手を叩く。光の魔術はどこに入ってくるのかしら。
「このクラスは魔術の素養がある者だけのクラスとなっているが、自分の魔術の歴史を学んだことのある者は手を挙げてみろ。」
ちらほらと手を挙げる人がいる。ユリナやアレクも手を挙げていた。
「血統魔術の者が多いな。学んだことのある者はわかっていることだろうが、"知る"ということは魔術を使うものにとって何より大切な入口だ。使い方だけではなく、その歴史を知ることで可能性や時には危険性を知ることもできるだろう。」
高名な魔術師の話だからか、普段の授業よりもみんな真剣に聞きながら頷いている。しかし、
「今日はこの図書室で自身の魔術について書かれた本を5冊見つけること。また、その5冊についてのレポートを課題とする。」
という先生の一言で、多くの生徒ががっくりと肩を落とした。
「ねぇ、アレク。私の光の魔術って個人魔術だと思うんだけど、どの要素に含まれるの?」
「光と闇はどの要素にも含まれないな。当代に1人出れば多い方と言われるぐらい適性が少ないから、要素には含まれていないが、光と闇はそれぞれ独立した要素だ。」
「光の魔術と闇の魔術は、魔術師の間でも信奉者が多いし研究もされているから、本は多いと思うぞ。」
コソコソと話していたら、ニコラス先生が後ろから唐突に混ざってきた。
驚いて大きな声が出そうになり、慌てて口を押さえた。
「先生!」
「時間は限られている。わからないことは私に聞くと良い。」
「ありがとうございます。」
近くで見ると透き通るように白い肌も白くて濃い睫毛も整った顔立ちもまるで御伽噺に出てくる妖精王のようだった。
先生が他の生徒の様子を見に行ってから、アレクがぽそりと呟いた「何度見ても100歳越えには見えないよな。」というセリフには、今世で一番びっくりした。
「多いとは聞いていたけど。」
光の魔術の関連図書を探してみれば、それだけで一つの棚が埋まる蔵書量が確認できた。聖魔術の本も一緒の棚においてあるので多くなっているようだが。
とりあえず背表紙からいかにもな本を手に取ってパラパラめくる。
......難しいな。
ため息をつきながら本棚に戻す。
「何が知りたいのかな。」
「うーん、過去の光の魔術師の偉業とか、聖魔術との違いとかですかね。」
「じゃあこの辺りがオススメだ。」
「あ、本当だわかりやすい、ありがとうございます。......って、え!」
先生だと思っていたのに、ポンポンと私の手にいくつか書籍を乗せた人は、
「アーサー殿下!」
「殿下はなくて良いよ。」
びっくりしすぎて手に持っていた本を全て落としてしまった。
「どうしてこちらに。」
「自習時間だったから、少し調べたいことがあってね。ニコラス先生の授業か。」
「そうです。」
「今も5冊分のレポート?」
「アーサー殿下もなさったんですか!」
口にそっと人差し指を当てられた。
「殿下は、無しね。」
「アーサー、様。」
ニコリ、と高貴な微笑みを見せる。あまりに綺麗で思わず赤面してしまった。
アーサー様はローズ様を好きなわけだから、これは所謂皇子ムーブというやつだな。頬が火照るのを手の甲で冷やす。
「光魔術はわかっていないことが多い。レポートはその5冊が書きやすいと思うけど、リーチェは一度この辺りの本は読んでおいた方が良いだろうね。」
「そうですね。」
小説は、ローズが主役だから光魔術についての説明は多くない。最後の方で出番がありそうな雰囲気は出ていたけれど、小説は完結せずに止まったままだ。
アーサー様の言う通り、勉強しておいた方が良いだろう。
「難しければライオネルに聞いたら良いよ。彼は光魔術に詳しいから。」
ライオネル、あの意地悪眼鏡の宰相の息子が光魔術に詳しい?そんな話あったかな。
あ、まって、何か思い出せそう。
だめだ、お茶会の時の陰険な態度しか思い出せない。
「じゃあ僕はいくね。レポート頑張って。」
「あ、はい!ありがとうございます。」
ペコリとお辞儀して見送った。何か思い出せそうだったけれど、何かはまた記憶の奥に沈んでしまった。
今回は説明多めになっておりますが、
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来週の火曜日に更新致します。
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