1-21 やっかいな奴は誰にとっても大体やっかい
「多分なんだけど。」
エドワード王子が出て行ったことを確認してから、アレクに相談を切り出す。奇しくも、手紙のことを自然に切り出せそうだ。
「その手紙?とやらを出したのが、私だと勘違いされているみたいなんだけど、アレク何か知ってる?」
「リーチェと勘違いしてることは無いと思う。俺を見てたら誰かわかるって言ってただろ。昔その手紙の主を......大切な人って伝えたことがあって。」
当時を思い出してか顔を赤くしながら言う。思わず生温かい目になりながら、微笑んだ。
「あー、友人として大切って意味だと捉えられたのかな?」
「それはあるかもしれないな。」
「そうじゃ無いと思うわよ。」
最初はニコニコ私たちの話を聞いていたユリナに、最終的に呆れたようにダメ出しをくらった。
いや、エドワード王子がそういう意味で言ったわけじゃないのはわかってるよ?
でもアレクは全く私をそういう目で見てないのに、わざわざそういう勘違いされてますよ!っていうのは恥ずかしいじゃない?
これは鈍感ヒロインムーブではないのです。
「光の魔術師偽証事件に関わる内容だったから、余計誤解されてるのかもな。エドワード王子にリーチェじゃないって言っておこうか?」
あら、すごく鋭い。さすが攻略対象。頭が切れる。
ただ、それは私の腕が無くなるフラグなのよね。
「いえ、今までの話から本当の手紙の主が予想ついてしまったから、その方に相談させて欲しいことがあるのよ。」
ピリ、と一瞬空気が張り詰める。
友達といえど、好きな女には敵わないよなぁ、と少し寂しい思いになりつつ。
「たぶんローズ様は相談してくれてよかった。って言うと思うわよ。」
「......たしかに、知られた以上ローズ様にも報告しておいた方が良さそうだな。」
真顔のアレクに、ローズ様が命じれば私ぐらい転移魔術で北極に飛ばしそうだなぁ、と物騒なことを考えながら頷いた。
✳︎
生徒会用の会議室を予約して、ローズ様にお越し頂いた。内密の話になるので人払いはすませ、自分達でお茶を入れる。
前世庶民の私はともかく、皆貴族なのに、随分手際が良いものだと思っていたら、メイドを連れて行けないため、学園に入るまでに一通りのことを自分でできるように叩き込まれるのだそうだ。
上級生に有力貴族がいたりすると、そのおかげで近づけたりもするらしい。そういえばセシル様も高位貴族の割にサーブがやたら上手だったな、とお茶会を思い出した。
「そんなことになっていたのね、相談してくれてよかったわ。」
ローズ様に事の顛末を話せば、紅茶に口をつけながら、困ったように眉根を寄せてそう言った。
ね?という圧を込めてアレクを見ると、神妙な顔で頷いていた。
「特に、リーチェへの手の甲への口付けはまずいわね。」
ですよね、と頷きそうになるのをぐっと堪えて、「えっ!」という顔を作る。
「隣国の王家には、手の甲へ口づけをした相手には絶対服従という誓約があるのよ。相手が死ぬか、腕を切り落とすまで有効な誓いが。」
「他国の王家にもお詳しいんですね。」
「......皇妃教育の一環でね。」
アレクの問いに対して、一瞬の不自然な間の後にっこりと微笑んだ。
「それって、俺やリーチェ、ユリナ嬢に言ってもいいんですか?」
「そうね、この国の人はほとんど知らないけれど、隣国の国民はお伽話になるぐらい普通に知っているわ。ユリナさんとリーチェはあんまり詳しいと怪しまれるかもしれないけれど。アレクは知っていてもおかしくないわね。」
そういう設定なのね。腕を切り落とされた後まで夢では見られなかったけれど、そういう説明をするシーンがあるのだろう。
「私の軽率な行動であなたを巻き込んで申し訳ないのだけれど、リーチェ、一つお願いがあるの。」
「はい。」
「あなたが手紙の主だ、ということにしてくれないかしら?」
「ええ、私もそのご相談で来ました。」
私の回答にローズ様もほっとしたように微笑んだ。
「リーチェのことを思えば、それが最善でしょう。エドワード王子は、多分躊躇いなく腕を切り落とすタイプです。」
ローズ様はリーチェに恋をするエドワード王子のことしか知らない割に、随分冷静にエドワード王子のことを把握しているようだ。
いや、自分の母をあっさり終身刑に処すエドワード王子の資質から、最善だと思うことを迷いなく決断する、という人物評価を下しているのだろう。
それにしても、ローズ様も悪役令嬢という立場的には、私とエドワード王子があまりに親密になることは避けたいはずだが、そこは私の腕を優先してくれる。
さすが正ヒロインだ。
「その、情報の入手方法については深くは言えないのだけれど、私は光の魔術師偽証事件についての全容を知ってしまったのよ。入手経路が国家機密にあたるので、私が知っているということを、隣国に悟られるわけにはいかないの。」
と、いうことにしているのだろう。目が泳ぎまくっているが、アレクもユリナも深々と頷いているため気が付かない。
「エドワード王子が、光の魔術師の予知だと勘違いしているなら、私としてもそのまま勘違いしてもらえるのがありがたいわ。」
「......そこで一つご相談なのですが。」
「何かしら?」
「私の光魔術は多分予知じゃ無いのですが、その、バレるリスクはありませんかね。」
「......そう、だったかしら。」
「......少なくとも現状は。」
何かを思案するような顔になるローズ様。リーチェは予知の能力も持っていたんだろうか?私が覚えていないだけで。
「......光の魔術が発現した時に、一瞬見えたことにしましょう。」
「名案です。」
食い気味に頷くと、ローズ様にクスクスと笑われた。
「じゃあ皆さん、ここだけの秘密でお願いしますね。」
全員で顔を見合わせて頷きあった。
✳︎
面白い話を聞いた。
と男は笑う。
意外なメンバーで部屋に入って行くものだから、何事かと聞き耳を立ててみれば、随分と面白いことになっているようだ。
おもしろい、が。大きな変更は許されない。「最終話」を覆しかねないからだ。
「この辺りでテコ入れが必要だな。」
男は口笛を吹きながら廊下を歩いた。おおよそ貴族らしくない振る舞いだった。
次は木曜日に更新します。
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