表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/88

1-20 勘違いは大体加速する

"コンコン"


医務室のベッドルームにノックの音が響く。

先生かと返事をすれば、アレクが顔を覗かせた。


「リーチェ、大丈夫か?」


 先程の夢に怯えているため、アレクの登場にも思わず声をあげそうになる。


「ごめん、驚かせたな。」


「ううん、怖い夢を見ただけ。」


「さっきより顔色が悪くなっているけど、大丈夫か?」


 ベッドの横に腰掛けて、ベッド脇に置かれた水差しから水を注いでくれる。


 アレクの動きを何とは無く目で追っていると、ふと、アレクを味方にできないかという考えが頭をもたげた。


 けれど、何と言えばいいのかしら。前世の話なんて言えないし、予言だなんて言えばそれこそ取り返しのつかないことになる。気がする。


 かなり危険だけど、エドワード王子から手紙の単語を引き出して、エドワード王子よりも先にアレクに相談する、という流れが一番自然な気がする。


「どうした?」


 首を傾げながら、水を差し出すアレクに「何もないよ。ありがとう。」と微笑み返して水を受け取った。


「リーチェ、大丈夫?」


 水を飲みながら考えをまとめていると、ユリナも遅れて入ってきた。心なしか頬が赤い。嫌な予感がする。


「アレクサンドラ様、エドワード王子が教室に見えたわよ。」


 やっぱり!手紙の件を確認しに来たんだろうか。


「エドワード王子が?じゃあ俺は戻った方が良さそうだな。ユリナ嬢、リーチェを寮に送ってあげて欲しい。」


 出て行こうとするアレクの制服を思わず掴む。


「い......行かないで。」


 私の突然の行動に驚いた後、震える私の様子に気がつき、優しく肩に手を置いた。


「すぐ戻ってくるから。」


 本当のことを言うわけにはいかない。けれど、アレクを行かせてしまえば、私は自分の腕とおさらばだ。


「戻る必要はないよ。もう来ているから。」


 ひょっこりと顔を出すエドワード王子に、思わず叫びそうになった口を手で押さえる。


「リーチェ嬢の具合が悪いと聞いて心配になったんだ。」


「お気遣い、ありがとうございます。」


 絞り出すように、震えそうになる声を抑えて返事をする。


「我が国にとっては光の魔術師は特別なんだ。僕にとっても。」


 熱を持った瞳が怖い。


「恐れ入ります。」


「うーん、随分他人行儀だね。僕たちは友人でしょ。心配するのは当然だよ。」


 いつ不用意な一言で豹変するかわからないので、ハラハラする。


「エドワード王子、私に何かご用があったのでは?」


「ああ、昔の手紙の件。どなたからの物かわかったから、もういいよ。いつでも城に遊びに来て。」


 アレクの顔がサッと青ざめる。多分私の顔も。


「ね?」


 と私に蕩けそうな微笑みを向けて。


 怖くてアレクの方を見れないが、何のことだかわからない。という顔を作る。

 破滅回避ルートの時と比べて信じきっている様子なのは、私が飛んだら跳ねたりしてローズ様に抱きついていないからなのだろうか。


「何故わかったのです?誰かから聞いたとか?」


「そんなの。聞かなくたってアレクを見ていたらわかるよ。」


 思ったより冷静な声に顔をあげてみれば、今度は真っ赤な顔をしていた。赤くなったり、青くなったり忙しないな。


「名前を言うのは野暮でしょう。安心して、僕の胸の中だけにしまっておくから。」


 唇に人差し指を当ててウインクをする。あざとい仕草が妙によく似合っていて、ユリナは感嘆の溜息までついている。


 腕を切り落とされる空気感じゃなくなってきたので、私もようやく詰めていた息を吐いた。


「手紙の話は後でしましょう。リーチェは具合が悪いの

ですから。」


「そうだった。煩くしてごめんね。お見舞いに花の一つもないのもあれだね。」


 片手を挙げて、何かを掴む仕草をするとみるみるうちにエメラルドの細い棒が現れた。その先端にパキパキと、サファイアの薔薇が現れる。

 あっという間にエメラルドとサファイアで出来た一輪の薔薇が現れた。


 夢の中では剣に変わった鉱物が、今花になって目の前にある。


「どうぞ。早く元気になってね。」


「こんな高価なもの頂けません!」


 宝石の薔薇を差し出すエドワード王子に慌てて首を振る。今の私は多分サファイアよりも真っ青だ。


「市場の相場は知らないけれど、これは僕の手作りだからプライスレスだよ。」


 私の手をとって無理矢理握らせると、蕩けそうな微笑みで「またね。」と囁いた。


 本来ならドキドキするところだろうけど、勘違いと知っている私は違う意味でドキドキが止まらなかった。



読んで頂きありがとうございます!

ブックマークいつも励みになっております。

次は火曜日に投稿致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ