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1-2目覚めたら大体状況把握から

パチリ

 と音が鳴りそうなぐらい、ハッキリと覚醒した。


 私の名前は水口桜。現在大学3年生の21歳。

就活の合間に携帯で小説を読むことが楽しみの、今一番多忙な就活生だ。次の面接のために駅の階段を登っていたら、おじさんにぶつかられ、そのまま落ちてしまった。ぶつかりおじさんは絶対に許さない。


 自分のプロフィールを確認してから起き上がり、周りを見回す。

 赤い絨毯に、重厚な木造ベッドの置かれた広い部屋。おおよそ駅の一角または、病院とも思えない、寝心地の良い羽毛布団。

 現実離れした目の前の景色に数度瞬きをして、もう一度よく思い出す。


 私の名前はリーチェ・フォン・フローレンス。フローレンス伯爵令嬢。15歳の学園1年生。珍しい光の魔術の保持者ということで、ありがたいことに1年生から生徒会にご指名頂いた。。

 先輩方は皆さん優秀な方ばかりで、今からご挨拶がとても緊張しちゃう。

 それなのに、私ったらうっかり足を滑らせちゃって、憧れのローゼリア様の前なのにお恥ずかしいわ。

 後で改めてご挨拶しないと......


 って、ねぇ。

 これって、いわゆる異世界転生?前世の私は、うちどころが悪くてそのまま......?

 しかもこれは、昨夜私が読んでいた「悪役令嬢に転生したので、なんとか没落を回避します!」という、よくある悪役令嬢転生系の物語では?やっぱりぶつかりおじさんは許しがたい。

 一瞬にしてさまざまな考えが頭を駆け巡る。そして、


 「よりにもよって」


と頭を抱えた。

 

 そう、よりにもよって。

 私は、悪役令嬢転生系物語の、ヒロイン、リーチェとして生まれ変わってしまった。


 いえ、あくまで悪役令嬢が主役なのだから、悪役令嬢がヒロインのはずなのだけど。

 その物語内における、本来のヒロインに私が生まれ変わってしまった。いやこれ、すごくややこしいぞ。


 救いはザマァ系でないことだろうか。

 常々、私は悪役令嬢に生まれ変わってもザマァできないで謀略に負けそうだなぁ、と思っていたので。

 頭は良くもなく、悪くもなく。運動神経は良くもなく、悪くもなく。恋愛経験も多くもなく、少なくもなく。まだ就活中なので、特別な職能もない。あらゆる意味で平均的な人生だった私には、異世界転生って全くチートじゃない。


 どんな話だったかなぁ、と前世の記憶を思い起こす。


 乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生してしまったアラサー女性が、ローゼリア・ドゥ・シャルル侯爵令嬢、通称ローズとして生まれ変わって没落を回避する。という話だったかと思う。あまりにスタンダードで人気は今ひとつ、だけど私はそのスタンダードさがツボでハマって読んでいた。残念ながら未完なまま1年が経過したけれど。

 

 よりにもよっての部分には、この未完というポイントも加わる。良いところで終わっていたから最終的にどうなるのか全くわからない。完結していない物語の世界で、途中の世界が続いていくのだとしたら、どう対処したらいいのか。

 他の登場人物のことはまだ朧気だ。会ったら思い出すだろうか。いや、私の脳味噌には気合で思い出してもらわないと困る。


 さて、先程の階段シーンだが、乙女ゲーム本来の粗筋はローズ率いる取り巻き女性たちが、1年生で生徒会入りをしたリーチェを妬んで階段から突き落とし、現れた王子に助けてもらう、という王道出会いイベントだ。王子より先にローズに出会うという時点で、そもそもの悪役令嬢のポジションの重要性がお分かり頂けるだろう。


 そして没落回避エピソードでは、没落回避のために動いた結果多くの人気と信頼を獲得した副会長のローズが、イベントを思い出してかつての取り巻き令嬢に注意しに行ったたところ、ノコノコ現れたヒロインリーチェがローズの剣幕にびっくりして階段から足を滑らせて落ちる。というエピソードだった。


 ローズ的には止めようとしたのに、自分のせいでリーチェが階段から転落してしまった。と反省しつつも、ローズが心配で付き添った王子、アーサーにイチャイチャ慰められる。という糖度の高いエピソードだったかと思う。


 そして、リーチェはこの一件で憧れのローズを益々尊敬し、お姉様と呼ぶようになる、というヒロインと悪役令嬢の出会いイベントでもある。


 いや、リーチェ踏んだり蹴ったりすぎない?

 本来のエピソードでは助けてもらえて無傷なのに、回避エピソードでは階段から落ちて腰を痛めている。足を滑らせたのだから、もちろん自業自得だけれども。


 よくよく思い出してみれば、回避エピソードはリーチェが何かと皺寄せを食らったエピソードが多い。天真爛漫で、純真無垢なリーチェは1ミリも気にせずローズを崇拝していたが。


 作者、実はヒロイン系女子に村でも焼かれたのでは?と思うぐらい地味に痛い思いをしていた気がする。

 

「やだやだやだ!!」


私は平穏無事に生きたいだけ!

前世があっけなく終わったんだから、今世は幸せに生きさせて下さい!!

 


ーーー

読んで頂きありがとうございます。

次回来週日曜に更新します。

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