1-17 悪夢の翌日は大体寝不足
夢長すぎるよ!!
夢は記憶の整理のため、とは前世で聞いたことのある俗説だが、こちらの世界に来てから、これほど身に染みている知識は無い。
昨日エドワード殿下に会ったことで、私の脳が刺激されたのか昨晩の夢にしっかりと出てきた。それもかなりの衝撃的な長編エピソード。
14歳の少年が、母親が父親に命じられて人を殺すところを見る、とか。母親を実質の終身刑に処さなければならない、とか。前世に文面で読むにはまだまぁ受け入れられたけど、夢でリアルに見るには酷すぎる。
起きてから思い出して少し吐いてしまった。
その後の乙女ゲームらしい甘々エピソードも、前半のせいで大して記憶に残っていない。
やっぱり攻略対象じゃないセシル様は当然のこと、身分柄友達ルートに落ち着いてしまったアレクよりも、本命当て馬の一人なだけあって、エピソードも登場回数も多いし重厚なのよね。
うう、寝足りない。
「顔色悪いけど大丈夫か?」
「ありがとう。少し寝不足で。あ、ねぇ。」
「なんだ。」
「エドさ......エドワード王子のご兄弟ってご健在なの?」
「?ああ、第一王子は少し体力に不安のある方だが、エドワード王子含め周りのご兄弟が支えているから安泰だろう。」
「そう。ありがとう。」
ローズ様が、動いたと思うのが妥当よね。私が見た夢は乙女ゲームエピソードだから回避エピソードがあるはず。
そして、今までのパターンだと回避エピソードは私にとって都合が良くない可能性が高い。
思い出せ、私、頑張れ、私の脳みそ!
次の接触までに少しでも思い出しておきたい。
「アレク、やっぱり体調がすぐれないから医務室で休んでくるわ。」
「着いていくか?」
「ありがとう、大丈夫よ。先生に伝えておいて。」
このパターンは多分もう一回寝れば思い出せそうな気がする。
夢にみるぞ、という強い気持ちで寝ることにしよう。
病人顔を作るまでも無く、寝不足によって既に顔色が悪かったので、医務室の先生もすぐにベッドを用意してくれた。
昨夜ほとんど寝られていなかったのだろう。
あっという間に意識を手放した。
✳︎
「やぁ、アレク来ていたんだね。」
「エドワード王子、お目にかかれて光栄です。」
「もうエド様って呼んでくれないの?」
「どれだけ昔の話ですか。今そう呼んだら大人に怒られますので。」
12歳の春、我が国に光の魔術師が誕生した、という噂を聞きつけて、マクトゥム家が内情を探りがてら挨拶に来た。
国外にはまだ公表していないので、商人のネットワークは侮れない。
「そういえば、君は当主について行かなくていいのかい?僕のところに来ても旨味は無いよ。」
「恐れ多いことですか旨味がなくても会いたいと思うぐらいには、親しくさせて頂いていたつもりです。」
不貞腐れたような顔でそう言うものだから、嬉しくてつい笑ってしまった。マクトゥムが各国の重鎮に会う時に息子を連れて行くのは、こういうところが気に入られるからなんだろうな、と一人納得する。
「ごめんごめん、僕らは友だちだ。用が無くても来てくれて構わないさ。」
「ありがとうございます。ただ、今日は一応用件もあるのです。」
手紙を取り出して、渡される。
白い封筒に赤い蝋で封をされているが家紋は記載が無い。綺麗な字で僕の名前が記載されているが、差出人の名前も無い。
「さるご令嬢から、エドワード様宛にお預かりしたお手紙です。私も中身は知らないのですが、とても切羽詰まった様子でしたので、預かって参りました。どなたかは明かせませんが、しっかりした身分の方であることは確かです。」
「ふぅん。」
ペーパーナイフを手に封を開けた。
読んで頂きありがとうございます。
始まった回避エピソードも少し続きます。
次は来週の木曜日に投稿致します。
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