1-14 悪夢は大体長編①
乙女ゲームエピソードです。
3話続きます。
側妃の息子で第四王子の僕に王位継承権が回ってきたのは、不幸な巡り合わせによるものだ。
「エドワード王子、あなたが次の王となる未来が私には見えるのです。」
13歳の成年の儀の時に、光の魔術師にそう言われたことが全ての始まりだった。
聖魔術師だったひぃおばあ様が亡くなられてから、次の聖魔術師は隣国で誕生した。
ひぃおばあ様が残した偉大な功績に、国民は、貴族は、次の聖魔術師も我が国で誕生することを望んだ。
望みすぎた。
隣国の聖魔術師が、子を産んでしばらくして亡くなった、という知らせが我が国に伝わったのは僕が10歳の時。今度こそは我が国で。そう強く皆が願っていた。
そして、それは最悪な形で叶った。
亡くなった隣国の聖魔術師と同じ歳の女性が、光の魔術に目覚めたと申告して来たのだ。
冷静に考えればおかしい。普通魔術の顕現は10代に終わる。20代後半で顕現したという話は聞かない。
しかし、回復魔法が使えるはずの聖魔術師の若い死に、また、まだまだ解明されていない光の魔術と聖魔術の特性上、そういうものか、と受け入れられてしまった。
ただ、光の魔術師を名乗る彼女に魔術検査を行っても、なんの反応も得られなかったことで、初め王宮は懐疑的だった。
しかし、彼女の予言はあたる。
水害を予言し、山火事を予言し、国王のプライベートな悩みにまで言及した彼女に、国はとうとう光の魔術師としての扱いを始めた。
彼女の光の魔術師としての初仕事、王族、つまり僕の成人の儀の祈りを捧げる際に、彼女が予言した。
僕が王になるのだと。
その日から、優しかった兄達は政敵となり、今まで自分の子のように可愛がってくださった王妃様からも、無いもののように扱われることになった。
王族の誰もが納得しない。しかし、国民、貴族は、そして何よりひぃおばあ様の偉業を直接知る父上が、僕を王にと望んだ。
そして、1年。僕が戸惑いながら王太子の名を手に入れてから、最悪の1年が始まった。
1番目の兄は、正当に得られるはずだった王位継承権の譲渡を言い渡されて、心を病んでしまった。心の優しい兄だった。
2番目の兄は、第一王子の継承権について、光の魔術師の予言を精査すべきと主張した。結果、光の魔術師の信者に暗殺されてしまった。正義感の強い兄だった。
3番目の兄は、光の魔術師に、魔術師適性が出ていないことを不審に思い、調査を行なっていた。そして、一つの結果を得ると共に、隣国の外交から帰る途中で亡くなった。盗賊に襲われたとのことだったが、明らかに何者かが手引きした形跡があった。
3番目の兄が得た真実は、兄が亡くなったとしても王宮に届けられるように秘密裏に手配されていた。聡明な兄だった。
そして、真実は晒される。
「『光の魔術師は偽りのもの。彼女が下した予言は全て人為的に下された災害、または、専門家による予測が可能な範囲のもの。王家の秘密については内部に犯人あり。』」
国王陛下が光の魔術師と母上、僕、王妃様を呼びだし、兄から送られた手紙を読み上げた。
「何かの間違いです。陛下!私が、そのような嘘をつくメリットが一体どこに。」
「『そして最大の証拠は、隣国に魔術適性の確認がされた、光の魔術師が誕生したことです。』だそうだ。」
室内の温度が明らかに下がる。
「光の魔術師への憧憬から、嘘を見抜けなかった余の罪は重い。しかしながら当然、光の魔術師と偽り息子達を殺した其方の罪はもっと重い。妃よ。」
顔を青くしながら俯く母上を見て、ああ、彼女が黒幕なのだと、妙に納得してしまった。
功名心の強い母。どうしてこんなことをと、聞くまでもない。
「後継ぎと呼べる王子はもうエドワードしかおらん。国民に不信を持たれては王家の存続にも関わることだろう。光の魔術師は嘘であってはいかん。わかるな。」
「......ええ!ええ、ええ!そうでしょうとも。」
青ざめた顔を期待に輝かせる母、それを、どこか冷めた目で見つめる自分がいた。自分の不問を期待しているのか。不問にされるはずが無いというのに。
「妃よ。どうするのが良いと思うか。」
「......我が国の光の魔術師は、隣国で光の魔術師が誕生する少し前に、持病により亡くなっておりますわ。そうでしょう。」
「ふむ。しかしそうなるとここにおる、我が国の光の魔術師殿は、どういうことであろうか。」
王妃様が、母上に懐剣を手渡す。
この行為が父上からの許しに繋がると、そう思ったのだろう。母は躊躇うことなくその偽物へ刃を振り下ろした。
「何故ですか!我らは一蓮托生、そう仰ったのは貴女ではないですか。何故!何故!」
泣き叫び、喚く、偽物へ、母上は何度も何度も、刃を突き立てる。
そうして、静かになった偽物を確認して、大量の返り血を浴びながら、母上はニコリと父上へと微笑んだ。
「陛下の仰ることに、嘘があるはずありませんわ。」
「うむ。しかし、内部の犯人とは恐ろしい者がいたものだ。余の息子を2人も死に追いやった。エドワード、どう思うか。」
父上から初めて向けられる為政者の目に、背筋に汗が伝う。試されている。国を背負って立つ器かどうかを。
「光の魔術師が亡くなった今となっては、真相は闇の中でしょう。母上、この責任をどう取るおつもりか。」
「エドワード!?」
「魔術師殿が兄を殺した疑いがあるならば、例え光の魔術師であっても裁判にかけるべきでしょう。」
「だって、それは。」
父に目をやる母に、呆れてため息をつく。父は、殺せとは一言も言っていない。
罪が露見して取り乱すぐらいなら、罪など犯さなければ良いのに。
光の魔術師の殺害として、刑にかけても良いがそれでは僕の治世に影響が出る。それらを加味しての采配を、父は求めている。
「あろうことか、貴重な我が国の光の魔術師を殺すなど。錯乱していたとしか思えません。陛下、母上に療養を勧めたい。彼女に国政は荷が重い。」
「療養先はお主が決めると良い、お主の母だ。」
「オートフィリアが良いでしょう。空気の良いところだ。」
精神病棟とは名ばかりの、表では裁けない政治犯を隔離する施設のある土地、領主は王妃様の生家だ。ちょうど良いだろう。
「王妃様がよろしければ、ですが。」
「もちろん。私の息子のお願いですもの。お客様が一人増えることを、嫌がるはずがありません。」
久しぶりに、ニッコリと笑顔を向けられた。
「エドワード!唯一の母をどうして!」
「母上。僕にとっては兄上達も唯一でした。」
息を飲む音が聞こえる。母が血に濡れた手で顔を覆う姿を振り切る。
「エドワード。愚かな父を許してくれるか。」
「父上、僕も罪を背負う立場なのです。王妃様、母に代わってお詫び申し上げます。」
「あなたからの詫びは結構。王は簡単に頭をさげてはなりません。......兄達もそう言うでしょう。」
政敵となっても、他者の目が無いところでは皆、優しい兄たちだった。何故、偽物だと気が付けなかったのだろう。こんなにも母上の近くにいたのに。
心優しい兄も、正義感の強い兄も、聡明な兄もいなくなってしまった。
3人の優秀な兄達がいなくなり、なんでもない僕だけが残ってしまった。
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