1-13 ピンクの髪は大体曲者
「興味深い話をしているね。」
「エドワード王子!」
アレクの声に驚いて顔を上げれば、ストロベリーブロンドの髪に、アメジストの瞳を持つ隣国の王子が立っていた。
「やぁ、アレク、久しぶり。最近はあまり僕の国に遊びに来てくれないな、と思っていたら彼の国にいたんだね。」
「お久しぶりです。長くお伺いせず申し訳ございません。エドワード王子におかれましては、お変わりなく。」
男性とは思えない程可愛らしい、中性的な瞳を蠱惑的に細めて、
「うん、寂しかったよ。」
と、微笑んだ。
見る人が見れば、二人の関係を怪しんでしまいそうだ。
「相変わらず、人をからかうのがお好きなようで。ユリナ嬢、そんな目でみないでくれ。」
「はっ......!失礼致しました。ユリナ・フォン・バークスです。お目にかかれて光栄ですわ。」
顔を真っ赤にしながら口元に手を当てて、ユリナは恥ずかしそうに苦笑した。
「エドワードだ。正式名称は長いからエドと呼んで。そちらの貴女はもしかして、光の君かな?」
「初めまして、リーチェ・フォン・フローレンスです。」
「そう、貴女が。会えて嬉しいよ。」
一瞬の意味あり気な視線の後、紳士らしく手の甲にキスをされた。
「僕のひぃおばあ様が聖魔術の保持者だったんだ。だから、貴女にこの学園で会えるのを楽しみにしていたよ。仲良くしてくれると嬉しいな。」
聖魔術?それが私にどう関係があるんだろう。
「恐れ多いことです。」
答えながらも頭の上に疑問符を飛ばしている私を見かねて、アレクが前に進み出てくれた。
「エドワード王子、彼女は先日階段から落ちてしまい、少し記憶が曖昧なのです。私から説明しても?」
「ふふ、アレク。昔みたいにエド様と呼んでくれないの?」
「ご冗談を。」
げんなりした顔を見せ、アレクが説明してくれる。
「リーチェ、聖魔術と光魔術は同じでは無いか、という研究があるんだ。同時代に二人は現れない、という条件が重なること、聖魔術師が現れる時は光の魔術師は現れないことからそう言われている。」
「そうなのですね。」
私の反応を興味深そうに見て、エドワード王子が首を傾げた。
「本当に記憶が曖昧なんだね。光の魔術師が怪我をして記憶を無くすなんて珍しい。大体回復魔術を使えるんでしょう?」
「彼女はまだ魔術を使いこなせておりませんので。」
「ふぅん。そういうこともあるんだね。」
何かを含んだ目でこちらを見つめる。妙に艶っぽいアメジストの視線に思わず目を逸らすと。エドワード王子は楽しそうに微笑んだ。
「まぁいいや。ね、リーチェ。僕たち友達になれないかな。」
私の手をとり、花も恥じらう微笑みでお願いされて、断れる人が果たしているのだろうか。それがどんなに怪しかろうとも、隣国の王子だ。
「え、ええ、はい。私で良ければもちろん。」
「嬉しい!ひぃおばあ様の話を聞いてからずっと、会ってみたかったんだ。こんな綺麗な女の子なら、なおさら。」
それでも、なんの陰りも無い笑顔なのに、何故か背筋が寒くなるのは、目の奥が笑っていないからなのか。
「また、僕ともお茶をしようね。クラスが違うのが残念だな。」
バイバイ、と手を振ってテラスから出て行くのを3人で見送った後、揃って椅子に腰掛けた。
「びっ......くりしたわぁ。」
ユリナがまだ赤い顔を手で冷やしながら、アレクの方を見た。
「ユリナ嬢、もしかしてエドワード王子が好きなのか。」
「まさか!そんな恐れ多い。ファンなのよ。」
照れながら言うユリナが可愛くて思わず笑ってしまう。
「エドワード王子と誰かがお話しされているのを見るのが好きなの。アレクサンドラ様とのやりとりが、今のところ一番素敵よ。」
おや?雲行きが怪しくなってきた。放心状態のユリナが、自分の言ったことに気づいて慌てて手を振る。
「深い意味は無いのよ!」
深い意味ってなんだ?と首を傾げるアレクと、なんとなく察してきた私の間で微妙に温度差のある空気が流れた。
ユリナは咳払いをしながら、それはそうと、と話を変えた。
「ところで、昔はエド様って呼んでいたって本当なの?」
全然話変える気ないんかーい。
思わず私の中の関西人が突っ込んでしまった。
前回来週の木曜とお伝えしておりましたが、フライングで投稿致しました。
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