1-1 思い出す時は大体強い衝撃で
---あ、落ちる
階段から落ちる瞬間走馬灯のようにこれまでの人生が頭を駆け巡る。
私、リーチェ・フォン・フローレンスが、幼い頃から両親に沢山の愛情を注がれた記憶の断片に、差し込まれるように、「知らない記憶」が重なる。
伯爵令嬢の私が着ることのない、丈の短いスカートを履いて誰かに頭を下げている。のっぺりとした顔の珍しい黒髪黒目ばかりの人々。見たことのない動く鉄の塊。高い建物。この鏡に映った黒髪黒目の女性は誰?
もしかして、私?
「リーチェ!!!」
ああ、一度もお話ししたことのないはずの先輩、ローゼリア・ドゥ・シャルル侯爵令嬢様が私の名前を呼ばれているわ。嬉しい。憧れのお姉様が必死に私に手を伸ばす。
お姉様?オネエサマ?
(ここは?どこ?
どうして全員こんなに派手な髪色ばかりなの?
私はなんで階段から落ちているの?)
ドジな私がうっかり足を滑らせたばっかりに、ローゼリア様に心配をおかけして申し訳ないわ。
目覚めたら謝りに行かなくては。
(ローゼリア?ローゼリアって、悪役令嬢ローゼリア?
私が昨日の夜まで読んでいた?)
......悪役令嬢?なんのことかしら?......え?
その瞬間駆け巡る走馬灯の中で、私は全てを思い出した。
ここは、悪役令嬢が転生して逆転していく、悪役令嬢がヒロインの物語の中だ。
そして、階段から落下中だった私は、したたかに背中を打ち付けてそのまま意識を失った。