困ったように八重歯を見せて笑う夕陽の少女
「やはは、ごめんね。私を殺してもらっちゃって」
人がほとんどいない砂浜に、そろそろ日も落ちて茜色の空が広がり始めていた時間。
150後半の背丈の少女は、砂浜に座っている誰かに向かってそう言った。
少女の外見は緑色の瞳に、アメジストと同じ色の髪を瞳と同じ色のリボンで、サイドテールにまとめていた。白いワンピースを着ていて、ワンピースの裾が水に濡れるのも構わずに海の中へと裸足を入れて、つまらなそうに水を蹴っていた。
そんな少女の言葉に、正面に座って彼女を眺めていた一人の壮年の男性が慣れたようにつぶやいた。
「気にするな。仕事だ」
男がそう返すと、高かった波が偶然少女を包み込んで、避ける暇もなく少女の体を上半身まで濡らしてしまう。ワンピースが夕陽で透けて、彼女が来ている水着が影になって見えた。彼女は困ったように八重歯を見せて笑う。
「やはは……、冷たい」
「平気か?」
「割と。でも、冷たいのは好きじゃないです」
「そうか。なら、こっちへ来るといい」
「そうする」
スキップをするように海から出て、男性の隣に体育座りで腰かける。すると、波の音を聞いているかのように少女が目を細めて黙り込んでしまって、それが居心地が悪くなったのか。それともそうするべきと考えたのか。男の方から口を開いた。
「俺が言うのも難だが……」
「うん?」
「本当に良かったのか」
「やはは……。もう決めたことですので」
「そうか」
「それに、本当に良いか悪いかなんて、私が決めることじゃないから。どんなに良い事をしても、怒られちゃったから。もう私はいい子じゃないってことだし」
「そうか。なら好きにするといい。そう決めたのなら俺からは何も言えない」
「そこで黙っちゃうんだ……ですね」
「……ああ」
元々、男の方が会話が得意ではないのだろう。それだけを返すと、二人は再び黙りこくると、少女の方が静かにうなずいて、彼の隣から立ち上がった。
そして――。