感覚強化
第七三話です。
楽しんでいってください。
『力』を手に入れる第一段階として身体強化の上位互換と勝手に決めつけている感覚の強化ができる魔法陣を創り出し、自分に付与しておくことにする。
過剰な知覚は気分を悪くするだけだとは思うのだが、あるに越したことはない。あったほうが生き残られる状況も迷宮を攻略していくうえでたくさんあるだろう。奇襲に気づけなかった場合、ここの魔物ならばすぐに自分は死んでしまうと確信を持てる。だからこそ感覚を強化しておいて損はなく、妥協はしてはいけないのだ。
魔法陣を創るにあたって魔法言語をある程度知っておくことが肝心なのだが、本能である直感は強化ができない。ほかの、聴覚・嗅覚・視覚は強化することが可能だ。(味覚は戦闘に関係がないので省く)
言語を理解して並び替えるだけといっても魔法陣の大きさはそれぞれに違うので自分ですらどれほどの大きさになるかわからない。身体強化をもとに創ろうと思うのだが、感覚の強化なので単語が二〇〇を越えそうである。魔法陣の直径に換算するとちょうど二メートルくらいだろうか。一つだけでもそれほどの大きさなので、かなりの時間がかかることが予想される。
一つ一つ丁寧に完成させていこうと心に決め、腹ごしらえをしてからペンと紙を取り出して作業に取り掛かる。
作り始めて何時間かかっただろう?一応、聴覚を強化する魔法陣はできたのだが、かなり疲労が体に、脳に溜まっている。これは一度睡眠をとったほうがいいだろうか?疲労を回復する水はあるのだが、これを常時使っているとどんどん人間から遠ざかっていきそうな予感がするのでやめて、睡眠をとることにする。(何回も死んで、生き返っているお前はおおよそアンデットだろうという疑問はいわないでくれ。考えてしまうと精神が死んでしまいそうだ。)
睡眠をとるのは良い事だ。憎悪や怒りを鎮めてくれる。自分にとって今一番幸せな時間だ。みんなに会いたい。家に帰りたい。おいしいご飯が食べたい。苦労しないで生きていたい。趣味で生きていたい。これらの欲望を満たすためには、まず理不尽に打ち勝つ力を手に入れなければならない。そんな『力』を手に入れられるためならば妥協はしない。
自分の力が及ばないならば及ぶように魔法でドーピングなりなんなりすればいい。敵は殺して払いのける。この世界の知識は自分の力の糧として利用させてもらう。それぐらいしなければ理不尽は払いのけられないであろう。だからこそ掲げた決意を心の中で反芻しながら眠りに落ちた。




