『力』を求める
第72話です。
楽しんでいってください。
髪の色が白に変わったのはいいとして、右腕はどうするのかという問題が出てきた。あんなに死んで、体の傷は再生しまくったのに、クマに食われた右腕が再生しなかった。傷だけ再生して欠損は治せなかったのだろうか。よくわからない。まぁ、これまでも左腕だけで生活できていたのだし、そんなに悲観することもないかと思いつつ、再生の魔法陣を開発して右腕をなるべく早く戻すところから始めるとしよう。
『再生』の魔法陣は俺の経験則からかなり巨大な魔法陣になりそうな予感がするのだが、早急に右腕を取り戻そうというほどではないので暇があるときに地道に進めていこうと思う。失ったものを取り戻そうというのだから時間がかかって当たり前だ。
『再生』に並行して迷宮の探索を再開することにした。ここにとどまっていてもあまりいい成果は得られそうもない。もしかすると迷宮の最奥には古代の失われた魔法陣が眠っているという可能性があるかもしれないからだ。その魔法陣から学ぶこともあるだろう。自己の強化ができる機会を失ってしまうのはそれこそ避けるべきだ。
逃げたいだなんてもう一切思えない。どうせ神が逃してくれないだろうし、そもそも逃げ出そうなんて考えられない。俺はこんな理不尽にまみれた世界に放り込んでくれた神を許せない。そもそも、なぜ神ともあろう者が魔族との問題を解決できないのであろう。召喚した時点で何か企んでいることは明白だ。俺たちはサルブ以下、司教たちの口車に乗せられていただけではないのか。そんな疑問が俺の怒りを増幅させていく。
その怒りは、まだ神・司教がお遊びのために呼び出したという証拠が出てくるまでしまっておくとして、『力』が欲しい。なんでもはねのけられるような『力』が。それを手に入れることはたやすくないだろうが、せめて俺の命を狙ってくる奴らを殺せるくらいの『力』が欲しい。
今ならば生きるために他人を殺すこともいとわない。理不尽をはねのけることができないのであれば、自分が理不尽そのものになればそんなものは襲ってこないだろう。
今は確かに矮小で無力なただ一人の人間だが、強くならねばならない。強くならねば理不尽にさいなまれてしまう。理不尽はどうすることもできないからこその理不尽なのだ。どうにかできれば理不尽ではない。だからこそ強くならねばならない。
『力』さえあればいいというものではないのだが、今現在いる場所については『力』こそ必要になってくる場所である。ほかのものは後から手に入れればいい。だからこそ今は何階層あるかもわからないこの迷宮を下って行って踏破することが求められる。
そして俺はここで決意する。
理不尽に勝ち、絶対に生き残って地球に帰ってやる!




