死にたい
第七一話です。
楽しんでいってください。
耐えきれない程の飢餓感がふっと消えた時、僕はやっと死ねたのかと安堵した。こんな希望の無い世界で生きていても何も良い事は無い。だからこそ、希望の無い苦しみから解放してくれた気持ちのいい『死』というものに感謝をしなくてはならない。
『死』、というものは苦しいものだという先入観が消え去るほどの快楽の中に沈んでいく。輪廻転生があるとすればそんなものは願い下げだと言いたい。それほどの快楽なのだ。それにいつまでもおぼれていたいと思ってしまうのはしょうがのないことだろう。
そんな気持ちのいいまどろみの中で体がふと重くなった。気持ちよさから閉じていた目を開くとそこは最近毎日見ていた洞窟の天井だった。
「は?………………………な…ん、で?」
状況が理解できない。もう天国についているのかと思っていった時の突然の裏切りに、怒りが暴発した。
「なんで、なんで!早くこの絶望から解放してくれよ!『俺』には死ぬ価値もないってのか?!何で何で何で何で何で何で何で!!!!早く殺してくれよそんなに天は俺を近くに置いておきたくないのかよ?!なあ!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
喚き散らしながら壁に頭を打ち付けて切った頭から血を流す。何もかもがどうでもよくなり、『異空間収納』の中からナイフを取り出して自分の左胸に突き立てる。痛い、とても痛い。でもなりふり構わず引き抜いては、突き刺しを何回も繰り返す。傷口と口から血がだばだばと流れ落ちる。
すぐに意識が落ちて先ほどのまどろみを迎える。これでやっと死ねると思っていたらすぐに体が重くなって現実に引き戻された。どういうわけか傷口が完全にふさがっていて流した血も戻ってきている。意味が分からない。
「なんでだよ!!はやく死なせてくれよ。なぁ!」
と、俺は叫びながらもう一度胸にナイフを突き立てる。
「あぁ、痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!はやく殺してくれよ!!」
突き立てて引き抜くたびに地面へと血が飛び散る。胸の肉がぐちゃぐちゃになって呼吸をするのもつらいが構わずさらに突き立てる。その結果胸の肉片も飛び散り、地面が凄惨すぎる状態になってしまっていた。
すぐに意識が落ちるがまた体が重くなり引き戻される。
そんなことを何度も繰り返しているうちにもう嘆くのも疲れてしまい、何もする気力が起きなかった。
ふと、喉の渇きを感じて泉のほうへ行き水を飲もうとした。が、その時に水にうつった自分の顔、というより髪に視線が引き寄せられてしまった。なんと自分の髪の毛が日本人特有の黒色から白色へと色を変えていた。
考えられる理由としては、先ほどの継続的な極度の痛みと怒り、それによって色が抜け落ちたと考えられるのだが、真偽のほどはわからない。
どんな理由であれ生活に支障がないのならばそれでいい。こんなことをしてくれた神に恨みを向けながら無様にでも生きていこうじゃないか。




