死にたくないっ!
第四七話です。
楽しんでいってください。
帰ろうと決意した僕はすぐさま自分の創った安全圏へと戻ろうとしたそのとき、ふと後ろの方に気配を感じた。それと同時に何か聞こえてきた。
「フゥ……フゥー……、グルゥ」
え?なんか不穏な鳴き声のような音が聞こえたんだけど、気のせいだよね?
そう思いながら僕は恐る恐る後ろを振り向いた。
…………そこには熊がいた。そう、熊だ。普通のやつとは比べものにならないくらいの大きさの熊だ。爪が異常に伸びて鋭くなっていて、目が赤く光っている部分を抜いたら地球にいる熊と同じといえるだろう。
それをみた僕は呼吸が出来なくなった。もしかしたらここで死んでしまうかも知れないという恐怖感が自分を染め上げたからだ。
自分と熊の間に静寂が訪れる。次の瞬間
「ぐるぁぁぁ!!!」
と、その静寂を熊の世界を揺るがすような雄叫びがぶち破った。
「う、うわぁ!!!」
それに恐怖した僕は逃げようとして尻餅をついてしまった。足下に落ちていた石ころに気付かなかった自分の落ち度だ。
腰を抜かしてしまった僕はもう一度立ち上がる事さえ出来ない。そんな僕に熊が歩きながら余裕の態度で近づいてくる。熊はよだれを垂らしている。相当空腹なのだろう。どうやら僕は生きのいい食料にしか見えていないようだ。
そんな熊に僕は恐怖の涙で顔をぬらしながら後ずさることしか出来ない。後ずさっていると壁にぶつかった。もう熊がそこまで近づいて来ているというのに僕は何も出来ない。
熊が腕を振り上げ爪の切っ先を僕の顔に向けた。どうやらあの爪で僕を切り裂くつもりのようだ。空腹だからすぐにでも食べてしまいたいのだろう。
そこで、さっき生きて帰ると決心したばかりだと思い出した。こんな絶望の中で生き残るというのは少々酷だ。だが最後の抵抗とばかりに僕は横に少し飛んだ。
その瞬間熊の腕が振り抜かれた。直前に僕が動いたことで手元が狂ったのだろう、爪の切っ先が頭に来ず右肩へと向かった。
痛みはなかった爪が鋭かったからだろうか。それともアドレナリンがでていて痛みを感じなかったのか。僕には分からない。だが軽くなった僕の右の肩を見てみるときれいさっぱり肩からしたがなくなっていた。無くなっていることに認識が追いついた事によって痛みがやってきた。
「……ぐ、あぁぁぁぁぁ!!い、痛い!痛い!痛い!痛い!死にたくない!死にたくない!」
これが幻肢痛というものなのだろうか。とんでもなく痛い。これだけで死んでしまいそうだ。
とにかく今は生き残る方法を模索しなくてはならない。もう正常な考え方は出来ないだろうけど…………。




