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王道、ふあんたじぃ  作者: 野月 逢生
第一章 
9/90

きゅう

 林というくらいの木立の間を犬と勢子を先頭に進む。真ん中に子供とご婦人方、そしてしんがりには一人で騎乗している紳士達。


 ネリキリーの前に座るシャルロットは、少し体を強ばらせていたが、邪魔にならないくらいに回りを見回していた。

 前には横乗りで同乗しているアンゼリカ嬢に語りかけているケルンがいる。

 色の濃い生地の女性用礼服(ロゼリア)を着た彼女は柔和な雰囲気の少女だった。


 ネリキリーはくつろいだ気分の自分に気づく。

 森の香りとさざめく鳥達の声。

 その声はいきなり騒がしくなった森の様子に戸惑っているように聴こえた。


「ほら、シャルロット、あの木の枝にこまどり(ラブリィ)がいますよ」

 シャルロットが良く見ようと少しだけ体を伸ばした。ネリキリーは彼女が落ちないように手綱を持つ腕で支えた。

「なんて愛らしい」

「素敵な色合いですよね。知ってますか?こまどり(ラブリィ)はオーランジェットの古語で、愛しいと言う意味なんですよ」

だから、オーランジェットを含めた近隣の国では、幼子や恋人をこまどりに例えたり、こまどりに関したものを送ったりする。

「そうなのですね。(わたくし)一つおおきくなりましたわ」


 林が森と言うのに似つかわしくなって間もなく、森の中に拓かれた空地に到着した。

 日当たりの良いその場所には柔らかな下草が生えていた。

 男達は同乗している女性に手を貸す。

 子供とご婦人方はこの空地で男達と狩りの獲物を待つことになる。

 魔導具で簡易結界が張られると、運ばれてきた卓が設えられた。

 優雅な茶器や手軽につまめる軽食や菓子が並べられ、ご婦人方の席が決まると、男達はそれぞれの馬に再び騎乗した。




 森の中に角笛が響く。


 犬達の息づかいと足音。


 狩りの始まりだ。


 なみあし、そくほ、かけあし。


 気の早い紳士たちが犬の後を追って、脇を駆け抜けていく。


 抜きたくなる心を我慢して、後を追いかける。


 ここは、()()、僕の森じゃない。





 イリギスがこちらに近づいてきた。

 ケルンもその様子を見て駒を並べる。

「なんか、普通の動物もいないな」

「角笛を吹いたからね。普通の動物ならあれで逃げる。魔物は別だが」

 イリギスが少し速度を落として答えた。

「あれって、普通の動物を逃がすために吹くのか。知らなかった」

「ケルンでも知らないことがあるんだね」

「俺の辞書は随時更新中さ」


 しばらく三人で森を探索した。なかなか怪角鹿(エゾック)は見つからない。先に駆けて行った人の数名が射止めた人もいた。


 犬の吠える声が大きくなった。

 怪角鹿(エゾック)が追い立てられている。

 ネリキリー達はすばやく矢をつがえた。


 犬達は賢い。

 三人の方へ獲物を確実に追い込んでいく。


 まだだ。

 と、思った瞬間、ケルンが射った。

 矢は怪角鹿(エゾック)の脇をかすめた。

 矢の勢いに驚いたのか獲物の足が止まる。

 ネリキリーは前足の付け根をめがけ矢を放つ。続いてイリギスも。

 狙い通り、怪角鹿(エゾック)の足が止まり、ネリキリーはするりと先行して獲物に近寄った。


 第二射。


 角と角の間。


 狙いは見事に命中した。


 獲物が倒れて、犬達が回りを取り囲んだ。


 かなり大きな怪角鹿(エゾック)だった。

 立派な角は薬にもなるので珍重されている。ネリキリーはすばやく内臓を取りだし、血抜きをした。取りだした内臓は犬に与える。

「どこかに水場はないかな」

「なんで?血を洗うのか?」

「腐敗防止に冷やすんだよ。僕は冷却魔法はあまり得意じゃないし」

「私がやろう」

 イリギスが申し出てくれる。その間にネリキリーは血で汚れた手と小刀を布で(ぬぐ)った。

 魔法をかけてもらい、勢子の一人に仕留めた怪角鹿(エゾック)を渡す。


「なんか、俺の出るまくないな」

 傍らで作業を見ていたケルンが言った。

「一番最初に怪角鹿(エゾック)の足を止めてくれたじゃない」

「あれは狙いが外れたんだよ」

「でも、それで狙いが定まった」

 イリギスの言葉にネリキリーもうなずく。

「それに、出発前にこの辺りに住んでる人から、怪角鹿(エゾック) の急所を教えてもらってたから 」

 ネリキリーは獲物の急所を指した。

「なんで、俺に教えてくれなかった?」

「だって、ケルンはアンゼリカ嬢に夢中だったじゃない」

 ケルンは黙った。イリギスは含み笑いをしていた。

 ネリキリーもからかいの笑みを浮かべた後、


「初めてで、こんなに上手く狩れるなんて、僕ら割りと凄いんじゃない」

 と普段はまったくやらない自画自賛をする。


「まあ、ネルはけっこう凄かったよ。逞しい感じ。令嬢方もおまえを見直すのじゃないか」

「そうだな。予想以上だった」

「でも、令嬢達は狩りに参加してないじゃない。……だから、印象は変わらない」

「お前、今ごろ気づいたの?」

「ケルーンー」

 ネリキリーはケルンを小突く振りをした。

 ケルンはおお、(こわ)と馬を走り出させた。

「いいじゃないか。お前の良さはシャルロット嬢が解ってくれてるだろう」

「それはうれしいけど」


 シャルロットはかわいい。それは間違いない。

 だけど、同年代のご令嬢にだって認めて貰いたい、もうじき15歳のネリキリーだった。



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