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王道、ふあんたじぃ  作者: 野月 逢生
第一章 
6/90

ろく

 それ以後、三人でいることが多くなるのは自然のなりゆきだった。

 

  イリギスは次の魔法学の授業で、蝋燭に火を点け、オルデン師に新しい魔導式を展開して見せた。

  ネリキリーの助言の話も添えて。

  イリギスの成績評価、評判はもちろんのこと、ネリキリーのそれも上がった。


  (ケルンの評判も上がったが、それはイリギスに対した大胆な行動が英雄的だとされたらしい)


 イリギスは表面的には固いが中身は柔らかい。

 いきすぎることはないが、おふざけも乗ってくれたりもする。

 女性に関してはすごく堅物だが、めちゃくちゃに優しかった。


 ある時、ネリキリーはイリギスと共にケルンの家に招待された。


 子供の頃、田舎の友達の家に行った時とは、訳が違うと感じたネリキリーは、どうしたらいいか二人に相談した。

「そんなしゃちほこばることないって、普通の家だし」

 ケルンが言った。


「でも、いつも君のお姉さんが送ってくれている菓子を分けて貰っているし」

「そうだね。なにかしらお礼を差し上げたい。ご兄弟やご姉妹は何名?」

 イリギスが同調してくれた。

「うーん、そうか。」

 ちょっと悩んだあと、ケルンは楽しげに言った。


「姉が二人に妹が一人」

「では、花束を4つですね」

「4つ、何で?」

 とケルン。ネリキリーも疑問に思ってイリギスの言葉を待った。

「ご訪問する家の令夫人には、礼をつくすべきですから」

 なるほどケルンのお母様にもか。とネリキリーは思った。

「俺も今後、参考にするわ」

 ケルンも同じことを思ったらしかった。


 ネリキリーとイリギスはケルンの母と二人の姉と一人の妹にそれぞれ花束を携えて行った。

 しかし、そこでイリギスとの育ちの差をまた感じてしまった。


 ネリキリーも花束は持っていったが、気の利いたお礼の言葉を書いた手紙なんて、田舎者のネリキリーには無理な相談だった。


 後から確かめると、花に手紙を添えるのは、オーランジェットの風習とのこと。


「参考にするわー」

 とケルンはまた言っていた。



 ケルンの家は外見はかなり質素だった。

 しかし、内装は凝っていた。別に金ぴかで豪華絢爛というわけではない。

 質も趣味も良い物を過剰にならない範囲で使っている、とイリギスが評していた。

 ケルンの家族も気持ちの良い方で、オーランジェットの貴族であるイリギスと田舎の農民の子のネリキリーとを分け隔てなく扱ってくれた。


 もっとも、端麗で、優雅なイリギスに女性達はうっとりとしていた。

  ケルンの家に訪問後、ケルンに送られてくる菓子の量が皆様へとの伝言つきで四倍に増えた。

 ケルン曰く、イリギスは紳士的な女たらし、らしい。


 ケルンは人当たりが良く、おふざけも好きだった。だが、物事をどこか醒めたように見るところがあることも、ネリキリーは次第に分かってきた。


 冷たい人間と言うわけではない。


 常に両面から見ることを忘れない、商人の資質と言うやつだろうとネリキリーは解釈していた。


 女の子と甘いものには目がなかったが、あまりモテていたわけではない。その理由をよく

「隣にお前らがいるからだ」

 とイリギスとネリキリーのせいにしていた。


 イリギスは

「女性は賢いから、自分の身が安全か、相手を信頼できるか判断しているのだと思うよ」

 と答えていた。


「安全な男なんて、男じゃない」

「ああ、そのあまりに即物的なのが、君の敗因だね。目的のためには擬態も必要だよ」

「その言葉、女達に聞かせてやりたい」

「私は令嬢(ベッラ)達に下心はないからね」

 君のことだけさ、とイリギスは余裕で笑っていた。

 


 ネリキリーはケルンによると女性達から評判がいいということだったが、実感はなかった。

「君は警戒心を与えないからね」


 ケルンではないが、それは男としてどうなんだろうとネリキリーは思った。そのケルンがさらに追い打ちをかける。

「姉さんが、ネルはギュと抱きしめて、可愛がりたいとか言っていたな。小動物みたいだって。可愛がられる?」


 ネリキリーは、可愛らしいと昔から言われていた。

 よく、子犬に例えられていた。

 しかし、15になろうというのに小動物と言われるとは。身長が平均より低いからだろうか。

 ネリキリーは頭を抱えたくなった。


「ショボンとするなよ。ネルは真剣な顔をするときは男らしく見えるぞ」

「それっていつさ」

「魔法の模擬戦とか、弓や闘技の訓練とか?そうだ。来週、狩りに誘われていたじゃないか。印象を変える機会だぞ」

 ネリキリーの落ち込みように、ケルンが二学年上のドーファン先輩に怪角鹿(エゾック)狩りに誘われていることを言い出した。


「訓練で闘っているときのネルはなかなか精悍に見える」

 イリギスが受け合あう。

「そうかな」

「イリギスの言う通りだ。なかなか男らしいぞ。よし、来週は女達に、俺達の逞しさを見せつけてやろうぜ」

「でも」

「断るなんて言わないよな」

「私もカロリングでは初めての狩りだから、知り合いが一人でも多いと頼もしく思う」


 二人の言葉にネリキリーは押されて、狩りに行くことになった。

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