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五じゅうご

 クックルが放されたとたん、マラニュが長弓を空に向かって射ようとするのをネリキリーは止める。


「待て、誘き寄せる前に打ってどうする」

「短弓が射程距離が短いからって、止めるなよ」

「やつらは賢い。数が少ない時に打てば、不利と判断して逃げるかもしれない」


 ネリキリーは言うが、マラニュはなおも引き絞ろうとした。

 ネリキリーは相手の腕に手をかけた。マラニュは振りほどこうとして、動作が遅れる。


 紅烏(ベンガラス)達が一斉に大きく鳴いた。

 ネリキリーは手を離して、スプラウトの背に乗る。

 長弓が放された。

 紅烏(ベンガラス)が射ぬかれた。

「まずは一羽」

 マラニュの得意げな声がする。


 空の紅烏(ベンガラス)が大きくはばたく。


 馬上からネリキリーは矢を右手につがえてベンガラスを射た。


 ネリキリーの矢も当たる。


 地にいながらに、離れた飛ぶ鳥を落とすことができるのが弓だ。


 マラニュは、初めの位置と変わらない位置に立ち、第二射を放っていた。


 瞬く間に、5羽の鳥がいなくなる。

 マラニュが3、ネリキリーが2。


「手応えがないな」

 離れた位置から大きな声でマラニュが言い放つ。


 それに呼ばれた訳でもないだろうが、北の空に紅い鳥の群が現れた。


 百、いや百五十はいるか。


 マラニュが群に矢を射かけた。

 一羽、二羽は仕留め、三羽目で外す。4羽目、命中

 なかなか見事な腕前だ。


 しかし、ベンガラスは群をいくつかに散開させる。

 一つの群が、マラニュに急降下し、他のベンガラスは養鶏場にいるクックルを襲おうとする。


 クックルが庭を逃げ始めるが、三羽ほどは玉子を生むために動けずにいる。


 そこに襲いかかる紅烏(ベンガラス)の群。


 これを、待っていた。


 ネリキリーは矢を弦の右手に番えて、次々と放つ。


 放つ度に紅烏(ベンガラス)が墜ちていく。


 短弓の長所はその速射性にある。

 長弓のおおよそ二分の一の早さで射ることができる。


 ネリキリーは子供の頃から体が小さかったので、それを補うべく速さを磨いていた。

 ゆえに、他の冒険者より、やや速く射れた。


 取って、つがえて、狙って射る。熟練者の目安である2秒をわずかに切る。


 ほんのわずかの差だが、積み重なれば、大きな武器だ。


 短弓の射程距離は短く、100ダレヌから150ダレヌほど。


 しかし、鳴き声が聞こえるほどの距離ならば、当たれば骨にも突き刺さる。

 固い頭蓋骨さえ突き破るのだ。生身に当たったら、どんな場所でも、無傷でいられるわけはない。


 弓は敵に接近しなくても良い上に、かなり威力がある。だからこそ魔物狩りだけではなく、稀に起こる人同士の戦いに用いられてきた。


 冒険者を希望する人間が、必ず扱えなければならない武器。それが弓矢だった。


 そして、馬を駆って射るなら、長弓より短弓が扱いやすい。


 ネリキリーは、紅烏(ベンガラス)がクックルから離れ、上昇するのを見越して矢を放つ。


 命中だ。


 紅烏(ベンガラス)がこちらに向かってくる。紅い羽根を広げて。


 速射、そしてまた、速射。


 三十本入っていた矢筒がたちまち(から)になる。


 次の三十本。


 敵は警戒してこちらに向かってこない。視線の先に追われているクックルがいた。


 ネリキリーは、逃げるクックルを追う紅い烏の後ろから矢を放った。


 紅い羽根が散り、より鮮やかな鮮血が飛散する。


 これで31羽。


 横目で見れば、グッチオ達が槍でマドレーヌやリーエイト夫妻達に近づいた紅烏(ベンガラス)を屠っていた。


「獲物を盗るなよ」

 ネリキリーは冒険者達に声を放つ。


「なら、早く狩り切れよ」

 バンスタインが笑い声を交えながら応えた。


 そう応酬しながらもネリキリーは二本の矢を続けて放った。


 マラニュが視界に入る。


 長弓を大きく引き、一気に解き放つ。近づいていた敵が、二羽、串刺しにされた。


「お見事」


 脇を駆けながら、声をかけると、マラニュは次の矢を番えながらこちらを睨み上げた。


 勝気な目だ。


 髭を生やしているのでわかりにくいが、意外に若いのかもしれない。


 空の上の紅烏(ベンガラス)が高く鳴いた。


 赤い鳥たちが一斉に上昇して、大きく羽ばたく。


 熱い風が巻き起こり、地上にいるものたちを襲う。


 1APS Duc mag// Ara FRG //cons Vent// FRG InImI


 烏の羽ばたきに被せるように魔導式を展開して、ネリキリーは冷たい風で熱風を相殺した。


 身近にいたクックルも無事だ。


 コナーやグッチオ、カレヌも紅烏ベンガラスの魔法を相殺して、見学者たちとクックルを守っていた。


 マラニュを見ると、展開が遅れて少し熱風を被ったのか、顔をしかめていた。


 その一瞬の隙を一羽の紅烏(ベンガラス)が襲う。


 ネリキリーはマラニュの頭上の紅い(とり)を射ぬく。

 羽が舞って、マラニュの髪を飾った。しかし、彼はこちらは見なかった。


 それでいい。


 マニュラの弓弦が鳴り、熱風のお返しをする。


 ネリキリーも弓をうならせて、またも紅い羽根を散らせる。


 また、先ほどの烏が鳴いた。一回り大きいあの烏だ。


 紅い線を引くように紅烏(ベンガラス)は高く舞い上がり、逃走を開始した。


 ネリキリーはスプラウトの胴を蹴る。

 疾駆を始めるスプラウトの上から、矢継ぎ早に射かけた。


 マラニュも追い矢を放っている。射程距離が長い長弓は逃げる敵に対して有利だ。

 敵が次々と貫ぬかれていく。


 ネリキリーはスプラウトを駆って、柵の外へと飛び出した。


 逃げる紅烏(ベンガラス)を追う。


 あの、鳴いていた一回り大きい紅烏(ベニカラス)を射止めなくては。

 あれが群れの頭だ。


 大きく揺れる馬上からネリキリーは矢を番えた。最大に弦を引き絞る。


 行け。


 ネリキリーが描いた軌跡を辿って、矢が紅い烏に向かっていく。


 突き刺さる、


 二本の矢。


 マラニュの矢がほぼ同時に敵を射抜いていた。


  紅い躯が大地に音を立てて墜落する。


「やるじゃないか」


 呟きながら、ネリキリーは新たな矢を矢筒から引き抜いた。


 

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