四じゅうろく
目を覚ましたネリキリーは部屋の中に違和感を覚えた。
人の気配がない。
ネリキリーは身を起こして周りを見回す。
しかし、求めた人の姿はそこには無かった。
そうだ、ここは高等学院の寮ではない。
ネリキリーは瞼を瞬かせた。目頭がかすかに濡れている。
幸福な思い出の残滓がそこにはあった。
あの十五の春からどれくらいたったろう。
時を数えそうになって、ネリキリーは頭を振る。
思い出に沈没するにはまだ早すぎる。故国は遠くとも、ネリキリーは生きている。
夢見ていた学問の道ではなく、オーランジェットの冒険者として。
ネリキリーは寝台から降りて、洗面所に向かう。
流れるのは温かいお湯。自らの魔力を使わなくても道具に流れている魔力でお湯がでてくることに、ネリキリーははじめ戸惑ったものだ。
思い出の残滓を洗い落として、ネリキリーは自らの顔を鏡で見た。
子犬のようなと言われた顔は日に焼けて、かつての面影をほとんど失っていた。
少し伸びた髭をさすり、まだ大丈夫かと、低く呟く。
かつてはあれほど生えて欲しいと思ったが、今では少々、面倒になっている。
部屋に戻れば、もう日が暮れようとしていた。
掛けてあった上着をはおり、ネリキリーは西日射すメーレンゲの町へと出て行った。