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王道、ふあんたじぃ  作者: 野月 逢生
第一章 
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よんじゅうよん

「今日はみなさんにお知らせがあります」

 ネリキリーとルベンス講師が席に着くと、おもむろにファンネルは言った。

「もうすぐ春になります。三月(カインド)の終わりにここを薬茶店(ヴァリア)として、開業します」

「それは前から言っていただろう?」

 ルベンス講師は肉団子を口に運ぶ。

「ええ、ここで働いてくださる方が現れまして」

 ファンネルはとても上機嫌だった。

「やっと人を雇うのか」

「それだけじゃないです。実は、ライサンダー夫人がオテツダイをして下さることになりました」


「却下」

 ルベンス講師が即座に言った。

「なんの権利でお前が却下する」

「常識はずれだろう。例え未亡人だとしても、男の一人暮らしの所へ妙齢の女性が、働きにくるなんて。わかった。俺もここに住む」

「それこそ、おかしいだろ。なんでピットがここに住むことになるんだ」

「今だって月の3分の1はここに泊まっているんだ。かまわんだろう」

 ルベンス講師はそんなにメルバ邸に入り浸っているのか、なら、本当に住んだほうが良い気もする。


 が。


「ライサンダー夫人は毎日、通われるのですか?」

 ネリキリーが質問すると、よくぞ聞いてくれたとファンネルが答えた。

「まさか。週に一回ほど、薔薇の手入れをしてくださるだけです」

 そんなところだろうと、ネリキリーは思った。

 ライサンダー夫人は、植え替えられた薔薇が気になるのだろう。


 ロサ・ラウィニア。

 ライサンダー夫人の名前が冠された薔薇。

 彼女に思い入れがあるのは当然だ。


「なんだ、週に一度か。いや、それでも問題か?」

 ルベンス講師が声をだす。しかし、先ほどの勢いはなかった。

「ご夫婦で住み込みで働いてくれる人も見つかりました。来週には来てくれるそうです」

「それは良かったですね」

 ネリキリーは心からそう思った。自分とルベンス講師が手伝っていても、店を開いたあと、この屋敷を維持するのは無理そうだったから。


「それで、三月の第三土曜日にお披露目の会を開きたいのだけれど、ネリキリー君は時間がとれるかな?」

 三月の21日から愚者の楽日(クラウン・アルデス)までは春の休暇期間だ。

 指定された日は、休みに入って2日目だ。

 故郷の様子が気になるので、帰ることを決めていた。

 でも、少し伸ばして、お披露目の翌日に向かえばいい。そして、30日に王都へ戻る。


「大丈夫です。ぜひ参加させてください。その時には高等学院(リゼラ)の友人を呼んでもかまいませんか」

「もちろんだよ。アンゼリカ嬢に、ライサンダー夫人、来てくれるなら、シャルロット嬢もお招きするつもりだ。それから、オルデンご夫妻とディゴヤ師もね」

 ファンネルは招待客の名前を次々と上げた。


「俺は?」

 ルベンス講師が手をあげて問いかけた。

「ピットは呼ばれなくても来るだろう」

「まあ、来るが。どうせ、招待客というより、裏方で、なんだろうな」

 ルベンス講師は昼食の最後のひとかけらを口に運んだ。

「当たり前だろう。さっき自分でも言っていたじゃないか。ほぼ住んでるも同然だって」

 そういわれて、ルベンス講師は「ほんとに住んじまおうかな」と洩らした。





「そんなわけで、三月の第三土曜日をあけておいてくれると嬉しい。イリギスは大丈夫かな?」

 この中で一番、日程が取れなさそうなのはイリギスだ。

「かまわない。もともと今回はオーランジェットには戻らない予定だった」

「そうなんだ。良かった」

 ネリキリーは以前に、ファンネルに会わせるのを待ってもらった経緯がある。

 イリギスが招待に応じてくれることに安心した気持ちになった。


「ケルンは大丈夫だよね」

「俺の家は王都にあるからな。時間をやりくりするさ」

「忙しいの?」

 ケルンの返答にネリキリーはすこし戸惑った。ケルンは一も二もなく、応じてくれると思っていたからだ。

「王都にある店の一つの帳簿の確認を任せてもらったんだ。このところ、ちょくちょく家に帰っているのはそのため」

 初耳だった。ネリキリーは目を丸くしてケルンを見た。

「もう店を任されてるんだ。すごいね」

「帳簿の確認っていったろう?人が付けてくれた帳簿を勉強のために見せてもらっているだけだよ」

 たいしたことじゃないと装うところはやっぱりケルンだ。


「ところで、ネル。私からも話があるのだが」

 イリギスが少し言いよどむ。何だろうとネリキリーは顔を向けた。

「この春の休みに、また君の村へ訪問したいのだが、かまわないだろうか」

 意外な話だ。あんな辺境の村にまた来たいなんて。

「良いけど。どうして?」

「まだ、ロマがいるだろう?久々に手合わせをしてもらいたい」

 そういうことか。ロマはイリギスの剣の師だ。前回はいろいろあったから、二人は魔物についての対応に忙しくて、ゆっくり話もできなかった。フィフ達がいたのも原因のひとつだろうが。


 そして、

「イリギスが行くなら俺も行く」

 ケルンが言いだすのは自明の理だった。

「店は良いの?」

「今だって、寮にいるから、携わるのは週に1度だ」


 ケルンが来たいならそれも構わない。

「何もないところだよ。北のほうだから、まだ寒いし。それでもいいなら」

 ネリキリーが確認すると、二人は大きくうなづいた。

 

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