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王道、ふあんたじぃ  作者: 野月 逢生
第一章 
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よん

王立高等学院(リゼラ)は全寮制である。


 古いが、よく磨かれた廊下。

 階段を上がり、指定された部屋へ入る。

 先住者が立ち上がって彼を出迎えた。


「やあ、僕はケルン・ランバート、よろしく」

  垢抜けた私服を着た少年がネリキリーに手を差し出した。


 王立高等学院(リゼラ)の思い出は、そのほとんどが寮で同室だったケルン・ランバートと共にある。


 シュトゥルーデル商会の跡取り息子らしい垢抜けた様子に、初めのうちこそ気後れしたネリキリーだが、気さくで明るいケルンの気性にすぐ打ち解けた。


 級友は貴族を含む上流階級が半分、平民が半分。

 しかし、身分差による軋轢はあまりなかった。

「そりゃ、圧倒的な天上人がいるからさ。なまじっかな家柄なんてひけらかせるものじゃないからな」

 ケルンは目線をそちらに投げて言う。


 (くだん)の人物の名は、イリギス・グラサージュ。

 盟主国オーランジェット王国の名家グラサージュ伯爵家の長男である。

 家柄だけではない、容姿も頭脳も身体能力も一流中の一流。

 寮の部屋も貴賓室の一人部屋である。

  いつも何人かの取り巻き(主に貴族の)に囲まれていた。

 平民であるネリキリー達は、その高い壁に阻まれて、交わすのは挨拶ぐらいのものだった。



 その二人と一人が交わったのは、学院に入って半年後。新しく始まったオルデン師の魔法学がきっかけだった。


「魔法といっても、物理的な法則をすべて超越するわけではないのです」

 見本としてオルデン師は、蝋燭に火をつけた。

「火を点けるには体に貯めてある魔力を燃やしたい媒体にぶつけて熱くします」

 火を点けるのは魔法の基礎である。 そしてカロリングで魔法と言えば、火を点けることといっても過言ではない。初等教育の終わりに絶対に身につけさせられる魔法だ。高等学院(リゼラ)では、その理論とさらに効率的な方法を学ぶ。


「火をより強く燃やすなら、酸素の供給を増やします」

 炎が少し大きくなった。

「例えば、上級魔術師は小規模な爆発を起こすこともできますが、それは火を点ける、酸素をおくる、空間を閉じて圧縮するという3つの魔法を同時に行っている結果です」

 オルデン師はイリギスに視線を向けた。

「偉大なる魔法を伝承するオーランジェット国でも、上級魔術師は数名しかいません。上級魔法の取得はそれだけ難しいのです」


 火、水、風(空気)、土、それに光。闇とは光がないことを指すので、魔法学上は元素ではない。

 他に治癒などを行う生命魔法がある。

 また、禁忌とされている黒魔法と呼ばれるものの多くは、生命魔法と精神に働きかける魔法である。


「人の魔法で無から何かを創りだすことはできません。

 魔力は在るものに働きかける力。

 例えば、水を作り出すのは、魔力で空間を遮断。中の熱を奪い、冷やすことで、水蒸気を水に変える。火を点けるより魔力を要するし、空気中の水分は限りがあるのでほとんど使われていないのです」


 風(空気)と土に力を加えるのはより大きな力を必要とする。

 土はその土地の性質も考慮にいれなければ、魔力が上手く働かない。

 光は扱いが難しく、扱うのに適性が必要である。

 生命魔法に至っては、適性の問題と治療についての理解が必要になってくる。


「人間の魔力には限界があり、その中でいかに安全に効率よく使うかが大切であるわけです」


 オルデン師はいくつかの魔導式を板書した。

 魔導式を理解することは、漠然と魔法を使うより、効率よく魔法が行えるようになると説明してくれた。

「魔導式の暗記と実践を諸君らには徹底的に行ってもらいます」


 蝋燭に火を点ける。

 蝋燭の炎を大きくする。

 炎を消す。

 それを繰り返す。


 今までと違うのは魔導式を思い浮かべるか、だけ。

 数式を暗記するのに戸惑った者もいたが、みんなすぐに慣れた。

 ただ、イリギスだけ火を点けずにいた。


「どうしました?一度も火を灯していないようですが」

 オルデン師が問いかけた。

「式の理解が足りないのでしょう」

 イリギスは軽く頭を振って答えていた。

「イリギス君は何か一つの元素に特化していますか?

 元素の一つに著しく親和性が高いと他の元素が上手く扱えない場合があるのですよ」

「そのようなことはないと思うのですが」

「まあ、火を点けるのは使用人の仕事ですからな。普段行わないことなので感覚が思い出せないのかもしれませんね」


 授業が終わって取り巻き達が口々にイリギスを慰める。

「誰にだって調子が悪い時はありますよ」

「慣れだよ。僕も最初はちょっと苦労したし」

 イリギスは自分の不手際をあまり気にはしていないようだった。


 しかし、次の授業でも、その次の授業でもイリギスの蝋燭に火が灯ることはなかった。

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