じゅう
幸先は良かったが、その後はなかなか獲物が見つからない。
途中、ドーファン上級生達の一団と行き合った。
「成果はどう?」
回りに大人達がいないためか気さくな言葉使いだった。
「ネリキリーが一頭仕留めましたが、その後はさっぱりです」
「三人でかかってやっと一頭です」
ネリキリーはイリギスの言葉に補足を加えた。
「初めてにしてはやるではないか、なあ、みんな」
上級生達は狩りの成果が上々なのか、機嫌良くネリキリー達を誉めてくれた。
「そちらはいかがでしたか?」
ケルンが尋ねる。
「私が三頭、クルトン、セーブル、フォークが一頭づつ。ボトルは残念ながら、仕留められなかったが、私が仕留めた三頭のうち、一頭にまず矢を当てたのは彼だ」
「さすがですね」
ネリキリーの口から素直な称賛の言葉がもれた。
「私たちの年になれば君たちも、これくらいできるようになるよ」
ドーファンは笑みを深くして言った。
昼を少し過ぎていたので、ネリキリー達はドーファン上級生達と共に空地へと戻ることにした。
何人かの大人達も戻っていて、軽食を食べながら狩りの成果を話していた。
シャルロットがめざとくドーファン上級生とネリキリー達を見つけて近づいてきた。
「ドーファンお兄様」
「シャルロット。いい子にしていた?」
「私はいつもいい子ですわ」
つんとした口調でいっても、それがまた愛らしい。ドーファン上級生もそう思ったのか、声を立てて笑いながら、そうだったな、とシャルロットの言葉を肯定する。
「ネル、怪角鹿を仕留めたのですって?すごいわ」
「みんなの協力があったからです」
「でも、すぐに自分で処理をしたのでしょう?スーチャが言ってたわ。完璧だと。まるで本物の狩人みたいだって」
どうやら獲物を預けた勢子は、シャルロットに一部始終を話していたようだった。
「シャルロットは私たちの成果は知らないの?」
「知っておりますわ。6頭でしょう?でも、お兄様がたが狩りが上手なのは知っておりますもの」
だから、わざわざ口にしないのだと言外に言う。
最上の誉め言葉をシャルロットからもらったドーファン上級生達は満足げにした。
男というものは、自分の優れたところを誰かに認めて貰えたらうれしいものなのだ。例え、7歳の少女からでも。
ドーファン上級生が、シャルロットに令嬢達のところへ行こうと促した。
シャルロットはネリキリー達と居たそうな顔したが、黙って従った。
彼らに声が届かなくなったことを見計らって
「シャルロット嬢、あれは将来、男達をきりきり舞いさせるね」
「ケルン」
「しかも、無邪気で無意識。あの可愛らしさだし、ボート伯爵夫妻を見れば将来スラリとした美人になること間違いなしだし。」
「ケルン」
イリギスが二回、ケルンの名を呼ぶ。
ネリキリーも目に力を入れてケルンを見詰めた。
「恐い顔するなよ。俺は誉めてるの。あのまま育ったら、俺の好みにど真ん中だし。ちょっと生意気で気丈で、賢くて、男を振り回すような、でも、一途で芯が強くて優しい高嶺の花が俺の理想だし」
あ、もちろん美人で、とケルンは続けた。
「理想が高すぎない?」
「高いからこその理想なんだよ」
「君の理想はともかくも、まだ7歳のシャルロット嬢にそのようなことを言うのは感心出来ない。反省と自重を要請する」
「同じく」
ネリキリーはイリギスの言葉に賛同の挙手をした。
シャルロットに対してなんて失礼なと、半ば本気で怒っていた。
「解った。悪い、反省する」
さすがにネリキリーとイリギスの怒りが伝わったのか、ケルンは神妙になった。
「そうか。なら良かった。だが、君の言う高嶺の花は今の君では到底、手が届かないぞ。それから、君は狩りで体を痛めたから、帰りはネルの馬で帰るようにアンゼリカ嬢のご家族に話をしておく。シャルロット嬢は私が引き受ける。かまわないか、ネル?」
「いいよ。イリギスならシャルロットも安心だし、喜ぶのじゃない」
「なにそれ」
「嫌なら、先ほどの言葉、ドーファン上級生に話しても良いが?」
「わかりました、仰せの通りにいたします」
見るからに萎れたケルンだったが、ネリキリーは同情しなかった。