いち
おおらかな気持ちでお楽しみにいただけたら、嬉しく思います。
万が一の保険として、別立てで、最終話までのあらすじを、先の日付で予約投稿しております。
空の王たるは誰や?
速き翼もつ天馬か。
猛き鷲獅子か。
死しては甦るフェニクスか。
否、否、否。
見よ
昼夜を飛びゆくかの勇姿。
硬き鱗のその四肢と
力強きその両羽
爪は名工の剣の如く
眼差しは輝ける星さながら。
大いなる声は生あるものに
畏怖と安堵を授けたり。
幻獣の王たる竜、ドラゴーン。
かこそが、空の支配者。
そんな古詩を思い出すような風景に彼は見入った。
旋回していた天馬が西へと飛び去っていく。
「さすがは始まりの町、メーレンゲ」
幻獣の国と呼ばれるオーランジェットに来て一年。
幾度となく見た光景だが、見るたびに故郷との違いをネリキリーに感じさせる。
幻獣達が飛び立った先は、町の西に広がるクレーム平原。彼の現在の狩場でもある。
「さて、俺も行かないとな」
誰ともなく呟くと彼は身を翻して
【ようこそ、勇気ある諸君】
と書かれた扉を開いた。
「おはようございます。ネリキリーさん、いつも早いですねー」
明るく響く少女の声に、彼は軽く手をあげて応えた。
メーレンゲの町の冒険者組合の受付嬢にして看板娘マドレーヌは、彼の無言の挨拶にも笑顔を返してくれる。
彼、ネリキリー・ヴィンセントは、依頼が張りつけられた木版に向かった。
一番数が多いのは、シュガレット草の採取。
これを使わない魔法薬はないうえ、足がはやい薬草だから需要も多い。
これは組合がまとめて受注してある恒常依頼である。
が、数をこなせば中々の金額になる。
次はフラウ蜂の蜜の採取。
大人しいフラウ蜂だが、寄生生物のルッカルッカが付いていたら厄介だ。
ネリキリーの目を引いた依頼が一つあった。
クックルの玉子だ。
依頼の数は、20個。報酬が相場よりやや高い。ただ、期限が明日まで。
初心者であり、単独行動のネリキリーの階級にあう依頼はこれくらいだった。
「マドレーヌさん、この3つを受ける」
張りつけられた紙を剥がして、自分のギルド証と共にマドレーヌに差し出す。
「はあい」とマドレーヌは紙を受け取って、承認の玉をそれらにかざした
階級との格差があれば、赤か黄色に玉が光る。
承認なら緑。
赤は契約不能。
黄色は一考せよとの警告。この場合、装備品の変更やチームを組んだりすれば受けることができる。
今回はむろん緑。
「クックルの玉子の依頼を違約された場合、依頼金額の1割をお支払いただくことになりますが、よろしいですか?」
ネリキリーは黙ってうなずき、承認の玉に手を置いた。
彼の魔力が、契約の魔法を呼び出し、依頼票とギルテ証を結びつける。契約が完了し、玉が元の透明に戻った。
「契約が成されました。では、速やかに完遂させてくださいますように」
マドレーヌが言いながら、ネリキリーにギルテ証を返してくれた。
彼は、ああ、と返して組合から出た。背後にマドレーヌの呟きを聞きながら。
「ネリキリーさんは、いつもながら慎重ですね」