邂逅~ボーイミーツ美少女の強めのタックル~
世界が滅びる日だというにもかかわらず、もしも美少女と運命的な出会いを果たしてしまったら一体僕はどうするだろうか。
彼女と永遠に過ごせるように世界を崩壊から救うだろうか?それとも崩壊していく世界の中で最後の瞬間を共に過ごすのだろうか。
BD, Before Disaster...
200X年、4月1日。
朝のTVニュースでは有名大学の入学式に向かう新入生や入社式で洒落っ気のないシンプルなスーツを着て入社式に向かう新社会人たちが今の心境をインタビューされている映像が流れていた。
彼らに共通しているのはこれから始まる未知の新生活への期待と不安感を抱いている。心の中では不安感の方が大きいが周囲から祝われているので何となく顔が綻んでいること。
それと大学受験を終えている。ということだ。
テレビを消し、口の中に残る食パンの残骸を麦茶と共に喉へ流し込む。
携帯を充電器から外しポケットに突っ込む。
ネクタイ、校章、カバン
必要なものを身に着け自転車を漕ぎ出す。
僕も一年後にはどこかの、いや志望校の大学の入学式に赴いているのだろうか。
僕は今日から高校3年生になる。学年の数え方が2から3に増えるという単純な話ではない。
「受験生」という新たな呼び名が付与されるのだ。
受験勉強というものは人によっていつから始めるかはそれぞれだ。高校に入学した時から志望校見据えて真面目に勉強に励む者、高校3年の夏、爽やかに部活動を引退し運動漬けの生活から一転勉強漬けの生活に変わる者、なかには幼少期から一流大学への英才教育を受けてきた者もいる。
僕の場合は上記のどれにも当てはまらず、かといって不真面目なわけでもなく、都度ごとの実力テストで目標大学への合格率を上げるべくあくせくしながら、しかしながら頑張ってはいるものの学年上位として廊下に名前が掲示されることもないような勉強をしてきた。
だがやはり「受験生」といわれると、よしじゃあこの一年は勉強に専念するぞ。そしてこの一年はあらゆる娯楽も親の目友人の目を忍んで控えめに、優先順位を勉強の二の次にしなければならないぞ。という決意をいつのまにか強いられており、僕はあらがうことなくその決意を受け入れたのであった。
そんな朝。
高校3年生が受験生という苦行に耐え忍ぶ修行僧になる初日にしては、始業式で半日授業という拍子抜けなスケジュールが組まれている。
空いた午後の時間をどう過ごそうか考えながら自転車をこいでいたその時、突如目の端から黒い物体がこちらに向かって飛び込んできた。
「アカン、ぶつかる!」
そう思い身を守る姿勢を固めるより先にその物体=『自転車に乗っている僕に狙いを定めて、さながらアクション映画でヒーローが窓ガラスを突き破るときのようにクロスさせた腕と片膝を体前面に構え、見事なタックルをかましてきた食パンを咥えた女子高生』は僕の右側面にものすごい勢いでぶつかってきていた。
「おぐっ」という情けない声を漏らしながら、左頬と両掌と腹をまんべんなく地面にこすりつけながら衝突地点から真横に吹っ飛んだ僕、僕よりかは数メートルばかり学校方向に向かって前進を試みたものの乗り手を失ったために数秒と経たずバランスを崩し今は僕と同じく地面に横たわりチリチリという音を立てながらむなしくタイヤを空回りさせている僕の自転車。
そして衝突地点とほぼ同じ場所でしっかりと着地をキメている女子高生。と地面に落ちた食パン。
もしも僕が、事前にこの女子高生がタックルの姿勢をとっていた事を知っていたならば。もしくは相手の方から「すいません、大丈夫ですか?」という言葉が発されていたならば。
僕には非がなく、一方的になぜかタックルをかまされた被害者であるということを認識できたのであろうが、そのどちらもがなかったため、ぶつかられた側であるにも拘らず、僕は急いで砂を払い相手の方に駆け寄りながら謝罪と安否の確認の言葉を発していた。
「す、すいません。大丈夫でしたか?」
被害者の言葉である。
加害者を気遣う被害者を見据える加害者、かつ女子高生。もとい綺麗な女子高生。
いや、さらに訂正させていただこう。とても綺麗なな女子高生。
欧州の高級ブランドの広告から出てきたかのようなすらりとした長身のプロポーション。
握りこぶしほどの大きさしかない顔にはピンと筋の通った高い鼻と三白眼とはっきりとした眉が位置していた。そして胸のあたりまで伸びる緩く波打つ髪の毛。
誰もが今まで生きてきた中で見たことある一番の美人といえばという問いに思考時間をかけることなく第一位に上げるであろう、そう確信できるほどの美少女がそこに立っていた。
突如目の前に現れた『異人種=段違いの美少女』にひるみまくっていた僕に対して彼女は
「なんかやってみると思ってたのと違うなぁ。あ、私大丈夫だから。じゃまた」
と言い、食パンを拾い、来た道を引き返していった。
彼女の歩む先約30m地点の道端には彼女のモノと思われる学校鞄が置かれていた。おそらくあの位置から助走をつけ始めていたのだ。
彼女の発言とカバンの位置見て僕はやっとこさ自分がタックルをかまされた被害者なのだということに気づいた。
「じゃ、また」という言葉の意味に気づくのはそれから少し後であり、さらにはだいぶ後でもあるのだった。