13話 テスト勉強
「はぁ…やっと終わった!案外できたかも!」
俺の隣に座っている女帝、神代澪華が達成感いっぱいの表情で問題を解き終えた。
学業不振の神代の勉強を手伝うことにした俺は、放課後誰もいなくなった教室で神代と二人で勉強をしていた。
いきなり教えるのはあれだから、まずは神代の今の学力を知るために俺は自作のテスト対策問題をやらせてみた。それで間違った問題を中心に教えていけば赤点は回避できるだろう。
「えっと…どれどれ?」
解答用紙をもらって、模範解答と見比べて赤ペンで採点をしていく。
「ふむふむ………………………」
だか、採点いくにつれて俺の表情はだんだん曇ってきた。
「な、なあ神代。いちようちゃんとやったんだよな?」
俺は顔をひきらせて、おそるおそる聞いてみた。
「え?アタシちょー真剣にやったけど!」
神代は何の迷いもなく自信満々の顔でそう言った。いや、そんなに自信をもって言われるとな…マジ困るんだけど。
「なになに?どーだった?」
「こりゃ…思った以上にひどいな」
「え?」
神代は目を丸くして気が抜けた声を出した。いや、マジでこれは…
「結果から言うと、総合的な正答率は三割だな。何でこれで自信満々な顔ができたのか不思議なんだけど」
「え、マジで?」
「ああ。大マジだ。」
「あはは……ま、まぁ最初はこんなもんよ…あはは…」
「俺にはどうしたらこんなに取れないのか逆に不思議なんだけどな」
「いやー!それほどでもー」
神代は後頭部をかいてデレデレしだした。いや、褒めてねーから。
「でも!これからよ!これから!結果は後から来るもんよ!」
なーんでそんなに開き直れるのか理解ができん。はぁ…俺こいつにちゃんと教えれるよな?超心配なんだけど…。
「と、とにかくだ。テストまで日にちはあまりないんだから、間違えた問題をとりあえず復習していくぞ」
「らじゃー!」
俺は机に教材を取り出して、「やるしかない!」と自分に発破をかけて、この問題児に勉強を教えていくのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「それでだなここの訳は―――ん?電話だ。ちょっとごめん」
神代に勉強を教えてから何分かたったある時、英語の訳を言おうとしたときに、バイブ音が聞こえた。俺は鞄からスマホを取り出して画面に表示されている着信相手を確認した。
「雪野さん?」
何で雪野さんが?と思いつつ、俺は電話に出た。
「どうしたの?雪野さん」
『あ!北条くんやっと出た!』
「やっと?」
『うん、二回かけたけど全然反応なくて』
「あ、ごめん。スマホバイブ音にしててそのまま鞄に入れてたわ」
『なるほど。それなら仕方ないね』
「それで雪野さん。どうしたの?俺に何か」
そもそもなんで電話をしてきたんだろう?
すると、雪野さんが、
『えっと……今週の土曜日何か予定とかある?』
いきなりそんなことを聞いてきた。
予定?今週の土曜は確か、神代と勉強する予定だな。場所はまだ決まってないけど。
俺は神代の方に視線を向けた。
その時、偶然にも神代が俺を見ていたらしくバッチリと目が合ってしまった。
「ん?北条誰と電話してんのー?」
「ああ。雪野さんだよ」
「ふーん」
なんか神代がニヤニヤしてこっち見てるけど。なんだよ。
『あの……北条くん?』
「ああ!ごめんごめん!土曜だよね?土曜はちょっと予定が入ってて」
雪野さんを待たせていたため、俺は慌てて、上ずった声で話してしまった。
『そっか…残念だな…』
悲しそうな声で呟く雪野さん。電話越しでも残念そうな顔が浮かんでくるな…。
「なにかあったの?」
『ほら、もうすぐテストじゃん?だから土曜日図書館で勉強でもしないかなーと思って』
「なるほどね、それで誘ってくれたわけね」
でも雪野さんと一緒に勉強してみたかったなー。美少女と一緒に勉強なんてやる気がはかどるだろ?
「ごめん。申し訳ない」
『ううん。いいよ謝らなくて。それで……北条くん』
ん、何かまだ言うことがあるのかな?と思っていると
『今…何してるの?』
といつもより少し低い声で、俺を訝しんで聞いてきたように思ったのは気のせいだろうか。
「え?今?」
『うん』
「今は教室で神代と一緒に勉強してるけど」
『一緒に?まだ他のクラスの人たちはいるの?』
なんか「一緒に?」ってところがすごく強調したように思えたが…
「いや、俺と神代、二人だけだよ」
そう、俺が言った瞬間
『えっ…』
雪野さんは素っ頓狂な声を上げたけど…。どうしたんだ?
「雪野さん?どうしたの?」
『………いや、別にな、なんでもないよー』
な、なんか覇気のない声になったんだけど、雪野さんは続けて、
『ふ、二人きりなんだ。へ、へぇ?そ、そそーなんだー』
次は何やら慌ててるように聞こえるが、何に慌ててるんだ?
「二人きりだけど、それがどうしたの?」
『い、いや!べ、別に…………』
ん?急に黙まっちゃったけど……どうしたんだ?
「あのー雪野さん?」
俺は気になって呼び掛けてみるが……
『ふ、二人きり……そ、それてつまり……あんなことや……こんなことや……なってたり…、そんなことになってたら……ど、どうしよ…』
ブツブツと何か言ってるようだけど…だ、大丈夫か?
「あのー雪野さん?大丈夫?」
『ブツブツ………へぇ!?あ!ど、どうしたの!?』
「いや、そのー大丈夫?」
『だ、だ大丈夫だよ!べ、別に焦ってるとかそそうゆうことじゃないから!!?』
いや、何も聞いてないんだけどな…てゆうか、めっちゃ焦ってるじゃん。
『そ、それじゃあ!べ、べ勉強頑張ってね!?じゃあね!!』
ブチン
あ、切られた。すっごい無理矢理切られたんだけど……まぁいっか。
俺はスマホをポケットにしまって、再び勉強に取りかかろうとした。その時、
「ねぇ北条」
隣にいる神代がいきなり話しかけてきた。
「どうした?」
「北条ってー雪野さんと付き合ってんの?」
「…はぁ!?どーゆことだよ!?」
いきなり、そんなこと聞かれたからビックリしたわ……
「だってさーなんかスゴく楽しそうに話してたからさー。あと、皆も噂にしてたし?」
「付き合ってねーわ!最初から!」
「ホントにー?」
「ホントだわ!嘘じゃねーよ!」
「アッハッハ!北条、顔赤くなりすぎ!マジウケるわ!」
「うっせーな!全然ウケねーわ!」
くっそー!めっちゃムカつくー!からかいやがって、許さん…許さんぞ神代…!
神代は腹抱えて涙目になってるし、何がそんなにウケたんだよ。
「はぁ…おもしろ。でも良かったじゃん!雪野さんみたいなかわいい人と仲良くなれて!」
「ま、まぁ。それはうれしいかな。否定はしない」
「そっかーそっかー!いいなー!アタシになったけどもそんなアオハルっぽいこと起きないかなー」
神代は椅子を引いて足をバタバタさせながらそんなことを言った。
アオハル?あぁ…青春のことか…
「でも、神代普通に学校楽しんでるじゃないか」
「違う違う。そうじゃなくて、やっぱ高校生って言ったら恋愛でしょ!」
なるほど、そうゆうことか。
「誰かいい男に巡り会わないかなー?マジで」
「でも神代。お前絶対モテるだろ?」
「全然モテないしー。なんの根拠があっていってんのよ」
「へぇー意外だな。神代かわいいから絶対モテると思ってたよ」
「え…」
「あ」
俺、今さらっと神代のことかわいいって言ったよな。
うっわ…マジやっちまった。絶対引かれたわこれ…。
「神代。そ、そのーあのな…」
「……」
あー完全に引かれたわこれ。黙っ目線はずしてうつむいているし…気まずい空気になったなホントに。
「あーごめん。神代。嫌な気分させちゃって。マジごめん」
とにかく、嫌な思いさせたならまずは謝った方がいいなと思い、誠心誠意込めて謝罪をした。
「へ、へぇー…北条はあ、アタシのことそ、そういう目で見てたんだー」
神代は顔を上げ、恥ずかしそうにそう言った。
「ま、まぁ。その……」
たじたじしながらも俺は否定をしなかった。
実際、神代が美人なのは事実なんだよ。だから否定はしない。
「そ、そう………ま、別にど、どうでもいいけどね…!さ、さてと!勉強しますか!」
神代は顔を赤くしてそっぽ向いてしまい、強引に話を終わらせて勉強をし始めた。
「なら、俺もやるか」
そうして俺たちは再び勉強に取りかかったけど、ずっと神代は黙ったままだし、非常にきまずい雰囲気だった。時折、神代がチラチラと見てたりしてたけど、振り向くとそっぽ向かれてしまうし、そのおかげで余計に気まずくなって結局、その後はずっと気まずくお互い何も喋らないもまま勉強会は終わってしまった。