12話 クラスの女帝
遠足が終わって数週間後。
皆が嫌いな定期テストの時期がやって来た。
うちの学校では来週から中間テストである。生徒達はテスト勉強を必死に頑張っている人もいれば、まだ余裕だから何もしていない人もいるし、またテスト期間に部活の大会があるため、焦って勉強している人もいる。まぁ多くの人はまだ何も手をつけてないようだけど。
ちなみに俺は今は何もしていない。俺は学校ではやらず家で勉強するタイプだ。テスト期間中は家で毎日コツコツやって試験に臨む。それが俺の勉強スタイルだ。
俺は早めにやっといて、後から焦ってやるのが嫌だからそういう風に勉強している。人の勉強のやり方は人それぞれだからな。まぁ良い点数が取れれば何でもいいのよ。
ちなみに自分で言うのもあれなんだが、これでも俺は学年の上位の成績に入っているだ。意外でしょ?
さてと、暇だし何もすることもないな。……あ、数学課題あったから今のうちにやっておくか。
そうして、俺は机の中から数学の問題集を取り出して勉強を始めた。
「――――あっはは!なにそれ!マジやばくない!?」
たが、全く集中できない。なぜかって?それは俺の隣でギャル達が人目を気にすることなく大きな声で笑っているからだ。
複数の席から椅子を集めて陣取っているギャル達がうるさいのは正直いつもの日常と変わらない。ただ無視してきただけだ。
だが、今はテスト週間であるし、俺以外にもたくさんの人が勉強しているのにもかかわらず、周りへの配慮なしにワイワイとうるさくするのはさすがに頭にくる。
気に障るなら移動すればいいだけの話だか、ここは俺の席だ。つまり俺の領地であり、俺の聖域だ。それを無視して俺のすぐ横で座ってうるさくしたり、どっか行って帰って来たら勝手に席は座られてるし。そんなことが始業してから多々あった。お前ら、俺の聖域から離れろ。今すぐにだ。
「―――あっはは!ホントウケるわ!そいつマジヤバすぎ」
その中でもこのギャル軍に所属し、2年A組の女帝こと神代澪華様はといったらまぁすごい。
神代の容姿は、恵まれた顔立ちもさることながら、制服を着崩してスカートは短くしたり、髪の毛はがっつり茶髪に染めたりと、周囲の女子から一つ飛び抜けて垢抜けているが、悔しいがすっごい綺麗だった。髪型もゆるめのウェーブがかかったセミロングな茶髪を何もせずおろしており、いかにも私いけてるJKですという印象を与えてくる。
校則を普通に破って学校生活を送っている問題児生徒だか、先生に注意されても全く髮色は変えてこないし、制服も正しく着直さないし、ホントに先生を困らせる問題児生徒だ。
何で、神代澪華率いるギャル軍団が俺の席の隣で本陣を築き上げているかというと、軍団のボスである神代澪華の席が俺の隣だったからに他ならなかった。
もう早く席替えしたい。早く日直一周しないかな。
一日一人日直をして、それを席順にローテーションしていき一周し終えたら席替えが行われる。それがこのクラスのルールだ。
今日の日直は…ま、まだ真ん中じゃないかよ。はぁ…早く進まないかな…。
「―――――あっはは!マジウケるわ!」
はぁ…もう課題は家に帰ってからにするか。どっかブラブラしてくるか。
隣でバカみたいに騒いでいるギャル軍のせいで、課題ができなかった俺は席を立って、ブラブラと学校内を徘徊しにいくのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
「はぁ…疲れた。でも、ちょっとでもいいから電車でもやっておこうかな」
学校が終わり、帰りの電車の座席に座った俺は少しでも勉強をしておくため、鞄の中から教材を取り出そうとした。
「えっと、古典のノートは…どこにあるかなー」
俺は一番苦手な古典をやろうと思って、ノートを探すが、
「あれ?ノートどこやったっけ?……もしかして。」
探してもない。ということはもしかして学校に忘れたか?うわーやっちまった。
古典ノートを学校に忘れたことに気づいた俺は、次の駅で電車を降り、ノートを取りに行くため学校へ戻った。
「まさか忘れるとは……早く取って家に帰るか」
学校に着いた俺は靴を脱ぎ、スリッパに履き替え駆け足で教室へと向かった。
当然テスト週間ということもあって部活動はなく、毎日夜遅くまでやってる野球部の活気の良い声や吹奏楽部のトランペットの音は聞こえず校内はとても静かだった。来る途中に体育館は明かりがついていたから、おそらく室内の部活動の何かが、大会とテストが重なるため特別に練習をしているのだろう。大変だな。
「あれ?教室明かりがついてるじゃん」
二階に着いて、教室の明かりに気づいた俺はその光景を不審に思った。
「何で、教室に明かりがついているんだ?この時間は誰もいないはずなのにな。消し忘れかな?」
そう思って俺は教室のドアを開けた。たが、俺の目に入ってきたのは信じられない光景だった。
「………え、うそ…」
俺が見たのは、自分の席で必死で勉強に取り組んでいる神代澪華の姿だった。
普段ギャル達と騒いでいて生徒や先生に迷惑ばっかかける問題児だと思ったけど、黙って勉強に集中する姿は普段の姿とは全く違って、すごく新鮮だった。
「…どうやってやるのよこの計算。意味分かんないんだけど」
どうやら数学の計算に手こずっているようだ。あんな姿、普段の授業でみたことないな。いつもただノートを開いただけで何も書かず隠れて携帯いじったりして他事やってるからな。まともに授業は聞いてないだろう。
「こんなことなら、ちゃんと授業聞いとけば良かった。ん?」
神代がやっと俺の方を見て、目が合った。な、なんか気まずいなこの状況。とりあえず何か喋るか。
「神代。お前しっかり―― 」
勉強してるんだな。と言おうとしたが、
「な、ななな何でいるの?もう校内に人はいないはずなのに!」
いきなり、神代が顔を赤くしてバタバタと慌て出した。ど、どうしたんだ…いつもの感じと全く違うんだけど…。
「何でいるの?って。俺は古典のノート忘れたから取りに来ただけだけ。」
「い、何時からいたの?もしかしてずっと見てた?」
「うん。見てた。計算に手こずっている辺りから」
俺がそう言うと、神代は顔をうつむいて黙ってしまった。
見られたくなかったのかな。俺、悪いタイミング来ちゃったな。
「驚いたでしょ…私が勉強してるなんて…」
すると神代は急に神妙な声で話し出した。
「親にね、お前の成績で大学行くの無理って言われたの。こう見えてもねアタシ、大学志望なんだ。でね、先生に聞いてみたの。アタシは大学行けますかって。そうしたら「あなたの成績では大学は無理です」ってきっぱり言われてね…」
「大学志望だったのか。意外だな」
「うん。意外でしょ?親に無理って言われて、先生にも無理って言われてアタシ悔しくて…。だから、絶対見返して良い大学入ってやる!と思って、二年生になったらちゃんと頑張ろうと思ったけど、一年間全く勉強してなかったせいで授業とかもうチンプンカンプンで、全く分かんないよ」
まぁ、そりゃあそうだよな。一年間ほとんど何もやってなかったら分かるわけないよな。
「だから、いつもクラスの皆が帰った後、ここで残って勉強してるんだ」
驚いた…テスト週間だけ残ってるんじゃなくて、いつも残って勉強しているとは…。すごい継続力だな。
「けど……このままだったら今回のテストもダメだよね…」
すると神代はもう諦めたかのように弱音を吐いた。悲しそうに下を向いて。本当にいつものテンションの高さはどうしちゃったんだよ。全然神代らしくないからこっちのペースが狂いそうだ。
「うーん…でもまだ分かんないじゃないか、やってみないと」
「でも、どうやったら良い点が取れるの?」
「良い点数を取る方法かー。うーん、頭の良い奴に教えてもらうとか?」
「頭の良い人に教えてもらうか……うん。いいね!それ!」
どうやら、やる気を取り戻したようだ。良かった良かった。これでまた頑張ってもらえば――
「じゃあ北条!アタシに勉強教えてよ!」
「……………………………は?」
いきなりの衝撃の言葉に俺は固まる。思わず気の抜けた声を出してしまった。
「いやだから、アタシに勉強教えてよ。いいでしょ、別に」
「はぁ!?なんで俺が教えるんだよ!」
「え、だって北条は頭が良いって誰か言ってたし」
誰だぁぁ!そんなこといった奴は!つか何で俺なんだよ!女子でいいだろ。
「勉強ならいつも一緒にいる奴らとやればいいだろ」
「ミユたちは頭悪いから無理。あと北条以外に頭良い人知らないし」
はぁ…なんてこった。まさかこんなことになるなんて。
正直に言ったらめっちゃやりたくないし、早くこの場から帰りたい。
けど、こいつの頑張りを俺は知っちゃったからな。さすがに無視はできないよな。
「わかったわかった。…やればいいんだろ」
「やっとやるって言ったし。最初からそういえばいいのに」
「なんでお前はそんなに上からなんだよ」
「そんなことはどうでもいいから、早くアタシに勉強教えてよ!」
くっ!なんて偉そうな奴なんだ!ムカつくなー!
けど、しょうがない。やるしかないか。
「とにかく、まずは今回のテストで赤点を取らないことを目標にするぞ。テストはもうすぐだから頑張るぞ」
「りょーかい!これからよろしく!」