10話 色んな意味でドキドキしまくりです。
「ちょ、ちょっと!まじでこれに乗るの!?」
「「うん!」」
俺は今、木村さんと雪野さんに無理矢理遊園地に連れてこられ、一番人気のアトラクションに並んでいるところだ。
俺の頭上には長い傾斜をゆっくり進んでいるコースターが見え、その先にはえぐい落差のコースが確認できた。
うわぁ!あれはさすがにやばいって!あんな角度から落ちたら死ぬって!
そのアトラクションはおよそ100メートルくらいまで上がった後、物凄い勢いで落下していき、物凄いスピードでコースを回るまさに絶叫系がダメな人を完璧に殺しにきてるアトラクションである。
「ね、ねぇ二人とも?さすがにあれはやめない?」
ま、マジでダメだって!頼む!二人とも考え直したほうが…
「「え?嫌だよ!私、これに乗りたいもん!」」
きっぱり断られてしまった…。しかも声を揃えて。
うぅ…ひどいよな?俺、乗れないんだよ?少しは俺のために易しいやつに乗るとかそういう気配りがいっさいないんだもん…なんてひどい人達なんだ…。今すぐ逃げ出したい。
だが俺は今、完璧に拘束されて逃げることはできない。
なせなら俺の横にいる木村さんと雪野さんにガッチリ腕を組まれているため身動きが全く取れないんだ…。
はたから見れば「あの子、すごい美少女に腕を組まれてモテモテだね!うらやましいー!」と思うだろうが実際は違う。
実際は刑場に行って死刑を執行されるようなもんだ…残念ながら。誰か、今すぐ俺と変わってください。
そうして二人の刑務官に無理矢理連れてかれて、とうとう刑場までたどり着いてしまった。
「やっと乗れる!待ちくたびれたよ!」
「そうだね!早く乗ろ!北条くん!ほら!いくよ!」
二人に連行され座席に座って安全バーを下ろした。うぅ…なんでこんなことに…ほんとだったら今ごろはアウトレットの方に行って色んなとこ回って…うぅ……俺の楽しい遠足が…。ちくしょう!こうなったらもうやるしかねぇ!もうどうにでもなりやがれぇー!!
俺は覚悟を決めた。体はブルブル震えているけどね…うぅ…怖い…
ちなみに俺の左に木村さん、右に雪野さんが座っている。二人に挟まれてる状態で嬉しい…って気持ちではなく、今すぐ逃げ出したい。な、なんで二人ともそんなに笑顔なんだよ…。
『それでは、行ってらっしゃーい!』
そうして、係員さんの声と同時にジェットコースターは動き出した。
うわぁ…ついに始まった……。
まずは長くてゆるい傾斜を登っていくんだけど、これがもう嫌だ。
どんどんと頂上へ向かっていく時のドキドキ感、そして登っている時に「カタカタ」となる音!もうこれが本当嫌だ!た、助けて…。
「うぅ……!」
俺は体を震わせてもう涙目になっている、二人はどうなんだろ?
気になって左右を見てみると、
「うわー!たかーい!すごい景色!」
「ほんとだ!すごい眺めだね!」
な、何故そんなにも笑顔なんだ…。あなたたちの感情に怖いというものはないのか!?も、もう嫌だー!降ろしてくれー!
コースターが頂上に近づくにつれて俺の心臓はどんどん鼓動が早くなっていく。
(や、やばい!もうすぐ頂上じゃないか!!だ、誰か助けてくれー!!た、頼むからー!!)
そして、ついに頂上に達し落下する瞬間、俺は死を感じた。
(も、もうだめだぁぁぁー!!だ、誰かぁぁぁー!!!)
「ぎゃぁぁぁー!!!!!!」
コースターは急激に傾いて、物凄いスピードで落下して行った。
「「「きゃーーー!!!」」」
「うわぁーー!!!!!だ、誰かー!!!!」
俺以外の人は楽しそうに叫んでいるけど、俺は本気で助けを求めている。
(な、なんだよこれぇーー!!!!し、死んでしまう!!な、ちょっと!ま、また登って、落下……も、もう早く終わってくれーー!!)
「ぎゃぁぁぁー!!!!!!」」
コースターの勢いは止まることなく、ぐるぐるとコースを回っていく。
「め、目が回るーー!!うっ……は、吐きそう…」
ぐるぐる回っていたため、目が回ってしまった俺は本気で気分を悪くした…
「うっ……た、頼むから…は、はやく終わってくれ…うっぷ」
も、もう気持ち悪くなって怖さも何も感じなくなった…と、とにかく早く終わってくれ…
そして、ようやくコースターの勢いは収まり、スタート位置に戻ってきた。や、やっと終わった……長かった…。
「いやー!楽しかった!凉葉はどうだった?」
「うん!すっごい楽しかったよ!北条くんはどうだった?…北条くん?」
「……え?そーだね…うん、す、すごく…楽しかったと思うよ……うっぷ」
終わった後、俺は座席から動けず放心状態となっていた。か、体が動かない……二人は何でそんなに清々しい顔してるの…?
「だ、大丈夫!?ちょっと!すっごい顔色悪いよ!?」
「だ、だだだ大丈夫!?北条くん!うわわ!ど、どうしよう!?きゅ、救急車呼ばないと!」
慌て出す二人。心配してくれるのはうれしいけど、雪野さん…そまでやばくないから大丈夫だよ…。救急車呼ぶほどじゃないから。
「…だ、大丈夫…。し、心配しないで…うっぷ」
安全バーを上げ立とうとするが、…うっ、気持ち悪い…体がフラフラして上手く立てない。
「本当にダメだったんだね絶叫系。嘘かと思ってたよ」
「うん…。ごめんね北条くん。無理に乗せちゃって」
嫌なことに嘘を言うわけないじゃないか…。俺、信用されてないのかな…。ちょっとショック。
「じゃあ、ちょっとひと休みしよっか」
「うん。そうしよっか」
俺たちは殺人ジェットコースターを後にして、近くのベンチでひと休みすることにした。
「だ、大丈夫?北条くん?」
「うん…ちょっと休めばへーきだよ」
俺はぐったり仰向きで寝ている。二人は立っていて申し訳ないけど、今はごめん。気持ち悪くて…あぁ…星が見えるよ…。
さっきのおかげでもっと絶叫系が嫌いになったよ。も、もう絶対乗らん。誘惑されてもだ!俺はそう心に誓った。
「…………理沙!そ、そんなことできるわけないじゃん!」
「でも、チャンスだよ? 凉葉はいいの?今の関係で?頑張らないと変わっていかないよ」
ん?二人が何かコソコソ話をしているけど、何の話してるんだ?チャンス?何の?
「うぅ…で、でも恥ずかしいよ!」
「大丈夫だって!嫌って言う奴なんていないよ!ほら頑張って!」
「う、うん…わかったよ…もう…」
話が終わったようだけど、何の話だったんだろ?ん?雪野さんどうしたんだろ?こっちを見て…何故か顔が赤いけど。
「ほ、北条くん…ちょっと起き上がってもらってもいい?」
ん?どうしたんだろ急に。まぁ大分治ったからいいけど。
俺は体を起こし、しっかり座り直して雪野さんの方を向いた。
「はい。言われた通りにしたけど。どうしたの?」
すると、雪野さんは隣に座って俺の腕を掴んでいきなり引っ張り出した。
「え…?」
無警戒だった俺はそのまま横向きに倒れ込んだ。ん?下が硬くない…………ま、まさか!!
「ゆ、雪野さん!な、何をして!」
「だ、だからその…!ひ、膝枕!」
雪野さんは顔を真っ赤にしてそう言った。て、てか!顔が近い!
で、でも何で急に!?しかも無理矢理!
「お、男の子は膝枕されたら元気が出るって…そう理沙に言われて…」
木村さん!な、何故そんなことを言った!?た、たしかに嬉しいけどこ、これはちょっと!とにかく早く起き上がらないと!
「ゆ、雪野さん!だ、大丈夫だから!ごめん!すぐにどくから!」
俺は体を起こして離れようとするが、
「あっ!北条くん!逃げちゃダメ!」
「うわぁ!」
いきなり雪野さんに抱きつかれてしまい動けなくなってしまった。
「ゆゆゆ雪野さん!ちょ、ちょっと!!」
「北条くんは今、体調悪いんだから!安静にしてないとダメ!」
「で、でもこの状態は…」
雪野さんに抱き締められて………む、胸に顔が押しつけられて!!な、なんなんだこの状況は!!膝枕より凄いことになってしまた!!
む、胸の弾力が……こ、これまた、すすすすごい!!じゃなくて!!
「ゆゆ、雪野さん!…あの…」
「だ、ダメ!絶対離さないんだから!」
離れようとしても雪野さんは決して離そうとしなかった。ぎゅっと体を強く抱き締められて俺はどうすることもできず素直に「は…はい」と従うしかなかった。
(な、なにが一体どうなってるんだ……!?)
雪野さんに抱き締められている間、俺の心臓はジェットコースターに乗った時とはまた違った意味でドキドキしっぱなしだった。