992 マタニティラプソディ1:竜母浮かれる
グィーンドラゴンのブラッディマリーよ!
ちなみにグィーンドラゴンというのは皇帝竜ガイザードラゴンの妃が得る称号で『皇妃竜』とも呼べるわ。
濁点がついているのは、その方が強そうだからよ!!
かつて名乗っていたグラウグリンツェルドラゴンの称号はわたしには不要!!
何故なら私こそが正真正銘、ただ一人ガイザードラゴンのアードヘッグのお后様であるからよ!
『初っ端から飛ばしてんなあ……!』
あらお父様!
かつてはドラゴン編の黒幕ポジションであったのに今やすっかりツッコミ役が板につきましたわね!
平和になってよいことですわ!
そう、世の中平和が一番!!
万事平穏波静かであってこそ子どもが健やかに育つ第一条件なのですわ!!
『浮かれまくってるのはいいんだけどさ。周囲置いてけぼりなんよ。そろそろなんで浮かれているかを解説してくんないと話の筋が見えずに混乱するばかりだぞ』
あらあら父上、そんなに聞きたいんですのー?
どーしよっかなー、話しちゃおっかなー?
『子を宿したのがそんなに嬉しいのか?』
『ちょっとお父様!? フライングでカミングアウトしないでくださいまし!?』
『テメエが勿体つけてるのが悪いんだよ』
まったく、お父様は『答えはCMのあと!』みたいなのが絶対許せないタイプね。
年寄りは気が短くていけないわ。
では仕切り直して、重大発表ですわ!
このたび、このグィーンドラゴンのブラッディマリー。
祝・懐妊だわ!!
子どもが! 子どもがこのお腹の中に発生したのよ!
何という喜ぶべき奇跡!!
こんな不思議で驚異的なことを、他の生物たちは当たり前のように繰り返してきたというの何千年も前から!?
『何千年どころか、何千万年前からだろー? 我らドラゴンにとっては目新しいことではあるが』
そうなのよ!
そもそもドラゴンは最強生物ゆえに一個体で完全完結! 外敵から脅かされる恐れもなければ、これ以上進化する必要もない!
ゆえに子孫など遺す必要がない!
よって生殖の必要もない!
それらの要素からドラゴンに繁殖という行為は切り離されていた、長らく!
しかしながら最近になって変化が生じたのよ!
ドラゴンの創造者……万象母神ガイア様がドラゴンの生き物としての設定を変えて、ドラゴンもまた有性生殖で子孫を遺せるようになったのよ!
どういう経緯でそうなったかは割愛するけれど、要するにこれらのドラゴンは結婚してラブラブした結果、子を授かるということ!!
……フッ、長きに亘って生存し続けるドラゴンにとってはなかなかいい暇潰しとなりそうね。
『浮かれまくった挙句、急に傲慢に戻るな』
何ですお父様。
いいじゃないですか、皇妃竜たるもの威厳が必要だって途中から気づいたって。
万象母神ガイア様が設定を変えて最初に子を宿した雌竜がこのわたし!
つまりは世界初のケース! 一号例!
かつて世界最強の皇女竜であった私に相応しい栄冠だわ!
あの当時は、全ドラゴンの頂点ガイザードラゴンになることのみを目指してひた走っていたけれども。
歴代初めて、みずからの複製を生殖によって生み落としたドラゴンとなったら、ガイザードラゴン以上の栄誉ではなくて!?
それこそわたしに相応しい栄冠だわ!
やっぱりわたしは、ドラゴンの歴史に名を刻む偉大な女だったというわけね!!
『浮かれ倒しているなあ。つわりがあった頃は目に見えてオタオタしていたっていうのに……』
う、煩いわよお父様!
私だって、子を宿した初期に起こるという体の変調には戸惑うものよ!
なんたってドラゴン初! なんですから!
『一番最初の原因もわからなかった時期に、クソほどビビッてアードヘッグに泣きついてたの、おれはちゃんと見てたぞ。「あ~ん、わたし死ぬかもイヤイヤ~」つって』
『わぁあああああ! わーわーわー!!』
お父様! ヒトの醜聞をいつまでも覚えているものではなくてよ!
仕方ないでしょう、あとから知ったことだけど妊娠期間というのは精神に変調をきたすものらしいのよ!
ホルモンバランス? とかいうのがどうたらこうたら!!
だから常に最恐最悪、究極の生命体として自信と優雅さに満ち溢れたわたしですらも平静さを保てないのも然り!
『あー、それで今も不自然なまでにハイなの?』
まあ、妊娠出産については何もかもが初めてであるドラゴンにとって、何もかもが想定の範囲外で戸惑ってしまうのは仕方のないことなのよ!
それでも助かったのは、人魚王妃のパッファさんが時折往診に来てくれるから、つわりの諸症状にもいちいち解説してくれて安心できたわ。
『かつてのアードヘッグの旅の仲間の一人だな』
そうそう、さすがは頼れる皇帝竜! 人脈が広いのも売りの一つね!
私の妊娠に一番早く感づいたのも彼女だし、実に頼りがいのあるニンゲンだわ!
『聞くところによるとパッファとやらだって今、腹ん中に二人目の子どもが育ってるんだろ? ダメだぞ無理させたら』
ぐぬぬッ、お父様のくせに正論を吐くなんて……!
たしかにそうなのよね。大事な時期なのは同じなんだから何度も人魚国と竜帝城を行ったり来たりさせるのは、お腹に負担が大きいものね。
ドラゴンだからと言って下等生物へ一方的に負担を強いるのはよくないわ。ウチの夫のアードヘッグが、そういうのを一番嫌うもの。
だから最近ではパッファさんに代わって、その姑? であるというシーラさんが来てくれるようになったわ。
そもそも人魚というニンゲン種の、特に雌の方は体の仕組みに明るいと言うんで診察をお願いしているんだけれど……。
シーラさんという人魚は大体の場合『気合いね!』としか言わないんで色々不安があるのよね……。
やっぱりパッファさんにお願いした方がいいなー、と思っているんだけど……!
いいえへこたれてはいけないわグィーンドラゴンたるものが!!
万象母神ガイア様がドラゴンの設定を変えて早数年!
ついに成果が現れる時が来た!
その皮切りを、このわたしが務めるなんて誇りに思うわ!
ドラゴン歴史の変革は、このわたしが第一歩を踏みしめる!!
『はぁーん、ところでブラッディマリーよ?』
何ですのお父様?
『お前が子を孕んだと聞いてずっと疑問に思っていることがあるんだが、ついに聞いてみることにするわ』
だから何ですの?
『お前、胎内にいる子どもを排出すること……出産って言うんだっけ? それってドラゴンの姿でするの? ニンゲンの姿でするの?』
……うーん。
何を言ってるんですのお父様?
『理解から逃げようとすんな! だからおれたちドラゴンは魔法で簡単に姿を変えられるだろ! 聖者どもと付き合いをするようになってから特に頻繁にな! お前だって気分で形態使い分けてるけど、出産する時はそうもいかんだろ!』
そうかしら?
『そうだよ! 成体であるお前は竜魔法を使いこなしているが、お腹の子どもはそうはいかんだろ! お前が変身するのに際して胎内はどう対応してるんだ?』
そう言われましても……!?
……いやだわ考えるほどにわけがわからなくなってきたわ!
わたしの体の中ってどうなっているの!?
お腹の赤ちゃんは大丈夫なの!? ねえ!?
これはパッファさんに聞いてみないと! どうなのパッファさん!
シーラさんに聞いたらまた『気合いよ!』で済まされるのがオチだわ!!
『落ち付けよ、さすがにドラゴン特有の事情は人魚には計り知れんだろう。それに、おれにはまだ疑問に思っていることがあるんだが……』
何よお父様!?
これ以上わたしを混乱のどん底に叩き落とさないで!
『……おれたちドラゴンって、卵で生まれるのか?』
え?
何を言っているの? ドラゴンといえば世界最強の高等種族。
卵で生まれるなんてニンゲンよりさらに下等動物の所業よ!
外敵からの攻撃に対応するため、いち早く子どもを体外に出して母親が自由に動けるようにするための仕様でしょう?
そんなの自分以外のあらゆる生物が敵とはならないドラゴンが取るべき方法ではないわ!!
『でもおれたちの外見って、基本爬虫類じゃん。トカゲモドキとか言われるじゃん?』
えッ、そうなの?
『そして爬虫類といえばすべからく卵生。だとしたらドラゴンもそれに倣うべきかどうか……!?』
いや、待ってくださいお父様!?
それってそもそもドラゴンって爬虫類の一種でいいの!? 最強生物なのよ!
類とか科とか目とか、そういう括りに縛られないのがドラゴンの強さの証明ではあるんじゃなくて!?
でも待って?
わたしたちニンゲンにも自由に変身できるんだから霊長類ってことでもよくない?
しかしそちらは仮の姿?
わたしたちは結局哺乳類? 爬虫類? どっちなの?
あるいは哺乳類なら生まれたあと授乳で育てないといけないわけ?
でもニンゲンの姿は仮の姿だから、真の姿はトカゲ? の方だから?
きゃああああああああッッ!?
わけわかんなくなってきた!!
ホルモンバランスが崩れているせいで余計答えが出てこない!
誰か!
誰か答えを教えてぇええええええッッ!!







