990 四天王候補生?
「あッ、アナタたちは!?」
ボクは魔王子ゴティア。
そのボクの前に現れた一団に、ただひたすら驚かされる。
彼らは、農場学校の生徒たちじゃないか!?
農場から遠く離れたここ魔王城に、何故!?
「ベルフェガミリア様に呼ばれてきました」
農場生徒の一人が言う。
「ゴティアくんの周囲に不穏な影があるので、応援を求められまして……」
「オレたちが来たからには大丈夫! クラスメイトのピンチはオレたちが撃ち砕く!」
皆……!
農場で学びだして日も浅いボクのためにこんな遠いところまで……!?
それに対して、ボクの教育係ズルベスターは予想外の展開にただただ戸惑い、狼狽する。
「な、何者だ貴様ら!? ここが偉大なる魔王様の居城と知って足を踏み入れておるのか!?」
「その魔王様の意思を無視して暴走しているキミが、魔王様の威を借りるのかい?」
ベルフェガミリア様が嫌味っぽく言う。
「彼らは現在、ゴティア王子が教えを受けている場所で共に学んでいる者たちだ。キミ流の言い方をすると……学友ってヤツだな」
「何をッ!?」
それを聞いてズルベスター、不快さを隠さず露わにして……。
「何という不敬、何という無法! 将来輝かしいゴティア王子の学友は、自身もまた才能豊かな選ばれし者でなくてはいけない! その辺の凡骨が務めようなど思い上がりも甚だしい! それを勝手に!」
敵意剥き出しに睨みつける。
「魔王子殿下のご学友を選び出す職権は、教育係である私にのみ許されている! その私に断りなくつけられた学友など断じて認めん!」
「幼少から王者に気に入られた学友は、出世の機会に恵まれるからねえ。そんな学友を任命する権利を持つヤツには、たくさんの人間がすり寄ることだろうねえ」
「う、煩いですぞベルフェガミリア殿!!」
唾を飛ばしながらズルベスターが抗弁する。
それに対してベルフェガミリアは、まったく嘲る風情で。
「そう言うだろうと思って彼らを呼んだのさ。てなわけでどうだい? ここでハッキリさせてみないか?」
「ハッキリ? 何をです?」
「どちらがゴティアくんのご学友に相応しいかってことをね?」
ベルフェガミリアのサイドに居並ぶ農場学生たち。
なんだ? 対決ムードが高まっている?
「ズルベスターくん、キミ自慢の学友たちと勝負させるために彼らを招いたのさ。本当にキミの選んだ若者たちが、将来ゴティアくんを支えるに相応しいエリートなら、どこの誰ともわからない地方学校の学生ぐらい簡単に倒せることだろう?」
「なッ?」
「それをもって、キミの教育者の正しさを誰も文句もつけられない形で見せつけてはどうだい?」
突如叩きつけられたベルフェガミリアからの挑戦状。
そんな、ここでズルベスター推挙の学友と、農場学生たちが激突なんて大事になってしまう。
「どうかな? 勝つ自信がないから逃げるかい?」
「何をッ!!」
見事に挑発に乗ってズルベスターは挑戦を受ける。
「望むところだ! 私は魔王子の教育係! その私が選抜した学友たちが、そんな田舎者どもにどうして負けるだろうか!?」
彼は、農場学生たちをねめつけて……。
「フン、見れば見るほど間抜けた顔つきよ。どこの田舎者か知らぬが、お前らなぞが受ける教えなど時間の無駄でしかない! 魔国の明るい未来のために、ゴティア王子の若き時間を浪費させるわけにはいかん! つまりこれよりの私の行いこそ、まさに救国行為となるのだ!!」
「大袈裟に言うものだねえ」
あの二人とも、これ明らかに大事になりすぎだ!
大人なのに冷静になれないのか?
ベルフェガミリア、こうなればズルベスターを農場に連れていってはどうかな?
あの農場の凄さを直接目の当たりにすれば、彼だって納得してくれるはずだッ!
「いけませんよ王子。欲深くて考えの浅い者をあの場所に連れていっては、ロクなことにならないのはわかりきっています。だからこそ聖者くんに頼み込んで、向こうから来てもらったんです、心利く者たちにね。資格ない者には門前でお帰りいただかないと」
「はーっはっはっはっはっは!!」
こっちの内緒話にも気づかずズルベスターは笑い続ける。
「よく見れば魔族だけでなく人族までいるではないか! 劣等種族を生徒に含めるなど、よほど水準の低い教育環境なのだろう! それに比べて私が選び抜いた王子の学友たちは、生まれも気高い上位魔族!」
ズルベスターに促されて進み出る四人。
ボクもその顔に見覚えがある。ズルベスターの授業中には机を並べて一緒に勉強した。
「いずれも四天王となる資格を持つ、聖剣継承家系に属する者たち! 魔国においては魔王家に次ぐ高貴なる者たちよ! さあ、行くがいい! 下賤どもに魔族の優性を示してやるがいい!!」
「「「「はいッ!!」」」」
本当に始まってしまう。
ズルベスターがけしかける上位魔族たちと、農場で学ぶ学生たちとの戦いが。
ああ、ボクが原因で我が家臣と、農場の人々が争い合う事態に……!?
止めなきゃいけないのに、力及ばない自分が恥ずかしい。
* * *
「相手は四人か。対戦方式はわかりやすく一騎打ちの四連続ってことでいいかな? まあ偶数だと同点になった時が面倒だけど……」
「そんな心配は必要ない! 何故なら我が生徒たちの四連勝で終わるからだ! ふはははははは!!」
本当に始まってしまった。
農場生徒vsズルベスターによる全面衝突。
「これに勝てば、ゴティア王子は全日我が授業を受けてもらうということだな! 代々魔王子の教育係を務めてきた名家に、このような骨折りをさせるのだから、その程度の配慮を頂けなければな」
「あーあー、勝手に決めちゃって。でもいいよ」
ベルフェガミリア!?
「キミが勝てば、魔王様に掛け合ってキミの思い通りにすることを約束してあげようじゃないか。魔軍司令の地位に懸けてね」
「言ったな? 魔軍司令殿は、その栄職に見合わぬ怠け者との噂だが。約束を守ることまで怠けることはないと信じますぞ?」
「安心したまえ、適切に怠けるためにやらなきゃならないことがあるってのは心得ているよ」
それって安心できるの?
そうこういう間にこの全面対決。最初の対戦者が進み出た。
ズルベスター側の闘者は……。
「ボクは堕聖剣フィアゲルプの継承家系! 将来は四天王として魔王ゴティア様にお仕えする者だ! その辺の下等魔族と一緒にするなよ!」
「堕聖剣って、僕の家系じゃん。仮にも派閥の長の目の前でいい度胸しているなあ」
ベルフェガミリア様が呟く。
対する農場側から参戦するのは、同じく魔族で大人しそうな小柄の女性だった。
もしや彼女は……?
「フン! このボク相手になよなよした女など、舐められたものだな! 侮ってくれた罰として最強魔法で瞬殺してくれよう!」
そう言ってズルベスター側の対戦者は、魔法の詠唱を始める。
「フレイムブレイズ! 炎よ我が剣となり給え!」
その詠唱は……!?
「獄炎霊破斬!!」
あれは火炎系の最強呪文じゃないか!? まだ修学中であそこまで強力な魔法を習得しているなんて、やはりズルベスターの選んだ学友は実力確か!?
「見掛け倒しの魔法だな。アンチマジック」
「なにッ!?」
農場側の対戦者が指を振るだけで、猛烈な炎が散って消えてしまった!?
「魔族の魔法は、神や精霊との契約を元に発動する。つまりは契約さえしてしまえば実力に関係なく高位魔法は使用可能というわけだ。しかし魔法の発動条件には魔導士当人の魔力が必要不可欠となる。少ない魔力しか保有しないザコ魔導士が使用しては折角の高位魔法も、下位魔法と変わらぬ威力しか発揮できない。今のようにな」
「な、何を……!?」
「上位魔族の権力財力を駆使すれば契約自体はそう難しくない。しかし使い手に実力が伴わなければどんな最強魔法も宝の持ち腐れ。身の丈に合わぬおもちゃを買ってもらったな」
心当たりがあるのか、最強魔法をいとも簡単に破られて青くなるズルベスター側。
でも、いくら実力が伴わないスカスカ魔法でも、あそこまで簡単に無効化させてしまうなんて。
並の、魔導士の技ではない。
「待て……まさかお前は……!?」
その時、農場側の闘者に誰かが気づいた。
「オソじゃないか? 入隊試験で魔力量、魔法知識……双方ともこれまでにない好成績を叩き出して天才と謳われた……!?」
「その後、どういうわけか姿をくらまし、除隊説まで囁かれた新人隊員が、何故今ここで……?」
オソさん、農場でもボクは会ったことがあるし、魔王子のボクに対しても素っ気ない態度であったけどそんなに凄い人だったのか!?
「農場で学べることは、魔王軍にいるよりも遥かに価値あるものだからな。その成果の一端をお前たちにも見せてやろう。フレイムブレイズ、炎よ我が剣となり給え」
「そ、その呪文は……!?」
「獄炎霊破斬」
一軍も飲み込まんばかりの凄まじい火勢が巻き起こる。
先ほど見せられた火炎系最強魔法だが、ズルベスター側とは比べ物にならない十倍近くの勢い。真に実力の備わった者が放てる正真正銘の最強魔法だった。
「ぎゃほわわわぁあああああ~~!?」
ズルベスター側の対戦者は対抗する暇もなく炎に飲まれ、消し炭にされてしまった。
……ということはなく、ベルフェガミリアが行ったアンチマジックでギリギリにことなきをえた。
「別に丸焼きでもよかったんだけど、さすがに死人が出たら後々面倒なことになりそうだからねえ」
怖いことを言う。
こうして一勝目は農場側が掴むこととなった。






