981 ハピエンの神
引き続きクロノス神&菅原道真公と対談中。
お前ら一体手を組んで何をしようとしているんだ?
キリキリ吐け。
まず菅原道真公の証言。
『フッフッフ……聖者よ、そもそも私が何の神であるか、知っているであろう?』
「祟り神?」
『あの頃は本当にヤンチャでした……』
まあ、欲しい答えは別にあるってことはわかっているけれど。
学問の神様ってことでしょう?
あらゆる人類が、ある程度文明を進めると関わらずにはいられない知性知識。それを後天的に修めるのに唯一無二の手段。
『そうすべての人たる者にとって学問は必須! 人は学問をすることで人としての能力と得る。むしろ学問が人間を形成すると言っても過言ではない!』
『そう、人はただ生まれただけではまだ人ではないのだ! 人として生まれ、人として学び、そうすることで完全なる人間が形成される! つまり!』
なんかクロノス神まで乗り出した。
『生ませる私!』
『学ばせる私!』
『『二神の司るものが合わさることによって人間は完璧なる存在へ昇華することができるのだーーッ!!』』
肩を組んで大笑いする東洋の学問神と、西洋の農耕神。
……うん、まあ言わんとしていることは理解できるし、正論だと思うよ。
でもなんだろう、コイツらから言われると釈然としないどこか。
「それでクロノスさんは、菅原道真公に協力を?」
『そうだとも、無造作にホイホイ生ませるだけでは不完全。ロクに善悪も理解できぬ人の子が無造作に増えていき、戦争など引き起こしては却って地上の害となってしまうからな』
そこで道真公の出番。
『私が学問を広めることで、クロノス殿の加護の下多いに増えた人類は教養を得て、優れた人間となる! その上で国を作り法を作り、人類全体を良い方向へと導くことであろう!!』
『まさに私が生ませて!』
『私が学ばせる!』
『隙を生じぬ二段がまえ! 私と道真公こそ人類を守り導くのに最高の組み合わせ! まさしくマリアージュというやつよ!!』
はーっはっはっはっは! また笑う二神。
煩い。
うぅむ、一見何の関係もねーかなと思ったこの神々にこんなにもシナジーがあったとは。
誰だ? コイツらを出遭わせてしまったのは?
俺だ。
俺が色々したおかげで次元を超えた二神が出会ってマリアージュが完成してしまったのか?
いや、全部が俺のせいでもないだろう?
クロノス神のことをノリで復活させたガイア神にも責任の一旦はあると思うんですがね。
「かみさまかみさまー、おとーとをつれてきてくれてありがとー」
ジュニアがノリよくお礼などを申し上げる。
『おうおう、可愛い子よなぁ。懐かしい、ゼウスとかもこんなにあどけない時期があったよなぁ』
ウチの子とあのゲス神を重ねないでくださる。
『もちろん生まれてきた子どもは、我が神徳によって学び、習い、高名なる人材へとなっていくことであろう。もちろん今生まれておる子もなぁ。んん、どんな有名大学に入りたいかのう?』
『おとこじゅくー』
まだよくわかっていないジュニアにほっこりした。
その横でプラティが一心不乱に拝みながら……。
「どうか息子たちをいい学校に! いい学校に! いい学校に! いい学校に!!」
と祈り倒していた。
……かつては反体制の象徴みたいに扱われていた六魔女、その一人であったはずのプラティが、あんなに……。
母親になると変わるものだな。
『まさか異世界でこんなにいい出会いをするとは思いませんでしたのクロノス殿! 我らまさに協力し合うためにいるような神々!!』
『まさにまさに! こうしてみると我ら似た者同士な気もするし、こうして出会えたのがまさに運命というものでしょうな!!』
神様が運命語っちゃうん?
しかし言われてみたら似ているところもあるかもしれない。
なんと言うか……そう、クロノス神も道真公も、各々の世界でみずからの実力をもって駆け登り、頂点を極めたんだよね。
クロノス神はティターン神族の王に。
菅原道真公は朝廷の高官に。
そしてまさに我が世の春を謳歌している真っただ中に……没落する。
『『ん?』』
道真公は、政敵に陥れられて流罪に。
クロノス神は、自分の息子たちとの戦争に破れて地下深くに封印。
無念の最期。
そういうところが似ていると言えなくもない。
『『そうだったぁああああああああッッ!?』』
一緒に叫ぶなよ仲いいな。
『たしかに聖者の言う通り! どんなにたくさん生まれ、最高の教育を施されたと言っても! 最後に陥れられて憤死してしまったら意味はなし!』
『戦争に敗れても! むしろ過程を頑張っただけ悲劇的な結末がより悲しいではないかああああッッ!?』
二神とも必要以上に取り乱して泣きわめいてしまった。
それぞれのトラウマを刺激してしまったかな?
『そうだ! 我らだけでは足りぬ! よく生まれ、よく学び、そして幸福な結末を迎えるためにハピエンを司る神を迎えねば! 三人目のメンバーに!!』
『たしかにハッピーエンド即ちハピエンこそ我々にもっとも必要なもの!! 勝利あってこその友情、努力! 聖者よ! ハピエンを司る神に心当たりはあらぬか!?』
などといきなり言われましても……!?
んーそうだな、俺の数少ない神話知識によると。
『毎日千人殺してやるわ!』と豪語した日本神話のイザナミさんとか?
それはむしろ悲劇的か。
そんなハッピーエンドを司る神なんて唐突に言われてもそんな概念的なものを担当されるなんてなかなかいないというか……!?
どうしたものかと途方に暮れていたら……。
『見苦しいですぞ』
『『何者!?』』
そこへ現れたのは、即身仏がごときミイラの容貌。
死によって永遠を手に入れたノーライフキングの先生?
「どうしたんですか先生、こんなところへ?」
『ワシも新年の挨拶をと思って伺わせていただいたのですがな。召喚した神々のことも気になりますし』
そうか。現状神が現世に降臨するには先生に召喚してもらわないといけないからな。
それより……。
『神ともあろうモノらがなんと情けない……。いつか必ず来る終わりに怯えて、人生がまっとうできますか』
『う、うぬ……?』
さすが先生の貫禄。
神様相手にも一向怯まず堂々と語る。
『たしかに神々の仰る通り、生まれ育ちが良質になれば世界は益々栄えるでしょう。しかし終わりまでも神に決められてしまっては、人の生きる意味が消失してしまいます』
『と、いうと……!?』
『どれだけ神が手厚くしようと人の生はそれぞれのもの。どこへ向かって進み、どのような結末を迎えるかは各人が決めねばなりません。たとえそれが悲劇的な幕引きであったとしても、本人が望んだ末なのであれば大往生と言えるでしょう』
ノーライフキングになってしまった先生に言わせると、謎の説得力がある。
『そこまでも神に委ねられてしまっては、人も生きる甲斐がありません。どうか神々は生まれ、育つところまでを見守りくださいますよう』
『『感動したぁーーーーーーーーーーーッッ!!』』
ここで急に感涙してくる神ども。
『そのように含蓄ある言葉を……! 先生ッ! どうか我らのグループに先生も入ってくだされー!!』
『よく生まれ、よく育ち、よく死ぬ! 我々三神で完全無欠のユニットとなりましょうぞーーッ!!』
そして泣きつかれた。
『おうおうッ!? いやワシはただご意見申し上げただけででしてな! しかもワシはしがないただの不死者で、神と並ぼうとは恐れ多い……!』
『そんなこと言わずに我らの仲間になってくれぇえええッッ!!』
『我らにもご指導ご鞭撻のほどをおおおおおッッ!!』
神にまで教えを請われる先生。
先生の素晴らしさは神にまで伝わったか……。
そう思うと感動で俺までジンと来た。
しかしクロノス神の気遣いによって引き起こされたベビーラッシュ。けっしてクリスマスの浮かれた雰囲気でないことがわかってよかった。
しかし生まれてくるモノはしゃあないので、そこは菅原道真公のご加護におすがりし、しっかりとした教育を施していきたい。
どんな形でも生まれてくる子どもらには最大限の愛を注がないとな!!






