971 聖夜の聖戦
俺です、いいや今宵の俺は俺じゃない。
サンタです。
世界中の子どもたちに夢とプレゼントを届けに行く、思考にして唯一無二の存在。
サンタです。
プレゼントを届けに街を訪れたら武器をもって迎撃されました。
サンタです。
サンタです。
サンタです……!
『悲しんでいる場合じゃねえぞご主人様。ニンゲンども、飛び道具で撃ちまくりなのだー。まあおれ様の飛んでる高度まで届くはずもないしな』
サンタとしてプレゼントを配りにきたら何故か攻撃された件。
「うおおおーーッ! 射れ射れ射れぇーーッ!?」
「矢が全然当たらねえぞ! 途中で勢いを失って落ちちまう!」
「竜が弓矢で飛ばせる限界以上の高さにいるんだ! もっと強力な射出を! カタパルトはないのかぁーッ!?」
「ねえよ、城塞都市じゃあるまいし!!」
皆、親の仇を見るような鬼気迫る表情でこっちを見上げてくる。
その手に凶器をもって。
どうして?
俺は善意でもってプレゼントを持ってきただけなのに、何故敵意でもって迎えられなければならない?
やはり人類とは、わかり合うことのできない生物ってことなのか?
『いや、そんな深い話でもねーだろ。世間一般的なニンゲンどもとすれば、予告もなしにドラゴンが飛来すれば、ハチの巣突っついたような大騒ぎになるに決まっているのだ。むしろ逃げ惑わずに立ち向かってくるところに好感をもてるな、勇敢ってことで』
ドラゴンは勇ましい者を好む。
いや、今日は勇ましさなんてミリもいらない日のはずなのに!
皆が思いやりと安息を感じる、心優しい日がクリスマスのはずでは!?
『クリスマスの本意がどうあれ過程に問題があるんだと思うぞ。そりゃーこの深夜に、いきなりドラゴン引きつれて突入してくればカチコミに来たって思うべきなのだー』
違う! 俺はサンタ!
平和の使者と言っても過言ではない!
この全身に返り血を浴びたかのような真っ赤な衣装を見てご理解くださらないか!?
『言い方からして問題があると思うんだがなー』
煩いヴィール。
こうなれば正攻法にして究極の手段、説得! 会話による相互理解で誰もがわかり合える!!
「地上の皆さん聞いてください! 私はサンタクロース! 子どもたちのために飛来せしクリスマスの使者!!」
「なにぃー!? 狙いは子どもたちか!? 益々許せん! 街の衆、あのトチ狂った全身赤色男を近づけさせるなー!!」
ますます激しくなる弓矢の攻勢。
ダメだ最善唯一の策である説得が効かない!?
人はやはり、わかり合うことのできない生き物なのか!?
バベルの塔が崩されてより、人は言葉で通じ合うことができなくなってしまったのか!?
『今回の場合もっと別の問題があるように思うがなー?』
くそッ、このままでは子どもたちへプレゼントを配れない。
まだたった一人にしか贈れていないのに。あの簡易望遠鏡を受け取れってくれた子どもの笑顔は忘れられない。
あの笑顔を、もっとたくさんの子どもたちへ届けてやりたいのだ!!
「ふっふっふっふ、苦戦しているようねセージャ」
何ッ!?
誰だ俺の名を呼ぶのは!?
いや違う。そもそも俺の名はセージャでもないし、今夜の俺はサンタさんだ!
そういう問題じゃない。
俺を『セージャ』と呼ぶアホは、世界にたった一人……!?
「レタスレート!? 何故こんなところに!?」
「おーっほっほっほっほ! こんな夜中にどこへ行くかと尾行してみたら、なんだかおもしろいことしているじゃない!?」
レタスレートめ、いかにもなお姫様笑いを今頃になってしてくるとは……!?
元々正真正銘のお姫様だからって、そんな笑い方したこと一度だってないだろう!?
「下々の者たちに施し満たす……。なかなか高尚な行いじゃないの。私もかつての王家の血がうずいてきたわ、ここは協力して庶民に施してあげようじゃない!」
「な、それは……!?」
「そう今宵、私もサンタになるのよ!!」
ななな、なんだってーッ!?
この地上にサンタは一人でいいのに、レタスレートが二人目のサンタとして参戦!?
サンタクロース2Pカラーってこと!?
「バカめ身の程知らずなことはやめるんだ! サンタは誰もがなろうと思ってなれるものではない!!」
サンタクロースになるには、様々な条件をクリアしなければいけないんだぞ!
まずは赤い服!
そうサンタには真紅の衣装が必要なのだ!!
「それなら、もう着ているわよ」
「ミニスカサンタッ!?」
これがある意味、もう一つのクリスマスの風物詩ミニスカサンタ!?
それが何故異世界に!?
「バティが作っていたのよ! アンタのその服もバティに作ってもらったんでしょう!? その時に沸いたインスピレーションが炸裂し、もうこうした形で派生していたのよ!」
バティめ……!
通常サンタ服をヒントにミニスカサンタ服を異世界に創造するとは……!
相変わらず服作りの天才め!!
「しッ、しかしサンタ服だけでサンタになれるとは言えない! サンタと言えばそう、相棒であるトナカイがいなくては!」
そのためにも俺はヴィールに頭を下げてトナカイ役を請け負ってもらったんだ!
さあ、レタスレートよ! お前にトナカイはいるか!?
お前の隣に相棒はいるのか!?
「フッ、わかっていないようねセージャ。私には常に離れることのない二人で一人の相棒がいることを……」
「なにぃ……!?」
俺が戸惑う一方で、地上にいる街の住人さんたちも『アイツら何やってんだべぇ?』と戸惑い中。
「……そうか! レタスレートには相棒のホルコスフォンが……!!」
「その通りよ、今夜の私にはホルちゃんがトナカイとなってそりを引いてくれるのよ!」
その宣言通り、天使ホルコスフォンがトナカイコスで、レタスレートの乗っているそりを引いていた!?
だから普通に空中にいたレタスレート!?
「私が……トナカイです」
いいやお前は天使だ。
なんということだ。真っ赤な衣装に相棒のトナカイ、必要なものすべてを取り揃えて第二のサンタクロースとなっている!?
『ぬう……! トリ人間め、まさかおれ様と同じ領域に入ってくるとは……!?』
「トナカイがアナタの専売特許だとは思わないことです。いいえ、むしろトナカイは一頭でいい。どちらが真のトナカイか、ここで決着をつけようではありませんか」
バチバチと火花を散らすトナカイたち(?)。
俺たちも決めねばならないようだ。どちらが本当の……真のサンタクロースであるかを。
「ふん、ならば私こそが勝者で決まりね。サンタクロースとしてもっとも重要なものこそ、私の方が秀でているんだから」
「サンタクロースにもっとも重要なものだと……!?」
そんな、サンタクロースもクリスマスも昨日今日知ったばかりであろうレタスレートが、サンタクロースの真髄に気づけているというのか?
前の世界で二十何年以上、ボッチの側からクリスマスを眺め続けてきた俺よりも……!?
「いい、サンタクロースとは……プレゼントを配る生き物でしょう!? つまりプレゼントがなければサンタにあらず! プレゼントあってこそのサンタ!!」
「そ、それは……!?」
たしかにそうかもしれない……!
プレゼントを持参してきていないサンタさんなんて、ただの不法侵入の変質者だ!?
「よって私は、プレゼントを用意したわ!! 誰もが喜ぶ最高のプレゼントを! だからこそ私が最強のサンタ! 最高のプレゼント=最高のサンタという無敵の方程式なのよ!!」
「最高のプレゼント!?」
あッ。
なんかオチが読めてきたわ。
『ご主人様、おれもうオチが読めたぞ』
ヴィールも先がわかったようだ。
そりゃもうこれだけ繰り返されたらなあ。
「さあ下々の者たちよ! これが私からアナタたちへのプレゼント!! 有難く拝領するがいいわ! この豆を!!」
豆!
やっぱり!!
レタスレートが豆以外のものを放出するわけがないんだよなあ!
『しかもやべぇぞご主人様!? ヤツがバラ撒く豆の量が半端じゃないのだ!?』
ヴィールの言う通り、ヤツの持ち出したプレゼント袋こそ白くてクリスマス然としているが、その口から吐き出される豆が、凄まじい量&勢い!?
あれは大豆か!? 基本だな!
上空にいるレタスレートのプレゼント袋から吐き出される大量の豆は、まるでナイアガラ瀑布のように地表へと降り注いでいく!
「遠慮せずに召し上がるといいいわ! アナタたちのために農場から備蓄用豆四千万粒を用意してきたのだから!」
「そんなに袋に入るのかよ!?」
空間歪んでるんじゃねえかその袋の中!?
四次元ポケットか!?
いかんこのままでは街が豆に埋もれかねない!
真冬に豪雪じゃなくて大豆に閉ざされる街なんてシャレにならんぞ!
やめるんだレタスレート! 豆をまく行事は、さらにクリスマスから二ヶ月先の別のヤツだ。
しかも最近は海苔巻きを丸齧りする方にとってかわられている気がする!!






