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965 ツリーの資格

 というわけで我々はクリスマスを執り行う。


 粛々と。


 全力を挙げて、皆が清らかに楽しめるクリスマスパーティを準備せねば。


 ……クリスマスが俺の誕生日だという勘違いはもう正す気勢も失せました。

 まあそれならそれでいいじゃん。誰にだって生まれた日はあるだろうから。


 それよりもクリスマスよ。

 いかなる用意をすれば、それらしい立派なクリスマスパーティになるであろうか?


 サンタを呼ぶ?

 しかしサンタクロースの本格的な出番はパーティの終わったあとだしな。


 クリスマスケーキ……は当然用意するとして。

 またお決まりのごとく女子たちの間で争奪戦が起こるんだろうなあ……。

 ウェディングケーキのように大きめのものを用意しておかないと。


 そして他でもないクリスマスケーキであることを主張するためにケーキの上に乗せておくもの……。

 サンタ型の砂糖菓子。

 あれどうやって作るんだろうか?

 ちょっと想像つかんな、他の準備を進めながら対策を練ろうか。


 さらに他にあるとして……そう。

 肝心要のものに思い当たったぞ。


 クリスマスツリーだ!!


 あれこそクリスマスの象徴!

 あんな巨大な樹を飾る行事なんてクリスマス以外にはあり得ない!

 クリスマスツリーさえ飾っておけば、バレンタインと間違われることもハロウィンと間違われることもない!

 七夕は……、いや大丈夫。

 同じ植物でも針葉樹と竹笹ではかなりの違いがあるからな。


 しかし取り扱いに注意しないと異世界の文化流入はすぐに予期せぬ混同が行われるから、気づいたらツリーに願い事かかれた短冊がぶら下がっていることなんて大いにありうる。

 逐次注意せねば。


 いや、飾りの前に樹本体だな重要なのは。


 クリスマスツリーといえば、モミの木。

 冬らしく北方の針葉樹なのは情緒的だ。


 ならば俺もモミの木を用意してクリスマスツリーに充てたいところだが、さてどうやったものか?

 やはり農場としては、地面から生えてくるモノならば自給自足で用意したい。


 しかし今まで針葉樹なんて必要とした機会あったっけ?


 今まで必要としてきたのは果物のなる果樹であったし、……いや、材木として使用してきたスギやヒノキはどうだろう?


 松は……さすがに和風クリスマスツリーになりすぎない?


 まあダンジョン果樹園に言って実際に確かめながら検討してみようか?


『お待ちくだされ!!』


 そこへ誰かから呼び止められた。

 誰?


『樹のこととあれば私に一声かけていただかなければ困りますぞ! 何であろうと私にお任せあれぁああああああッッ!!』


 お、お前は……!?

 桜の木!?


 桜の木が、根っこを多脚のようにうねらせて西の方から走ってくる!?


 いや桜の木が自立歩行でこっちに押し寄せてくるのは恐怖なんだけど、農場であればこれも馴染みの風景。


 何故ならアイツは、我が農場が研究と奇跡を重ねて創り出した桜の木にして世界樹。

 ヒト呼んで世界桜樹だからだ!


 世界樹の葉を桜に接ぎ木して出来上がったアレは、RPGによく出る世界樹の特性も持ち合わせているからとにかく巨木!

 そして葉っぱには滋養強壮、万病快癒、死者蘇生に効く。


 しかも樹木に憑りつく特殊な精霊……樹霊がインしているため植物のくせにどこへでも移動できる便利なヤツ!


『聖者様! そのクリスマスツリーという大役! 是非ともこの私めにお任せあれ! 世界樹として巨大な背丈を持つ私なれば、きっと飾りつけも映えましょうぞ!!』

『ちょっと待ったぁああああーーーーッ!!」


 今度は何!?

 世界桜樹に続いて、東の方から駆け寄ってくる樹木は『知恵の梅の木』!?

 世界桜樹同様、農場の奇跡によって爆誕したヤツ!


 梅の木と、とある楽園に植えられているという、食せば万能の知恵が身につくという神樹を掛け合わせた樹だ。


 実る梅は、知恵の果実と同等の効力があり、一粒食せば人は原罪を背負い、果てなき知恵と知識を得て、志望校合格間違いなし。


 そんな『知恵の梅の木』と世界桜樹が、農場のド真ん中でガチンコ睨み合っている!?


『おのれ梅の木……性懲りもなく世界を支える大樹にして、和の心を代表するこの桜に盾突こうというのか? 花は桜木、人は武士という賞賛の言葉を知らんのか?』

『だったらこっちは梅は百花の魁よ! 聖者様がクリスマスツリーという栄誉をお与えくださるなら、それを黙って見過ごす梅さんではないわ! 特に桜、貴様には絶対に負けん!』


 どうやら農場の樹木たちは、クリスマスツリーに選ばれるということを最高の栄誉と思って争奪戦を始めるようだ。


 とりわけ桜と梅はライバル心剥き出しだから一波乱なしには決まらないだろうなあ。


『桜というヤツはことあるごとに目障りな! そっちが武士の心ならな、こっちは平安貴族の魂じゃあああッッ!!』

『過去の栄光に縋ってんじゃねえ! こっちは現代でもバリバリのお花見スポットよおぉおおおおおおッッ!』

『いいだろう春になったら決着つけてやると心に決めていたが、冬のうちに叩きのめしたらぁ!』

『望むところだ雪に屍を埋もれさせるがいいわぁ!!』


 ボルテージはうなぎ上りで今にも乱闘が始まりそう。

 お互い樹なのに。


 しかし俺は、あまりにも気になったことがあったので、それを告げるために割って入る。


「あのー、やる気漲っているところ悪いんだけれど、両名共にクリスマスツリーにはなりませんよ」

『『なんですとッ!?』』

「だってキミら落葉樹じゃん」

『『ぐはぁあああああああああああッッ!?』』


 冬になると葉を落とし、まっさらな枯れ木になる種類。


 いくら何でも生い茂る葉もない樹にクリスマスの飾りつけしても虚しいだけじゃない。


『枯れ木も山の賑わい!!』

「それっぽい格言持ち出してもダメだから」


 クリスマスツリーはね、一年かけて常に緑葉で生い茂る樹にお願いしようと思っています。


 桜さんと梅さんは、冬明けの春にこそ奮闘してもらおうってことで……。


『クックックック……ならば、この私の出番のようですなあ』

『『何ヤツ!?』』


 また新しい登場人物が!?

 いや人?

 また樹木なんだろうな。


『春夏秋冬すべての季節において、青々と葉を茂らせることがクリスマスツリーの条件……! だったれば私にこそその資格があるでしょう。私こそ常緑樹、私こそ散ることなきとこしえの葉っぱ!』


 そうして現れた、常緑の樹木。

 それに憑依して現れたのは……!?


 ヤシの木!


『『ダメだろうがよっ!!』』


 これには総ツッコミ入りました。


『え? なんでです? 常緑樹ですよ私?』

『それはお前が常夏の地に自生してるからだろッ! 葉を落とす必要がないんだよッ! 常に活性適温だから!』

『私らだってなあ! 冬寒くならないんならわざわざ葉を落としたりしないんだよッ! 落葉のメカニズム知ってる!?』


 落葉樹は、冬の日照量が少ない時期に、無駄なエネルギー分散を防ぐために葉を落としているんですね。

 そして太陽燦燦照り輝く夏に向けて、葉を生い茂らせるわけです。


 だから赤道直下みたいに一年中高温多湿で日照量に事欠かない土地では、葉っぱ落とす必要がないってことなんですよ。

 年がら年中光合成し放題の大フィーバーだから。


 そんなところで生い茂っているのがあのヤシの木くんというわけですよ!!


『まさにレギュレーションの穴を突いてきたってことですよね』

『自分で言うな!!』


 どっちにしろヤシの木のクリスマスツリーありえないだろう。

 飾りを取り付ける部分があまりにも限定されてしまう。

 それに常夏のイメージが先行しすぎてクリスマスのイメージも台無しだよ。


 そうやって冷静に分析している自分もアホらしい。


 結局のところクリスマスツリーは、北方のツンドラ気候帯に生えている針葉樹を見繕って、ヴィールに運んでもらうことになりましたとさ。


 運搬後はダンジョン果樹園に移植して、来年以降もクリスマスツリーとして活躍してもらう予定。

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[気になる点] ところで桜さんや。あんたパロディウスにいませんでした? 地形扱いで触れたらミスになるから避けたのに、いきなり歩いてくるからぶつかってしまった記憶があるんですが。
[良い点] ヤシの木、随分と陽キャ気質ですなぁ···お日様がさんさんと照ってる地域に生息=根が明るいってか?うるさいわww
[一言] 先輩達がココまで濃ゆいと、モミの木に憑く樹霊はどんなクセの強い奴なんだろうと期待して止まないwww
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