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957 古の聖女

「でも大丈夫! 私は聖女だから! 私が復活できたのは聖なる神々の思し召しだから! だから私は邪悪なアンデッドではない! よって無罪! 証明終了!」


 何やら勝手な理論武装でマインドクラッシュを回避したらしい聖女さん。


 ホントに何なん?

 そもそも聖女って何なん?


「よくぞ聞いてくれたわね! それでは三百年ぶりの復活となったこの聖女マラドナ様が、聖女の何たるかについてお教えしましょう!!」


 もう復活したことについてはスルーなんですね。

 ある意味、復活は聖人にとってステータスだからな。一回死んで甦ってからが一人前というか……。


「聖女とは! この地上でもっとも聖なる存在、教会からもっとも聖なる者として認められた女性のことを言うのよ!」

「はあはあ」


 はえー。

 しかし“聖なる”の単語が乱発するなあ。


「教会では数年に一度、数千人という単位のシスターが集められて、その神聖さを競い合わせるのよ! そして戦って、戦って、戦い抜いて……最後まで勝ち抜いたシスターを聖女と呼んで讃えるのよ!!」

「なるほどなぁ」


 思ったよりストロングそうな選別方法。


「もちろん聖女は、選ばれて終わりではないわ! 聖女に選ばれたからには全身全霊を尽くして、この世界に聖なる恩恵をもたらさなければいけない! そのために私は戦い続けなければならなかったのよ!!」

「へー」


 相槌一級建築士の俺。


 まさかそのためにノーライフキングの先生を狩りに来たと?

 そりゃー、ノーライフキングなんて世界二大災厄と呼ばれるほどのバケモンで恐ろしい手合い。

 退治できるものなら退治しておきたいだろうが……。


 その聖女の『聖なる』ってのは最強アンデッドに通じるレベルの『聖なる』なんですか?

 違うんだろうな、今ある結果を見ると。


「生死の理から反したアンデッドの存在を、教会は認めておりません! それゆえに私は聖女として、すべてのアンデッドをこの世界から抹消すると誓いました!」

「うわー過激」

「死者には安らかなる眠りを! それこそが神の教え」


 それでアンデッドの最上位ノーライフキングに挑もうと?

 理想高いなあ、もうちょっと手ごろにゾンビ辺りにしておかないの?


「大丈夫! 私アンデッド駆除資格準一級持ってるから!」


 どこ発行の資格やねん。

 しかも準一級かよ。アンデッドの最高峰ノーライフキングを倒すんならただの一級持ってこいや。

 そしてその憂いが見事に現実のものとなって落命しとるやんけ、お嬢さん。


『ほっほっほ……、それで狙われる方も堪ったものではありませんがのう』


 先生も苦笑交じりであることよ。


「この地上からノーライフキングを一掃するために、全国ノーライフキングが巣食うダンジョン巡りを敢行していたところだったのよ! でも死んでしまったとは……! 私は道半ばで倒れてしまったということね、情けない……!」


 随分恐ろしい企画を敢行するものだ。

 無謀と勇気をはき違える系の。


 そりゃリタイヤするのもやむないが、彼女が一体どこまで進めたのかも気になる。

 仮にも聖女を名乗るぐらいだからな、もしかしたら本当に一般的なノーライフキングと伯仲の戦いを繰り広げていたのかもしれんし……。


 先生はまあ……。

 一般的なノーライフキングの枠には入れられないレベルの激強別格ノーライフキングであるからして。

 そんな先生と当たるまでに一体、どれだけのノーライフキングと戦ったのか?


「ここが最初の一ヶ所目だったわ。……まさか最初の一歩目で躓くとはッ!」


 全然ダメな子だった。


 というか最初のステージでラスボスに挑んだのかよ。先生のダンジョンに行くってそういうことじゃん。


 しかしこれでは本当に彼女がノーライフキングに挑めるだけの実力の持ち主かよくわからん。


『だったらこやつで試してみましょうかの』


 と先生。

 何事です?


 そんな先生は、何やら懐から取り出した。

 手に持つのは……球体? 

 その手のひら大のボールを放り投げて先生……!


『伯爵! おぬしに決めた!!』


 叫ぶと同時に空中にある球体が真ん中からパカッと開いて、中から稲妻迸り地表に落雷!

 その輝きの中から現れたのは……これまたノーライフキング!?


『ノーライフキングの伯爵参上!……ってなんやねん!?』


 思わず関西弁で突っ込んでしまうのも無理はなし。


 俺だって『なんやねん!?』って言いたいもん。

 なんでそう球体の中から最強アンデッドが出てくるの?


 先生に説明をプリーズ。


『こちらは伯爵と言って、以前悪さしていたのを懲らしめたノーライフキングです』


 うん知ってる。

 こないだの冒険者たちのS級試験でも出していたよね。


『ごく一般的な水準のノーライフキングですので何かと使い勝手がよくてですのう。便利使いできると気づいて持ち歩いておるのですわ。小型封印球にいれましての』


 便利使いされているノーライフキング……!

 果たしてそれはいいことなのかどうか?


『さあ聖女とやら、おぬしが真に実力ある者なら、この伯爵ぐらいは撃破できるであろう試してみよ。何しろこの伯爵の強さはノーライフキングの中ではごくごく標準的であるからのう』

『標準言うなッ!?』


 さすがにご立腹の伯爵。

 しかし……。


『何か?』

『なんでもないっす! 頑張ります!!』


 先生に睨まれると何も言い返せない伯爵だった。


 ホント便利使いさせられておるが、あれで昔は悪逆の限りを尽くしていたらしいので同情する気にはなれない。

 ああして先生の下でカルマの消化を続けていたらいつか解放される日が来るだろう、それまで頑張って。


「ほほう、ノーライフキングがノーライフキングを従えるなんて、なかなか面白いわね……!」


 それを見て不敵な表情を浮かべる聖女さん。

 その自信たっぷりな顔つきに……却って不安を覚える。


「つまりは前座ということね? 大ボスノーライフキングの前に、ザコノーライフキングで腕試し! いいでしょう受けて立つわ!」

『いい度胸だな小娘!』


 挑発の言葉にやる気奮い立たせる伯爵。

 一体勝負はどんな運びになるかというと……。


   *   *   *


 一方的だった。

 三秒と経たずにボコボコにされてボロ雑巾のように転がっていった。


 聖女が。


「おじゃぱああああああああああッッ!?」


 最後には吹っ飛ばされ、空中で十六回転ほどしながら落下、地表に激突して砂塵を巻き上げた。


『ヴィクトワール!!』


 対する伯爵は、かすり傷一つない完勝。

 これが格闘ゲームなら『パーフェクト!』と声が上がるほどだ。


 むしろ『やりすぎではないか』と先生が瞳を怪しく光らせる。


『伯爵くんさぁ……?』

『いやッ、違います! けっして大人げないプレイをしたわけではないというか! こっちもわざわざ一時封印解除されてまで呼び出されたんだから相応の相手だろうと気を引き締めてかかったらですね! 思いのほか軽かったというか、勢い余ってというか! こっちもビックリするくらいというか……!?』


 めっちゃ早口で言いわけをまくしたてる伯爵。

 言いわけして、いいわけ?


『つまり何と言いますか、ありていに言って申し上げると………………弱いッ!!』


 そしてぶっちゃけた。


『想像を遥かに超えて弱い! 何ですかアレはッ!? アレなら先日挑んできた冒険者どもの群の中に、もっと強いヤツがチラホラいましたぞ! あんだけ弱ければダンジョンに巣食うモンスター程度で充分だったのでは!?』

『ホントにぃー?』

『マジですって!』


 ここでしくじっては永久封印もあり得るということで必死に弁明する伯爵だった。


 その一方で地に這いつくばる聖女さん(自称)は……。


「……ふッ、なかなかやるようね」


 立ち上がりながら言った。

 あんだけボコされながら立ち上がるなんて根性だけはある模様。


 しかもなんか……体のそこかしこから炎が上がっている?

 伯爵さんの攻撃によるもの? いやでも炎系の攻撃とかしてなかったような!?


『あれは再生の炎のようですのう』


 先生が分析する。


『聖者様のギフトによって復活する際に属性付加されたのでしょうな。火葬された際にでも結びつきができたのか。幾度焼き払われようとも灰の中から甦る不死鳥の属性。再生能力は地水火風すべての自然の力に宿っておりますが、実は炎こそがもっとも強い復活の力を秘めているのです』

『焼き尽くす力が大きいだけ、反動も大きいということだろう』


 伯爵まで一緒に説明に加わってくれる。


「新しい力を授かったのも神のお陰ね! 天の神々よ御照覧あれ! この力で必ずや神の恩恵に相応しい清浄の大地にしてみせます!」


 聖女一人だけが元気だった。

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[一言]また面倒くさそうなのが出てきたな。相変わらず何も考えていない聖者様だね。
[良い点] 馬鹿な子ほど可愛い
[一言] とりあえず女子プロ団体に放り込んで パンドラの相方にするか
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