952 異世界ロボット大戦
ふぃー、俺です。
今年のオークボ城も無事終了した。
一時はどうなることかと思ったけれど、リテセウスくんが思った以上に上手く立ち回ってくれたおかげで無事収束できた。
かねてからの問題となっていたプロ出場者たちも、人間共和国政府直営軍に招聘されることでしっかりと職を得る運びとなった。
公務員だよ公務員?
兵士だろうと政府に雇われるからには立派な公務員だ。
半分無職みたいなプロ出場者から異例の大抜擢であろう。
ちなみに副業禁止ということで、オークボ城への参加は原則禁止らしい。
いや、オークボ城に参加するのはいいんだけれど、それによって金銭を得て利益を上げるのが禁止になるらしい。
副業禁止だからね。
そのことを伝えて『来年も参加できるよ! よかったね!』と言ってあげたが『儲からねーのに出る意味あるのかよ! バカか!』と泣きながら言われた。
そしてリテセウスくんに引きずられて去っていった。
まあ安定してオークボ城をクリアできるフィジカルがあるんだから兵士としても立派にやっていけるでしょう。
さらに注目されたネヨーテくんに関してだが、人魔人魚の公的機関+冒険者ギルド四つ巴の争奪戦の結果、それぞれが持ち回りで預かっていくことになったそうだ。
人間共和国政府、魔王軍、人魚宮、冒険者ギルドと一年単位で指導していくとのこと。そのうち農場学校にも入学する予定。
そんな忙しないスケジュールで却って勉強も身に着かないんじゃないかと心配になったが、ネヨーテくんならできるんだろうな……と思った。
なんたって苦労性だから、期待されれば応えなければ実力以上を発揮するんだろう。
……途中で潰れなきゃいいけど。
適度にサポートしとくかとも思うが、サポートに関しては同類のクローニンズたちがいるんだからケアは心得ているだろう。
イベント自体も大盛り上がり。
本戦の外でも、また出店したレタスレートやらヴィールが大盛り上がりしたようだ。
ラーメンは美味いし、あと納豆も安定した人気を誇っているからな。
それに加えてプラティもカレー屋を初めて人気を博しているとのこと。
ノリトを背中におぶってママさん店長が切り盛りするカレー屋は、まずはその名物店主への注目で大盛況。
カレー自体は最初『オソマ?』『オソマか……?』と警戒されていたが、カレーの原料となっているスパイスの香りが食欲を刺激し、途端に大行列ができたという。
そのうちカレーラーメンや豆カレーなどコラボ商品も発売されて大喝采となったようだ。
あとジュニアが今回本戦に出場して、フツーにクリアしていた。
そんなこんなですべての催しが無事終わり、今年のオークボ城も大団円! となろうとしていたところだが……。
「よーし、みんな撤収作業よろしくー」
「我が君、我が君……!」
「はい?」
「空を……!」
オークの一人から促されて空を見る。
空になんかあるの? と思ったがたしかにいと高き空から舞い降りてくるなんだあれは?
鳥か? ヒコーキか?
ははは、バカだなあ、鳥はともかくこのファンタジー異世界で飛行機があるわけねえだろ?
と思ったが……!
「ロボットだぁあああああああッッ!?」
飛行機以上にあり得ないのが来た!?
巨大ロボット!?
こんなのが飛来してくるなんて前の世界でもありえないよ。
未来じゃん! 宇宙世紀じゃん!
いつの間にこの世界はサイエンスファンタジー異世界、略してSF異世界になったんだ!?
知ってるよ本当のSFの略はサイエンスフィクションだろ!
すぐ言葉尻掬ってくるんだから!
ともかく空から巨大ロボットが下りてくるという予想だにできない事態!
大体のロボットは天から舞い降りてくるか地中から発掘されるのがセオリー!
「一体なんだ? なんなんなんだ……!?」
俺だけでなく、イベント終わって帰路につこうとした観客、出場者たちまでも驚愕の自体に視線を釘付け。
「オークボ城の追加イベントか?」
「本当にイベントてんこ盛り盛りだなあ……!」
違うよ! 俺たちにとっても不測の事態だよ!?
一体あのロボットは何しに名も告げずに飛来してきたのか?
戦争根絶が目的なら遅きに失していますが。
ガジャキン! 的な効果音を上げて腕を上げる巨大ロボット。
何かと思えば、指さしている?
巨大ロボの指さす先には、オークたちが建造した可変城型ロボット、オークバトラーが!?
「まさか……『戦え』というのか?」
オークバトラーと?
戦うべきライバルがいるから天から降りてきたというのかあのロボットは!?
「挑戦されたからには受けて立つのが世の習い。降りかかる火の粉は払いましょうぞ!」
それを受けてオークボが勇ましく名乗りを上げる。
しかし待て! ちょっと待つんだ!
俺にはわかる、あの飛来してきた巨大ロボット、見るからに高性能だぞ!
天から降りてきただけに飛行機能はあるでしょう?
それに装備も充実している。
右手にはライフル、左手には盾を持っていて、背中に剣までしょってるんだ!!
全身見るからに硬そうな金属で構成されているし、きっと超合金ってヤツだぞ!
他にも隠された各機能が搭載されているに違いない!
「それに比べてオークボたちが作った城型可変ロボットは……」
やはりお城なので基本木造。
農場で伐採した硬い樹木が素材なので普通よりは強固だろうが、しかし飛来ロボットの聳え立つ黒鉄の城みたいなボディに到底及ぶとは思えない。
そして俺たちの城型ロボットは丸腰。
銃もなければ剣もない。
当然ながら必殺技もない。
そんな状態で完全武装のあのロボットへ立ち向かおうというのか!?
絶対無理だ、一方的に破壊されるぞ!
せっかく皆で頑張って作ったロボットを、そんな風に壊されていいのか!?
「我が君……、ロボットとはただ飾って愛でるために作られるのではありません……!」
そのセリフどこかで他の誰かが言っている気がする!
「ロボットは戦って勝つためにあるのです! だからこそ挑まれた戦いから逃げるわけにはいきません! 正面から立ち向かい勝利する! そう信じているのです! 私たちが愛情込めて築き上げた最高のロボット、オークバトラーだからこそ!!」
オークボ……!
そうか、愛情込めて作ったからこそ信じないわけにはいかないよな。
たとえその結果、傷つくことになったとしても。
挑戦から背を向けるわけにはいかない!
行くんだオークボ! お前の最高傑作オークバトラーを信じて!!
「はいッ!」
城モードだったものが変形して人型となり、空から来たロボットと対峙する。
巨大ロボットvs巨大ロボット。
言わずもがなの大スケールド迫力の戦いだ。
帰りかけていた観客たちも、いきなり始まった緊迫感に固唾を飲んだ。
しかし……。
オークバトラー不利という戦況に変わりはない。
彼我の戦力差は明確だ。
オークバトラーとあの飛来ロボットの性能差は、江戸時代のカラクリとSF兵器ぐらいの差があるだろう。
すぐさま木っ端微塵にされてしまうかもしれない。
しかしプライドがある限り戦わねばならないんだ。
どんな状況でもチャンスがあると信じているぞオークバトラー! お前は戦士なのだから!
「ロボットファイト、レディゴー!」
と審判ぽい人が言った。
審判ぽい人って誰?
開始の合図を受けて突進するロボット二体。
その拳が、剣が、ぶつかり合おうとした寸前……。
爆発四散した!
空から飛来したロボットの方が!
一体何故!?
『無事か? 危なかったなー!』
そう言いながらバッサバッサと翼を鳴らしてきたのはドラゴンのアレキサンダーさん。
この人のブレスで一撃粉砕。
だってそりゃそうさ最強ドラゴンなんだもの。
『間一髪で私が間に合ってよかったな。一体何者であろうかこのめでたい祭りに乱入などと。もう少しで素晴らしいオークバトラーが破壊されるところだったわ!』
「…………」
俺もオークボも煤けた目を向けるしかなかった。
いや、助けてくださったのはありがたいか。
しかし男と男の勝負。
ロボット同士の一騎打ちというロマンを、ドラゴンが理解するのはまだ先のことのようだ。






