945 進撃の巨城
「理不尽展開こそ良ゲーには必要だろう」
と言うのは俺。
今年も始まりましたねオークボ城。
前回以前に比べてかなり趣向が変わっております。
唐突な出場者抽選。
出場希望者激増の傾向は前から指摘されてはいたが、時間別の複数開催あるいは純粋な規模拡大でこれまでは対応してきた。
それが今年になって方針転換し、出場者を抽選するようになったのは何故か?
オークボから提案された新企画に答えはある。
企画会議でオークボが提出してきた新オークボ城。
それは城形態から人型形態へと移行する可変式巨大ロボット城だった!!
男の子が大歓喜のギミック。
城自体が巨大なものなので、それが変形したロボットも自然巨大なものとなる。
全長二十メートルとかそれくらい。
まんま戦隊モノかガン○ムの世界やんけ。
話を聞いただけで俺の心はときめいた!
この気持ち、まさしく愛だ!
ともかく二つ返事でGOサインを出した結果、オークボ率いるオークチームは全力挙げて作成し、ついには完成させてしまった。
しかもビックリ、ちゃんと動いて歩きもすればパンチも繰り出すしキックもする城ロボット。
ただ模型然と突っ立っているわけではない。
ちゃんと巨大ロボットしているのだ。
巨大ロボットを模した立像というわけではなく、完全に巨大ロボットして実用化が成立している。
いつの間にこんなものまで作れるようになっていたんだオークボたち?
農場驚異の建築技術。
ということで完成されたばかりの城ロボット……通称オークバトラーは今、抽選漏れしながらも本戦出場を果たさんとする意欲者たちに文字通り、障害として立ちはだかる。
「待て待て待て待て待て! ふざけんな、ふざけんなふざけんな!」
そんな挑戦者の一人が声を震わせて言う。
「こんなのどうやってクリアしろって言うんだよ!? というかどうすればクリアなの!? こんな動く城を相手に何しろって言うんだよ!?」
「無論、倒せばクリアですが?」
「だからそれがふざけんなぁあああああああああああッッ!?」
オークボからの解説に出場希望者からは非難轟轟。
「こんな巨大なゴーレムに、オレたちでどう勝てって言うんだぁああッ!? オレたちは魔王軍でも冒険者でもないんだぞ! モンスター退治なんて専門外だぁあああッ!?」
「そうだ! アスレチックとバトルは別物だ!」
「しかもあんな巨大なヤツ、魔王軍四天王だって無理だろ! レギュレーションをしっかりしろよ! クリアできないクソ設定を入れるなああああッ!」
一人ならぬ出場者たちから波濤のブーイング。
しかしそれに気圧されるオークボではない。
現状世界一の覇気の持ち主だ。
「クリアできない設定、それが何か?」
「「「「「は!?」」」」」
一斉に飛び出す『は!?』。
異口同音とはまさにこのこと。
「勘違いしないでいただきたいのですが、こちらが絶対クリア不可能な課題を出したところで落ち度にはなりません。ここにいる方々の多くが幾度となく過去のオークボ城に出場し、クリアしたことへの意趣返しと思えば」
「そ、それは……!?」
「こちらが把握していなかったと思ったのですか? いや、毎回出場してくださるからには感謝を述べるべきでしょうが、常連の中にはクリアで得た商品を転売し、大金をせしめていたということで、これらの行為は不健全であると判断しました」
そう。
先ほどは抽選と言ったものの、その裏には明確なタネがあった。
オークボ城の全アトラクションをクリアすることで、農場産の色々なものを景品としてもらえるシステムは第一回からあった。
それは今年まで伝統として続いているが、出場者の中には連年参加、かつ全アトラクションクリアして確実に景品ゲットし、しかもそれを売ることで生活費を稼ぐ輩がいることが判明し、問題となった。
いや一旦上げたものだから、それを相手がどう使おうと自由という考え方もある。
しかし初っ端から転売目的なのもどうなの? とか色々話合われていくうちにやっぱり対策は必要だという結論になる。
具体的にどのように対策していくかという話になると、そうした常連たちをシャットアウトしていくのも不公平感があり、かといって転売目的常連が容易に景品ゲットできないように難易度を上げると、新たに参加したライトユーザーまで一緒に締め出すことになってしまう。
かといって景品のグレードを下げても大会全体が盛り下がるし……。
色々と悩み抜いた挙句、オークボの巨大可変人型城のアイデアを受けて便乗した手段がコレ。
抽選と入ったものの、裏では問題となっている転売目的プレイヤーの番号をしっかり控えて除外しておいた。
さすれば必然、彼らは抽選から漏れて不参加となってしまう。
あくまで運任せを装って、彼らを本戦から除外したが、それだけでは根本的な解決にはならない。
ここで終わってしまえば、それは運営側の強権で締め出したことにしかならないしアンフェアであろう。
そこで彼らの前にオークバトラーを立ちはだからせた。
「さあアナタたちが真にプロならば、この試練をも突破し見事本戦に復活してみせるがいいでしょう! 皆が平等に楽しめる大会運営のための、追加アトラクションと思ってください!」
「だからふざけるんじゃねえってんだ! これもうアトラクションの域を超えてるだろ! 巨大ゴーレムと戦って勝てなんて、どう考えても不可能だろ!」
「プロを自称するアナタ方なら可能であると判断しました」
無論こっちだって、完全絶対に不可能な難易度を押し付けるつもりは毛頭ない。
個人レベルの能力でも、あの機械巨人に勝てる筋道はしっかり用意しておいた。
「ではヒントを授けましょう。あの可変式人型城郭……通常オークバトラーの首の後ろをご覧ください」
「ご覧できねーよ!」「あんな遠くて高いところまで目が届くか!」
とめどなきブーイング。
「とにかくオークバトラーの首の後ろ付け根部分に緊急停止スイッチがあります。それを押してオークバトラーを機能停止に追い込めば、その場で皆さんの勝利となります」
「だから何度も言わせるなふざけるなぁああああッッ!?」「首の後ろだぞ! しかも巨大ゴーレムの! あんなところまでどうやって登ればいいんだぁああああッッ!!」
何を言ってもブーイングがやむことはない。
やる前から諦めていては、何も始めることはできないぞ。
「しかたねえ、ここは俺が一つ手本を見せてやるぜ!」
そう言って進み出たのは誰あろう、俺。
たしかに無茶振りだけしてユーザーを放り出してはただの不親切なゲームだ。
なのでチュートリアルと思って我ら農場の手の者を何名か潜り込ませておいた。
正しいクリア手順を実践して教えて挙げられるように。
その役目を担ったのが誰あろう、俺!
聖者みずから参戦じゃい!
「俺のやり方を見ていろ! まず使うのは鎖分銅!!」
先端に重りのついた鎖をブンブン振り回す。
遠心力で充分な勢いがつくと……。
「それを上空に向かって投げ放つ!!」
ブオーン!! と分銅が天に向かって飛んでいく!
そして鎖分銅であるために、ある程度飛翔していくと鎖の長さが限界になってピシッと伸び切る。
それで大抵勢いが止まるんだが、俺は全力で投げ放ったために勢い止まらない。
するとどうなるかって言うと、鎖の反対端を持っていた俺ごと天へと飛びあがっていく。
つまり俺、飛ぶ!
「おおおおおおおおおおおッッ!?」
はっはっは、驚いたか驚いたか。
そう、人は、縄状のものを上手く使いこなすことで空を飛ぶことだってできるのだ!!
そして鎖分銅による飛翔力はオークバトラーの肩を飛び越えるほどに強く、容易に背後へと回ることができた!
あとはさらに持っていたクワで……人型居城の首の後ろをブッ叩く!
そして機能停止に追い込む!
「やったぜ!」
これが基本的なオークバトラーの攻略法だ!
皆遠慮せずに真似してくれよ!
「真似できるかぁあああああああッッ!!」
おやおやおやおや。
注文の多いプロ出場者たちだなあ。
素人を明らかに超える技量があるなら、これくらいで来て当然だよねえ?
「ふざけんな!? こんな超人的動作を要求される攻略法なんてやっぱり無理ゲーじゃねえか!!」
「いや待て! 既にあのオッサンがゴーレムを倒してくれたんだから、オレたち皆クリアってことでよくね!?」
誰がオッサンじゃこのたわけども。
残念ながらそんなわけがないだろう。
「今の一体目は小手調べにすぎません。満を持してオークバトラー三十体投入!」
「「「「うわぁああああああああッッ!?」」」」
オークバトラーが一体しかいないと誰が言った?
凝り性なオークたち。巨大城型ロボットが一体だけでは迫力が足りないと言ってジャンジャン量産していたのだ。
「これで挑み甲斐のある苦境が整ったことでしょう! 皆さん奮って戦い、本戦出場を決めてください!」
その日、プロ出場者たちは思い出した。
オークボ城に支配される恐怖を、クソ難易度設定のアトラクションに翻弄される屈辱を。
本日で異世界農場、今年最後の更新です。本年もお楽しみいただきありがとうございます。
来年は元旦から更新の予定ですので、引き続きよろしくお願いいたします。






