944 驕れるヘビーユーザー
オレ様はジャングラッソ。
誰もが知る天才オークボ城プレイヤーだ。
開始からもう幾たびも積み重ねてきたオークボ城だが、オレはそのほとんどに出場し、クリアしてきた。
景品もガッポガッポと貰ったぜ。
そのたびに転売し高値で大儲けさ。
しかもオークボ城常連となれば意外と知名度が高く、名士に招かれて酒やご馳走たらふく食うこともできる。
オークボ城のおかげで、オレは働かなくても食っていける身分よ!
いや、働いてないわけじゃねえな。
オークボ城こそがオレの仕事。
年に一回、オークボ城に出場して好成績を残して、それで得た商品やら名声で生計を立てる。
そのために身体を鍛え、山野を駆け巡り、難関を乗り越える体づくりをしているんだ。
立派なプロオークボ城プレイヤーだぜ!
フン、そもそも最高難易度だとか抜かしているオークボ城の関門は、オレにとっては超イージー。
あんなので脱落していく連中がヘタクソのドン亀なのさ。
オレとしてはもっと難易度を上げてくれてもいいぐらい。
いつだったかの超ハードモードはさすがに脱落したが……。
しかし考え方も変えてみれば、そんなヘタクソが多数いるおかげでオークボ城も超イージーに保たれて、毎年安定してクリアすることができる。
景品もいただきだ。
つまりは有象無象のヘタクソどもは、オレが確実に儲けるための全体難易度を下げてくれる。
オレの踏み台と言っていい連中ってことかな?
それくらいの価値は認めてやってもいいぜ。
今年も冬がやってきて、オークボ城開催の季節となった。
オレのもっとも燃える季節だ!
当然、参加を決めたぜ。
参加しないという選択肢はオレにはない。
今年も実力もないくせに群がってくる有象無象素人どもがたくさんいるんだろうが、真のオークボ城プレイヤーはオレのみよ。
見てな、今年も華麗にクリアして、高く転売できそうな景品をかっさらっていってやるぜ。
会場に着くと……本当にいやがるな、遊び気分でのほほんとした表情の素人どもが。
あんなヤツらがオークボ城を汚すと思うと反吐が出るぜ。
ここはオレたちプロが集う真剣勝負の場。
遊びでやってんじゃないんだよ。
この一日のために一年のすべての時間をつぎ込んで、難関を突破する鍛え抜かれた体を作り上げたんだ。
ここはお前らみたいなヒョロヒョロ素人が来ていい場所じゃないんだよ。
まったく……そろそろ運営側は出場者の選別ぐらいするべきだな。
よりハイレベルな競技のためにもヘタクソたちには出場前から脱落願いたいぜ。
……そう思っていたら、運営っぽいヤツが壇上に上がって喋り出す。
「これよりオークボ城の競技案内を始めます。まずは今年もたくさんの出場希望を出していただきありがとうございます」
などと喋りやがるのはオークだった。
毎年オークボ城のスタッフってオークなんだよな。
オークボ城だからか?
「ご好評いただき我がオークボ城は今年も出場者最多記録を更新いたしました。初開催より連続しての記録更新です」
だからこんなに人が多いのか?
けッ、鬱陶しい……!
「運営側としてもすべての出場希望者に楽しんでいただくべく、これまで様々な試みを行ってきました。しかしさすがに今回に入って対応限界を越えたため、まことに心苦しいことながら出場者を絞らせていただきます」
お!
オレが前々からそうすべきだと思っていたことを運営め、やっと行動に移したか!
そうだそうだ! 実力もない素人どもは神聖なオークボ城に参加すべきじゃないんだ!
大人しく観戦者側に回っているがいい。
「出場者は、厳正な抽選によって決められます。あらかじめ配られた番号札にご注目ください」
は?
厳正な抽選?
「ご自分が持っている札の番号を呼ばれたら来てください。では始めます。……二十三番の方、七十八番の方……」
* * *
「八三六五番の方。……はい、これで抽選を終了します。番号を呼ばれなかった方々は来年のご応募をお待ちしております」
は?
ちょっと待て、ちょっと待てぇええええええッッ!?
一三九〇番は!? 一三九〇番は何故呼ばれないオレ様の番号だぞ!
これ呼ばれたヤツが出場できるってこと? 呼ばれたヤツが退場じゃないのか!?
オレが出場できないってどういうことだ! プロ出場者だぞ俺は!
オレが出場しなければオークボ城も盛り上がらないし、オレの来年一年分の収入もどうなるんだ!? オレの生活は!?
ふざけるんじゃないぞ!
何が抽選だ! 余計なヤツを排除するにはいいにしても抽選なんて要するに運試しじゃないか!!
こんな間違った選定絶対認めないぞ!
オレには実力がある! 今年も必ずやクリアできる!
そんなオレを抽選で落とすなんて本当に間違っている!
やり直しを要求するぞ!
「えー、抽選から漏れた皆様もご不満なことでしょう。自分も出場したい、きっと濃い成績を残せる、と」
そうだ! その通りだ!
「そうした意見を予想しまして、こちらも特別なイベントをご用意しております。敗者復活戦と言いますか……」
敗者復活!?
オレは敗者じゃないけど、復活の機会が与えられるってことか!?
「運に恵まれなくても実力で這い上がれる。そう信じる御方はどうぞ新たに用意しましたオークボ城・第二天守閣に挑戦してみてください。見事クリアできた方々には、本戦への出場権が与えられます」
なんだそういうことか!
ヒヤッとさせやがってちゃんと実力のあるヤツへの救済が用意されてるんじゃないか!
だったらサクッとクリアして本戦出場を決めてやる! 次からはこんな面倒なことをしないように最初から実力のないヤツを振るい落とす仕組みを考えておくんだな。
「では、実のところ今年の目玉、可変式オークボ城第二天守閣、巨人の城、機動です!」
え?
何どういうこと?
なんかよくわからない言葉が羅列されていきますが?
はッ?
なんか目の前に出てきた、城が。
これが敗者復活戦の舞台ってことか? でもこんな目の前に大きな城あったっけ?
まるで独りでに向こうから現れたかのような……!?
でもそんなわけあるか? 城だぞ、建築物だぞ?
オレはもう見慣れたが、オークボ城でしか見かけない真っ白な階層建ての城だ。
その城が……揺れ出した?
地震? いや違う、あの城そのものが何かの動力で鳴動しているのだ。
そしてさらに城は動き……ついには城から生えてきた……腕が!
「腕ぇええええッッ!?」
城のちょうど両肩に当たりそうな部位から、長く伸びる関節を持った形態。
ちゃんと先には五指がある。
さらには城の土台の部分から足も出て、挙句の果てに城の屋根が割れて、その奥からせり出してきたのは……頭!
城から腕が生えて足が生えて、頭まで出てきた。
そんだけ揃ったらもうこの城は……ヒト型ってことだ!?
「そうです!! この城こそ、我らがあたらしい技術の粋を集めて作成した最新型オークボ城!!」
案内役のオークが叫ぶ。興奮気味に。
「マリアージュから受け継いだオートマトン技術! 我が妻ゾス・サイラが提供してくれたホムンクルス技術! そして我らオークの建築技術を結集して作り上げた最新型オークボ城! その最大の特徴は変形機構! 城形態から人型形態の二形態へ移行することで堅牢さと機動性を兼ね備えるに至った!」
すげえ早口で語るじゃん。
「これこそ初志を引き継ぎ、まったく新しいアイデアを取り入れた温故知新の体現! 可変式オークボ城DX! この人型城郭を倒せたものが本戦出場を決められます! 奮って立ち向かってください!」
えぇええええええええッッ!?
ちょっと待て!? これまでのアスレチックとまったくノリが違うじゃないか!?
完全な戦いだぞ!?
しかもただの人がこんな巨大なゴーレム相手に立ち向かえるかぁああああッッ!?
クリアさせる気がないだろぉおおおおおッ!?
このプロ出場者であるオレが!
毎回クリア記録を更新するオレが!?
なんでこんなクソ展開に巻き込まれなければいけないんだぁああああああッッ!?






