943 今年もオークボ城
異世界農場13巻(書籍版)好評発売中です!!
冬がやってきた。
今年もな。
冬といえば農閑期。農場を名乗るここらは暇な時期に入る。
その余暇を利用して様々な試みを行うのが農場の恒例となっているが……。
中でも毎年必ず行う行事となっているものがある。
オークボ城。
今年もやるぞ!!
そもそもから説明すると、ウチの農場に住むオークたちの趣味が建築で、それが高じて『城を建ててみたい!』という話になった。
城は建てたら落とすもの!
外からゲストを呼んで攻略と防衛を繰り広げるごとに規模は拡大し、いつしか一大イベントとして定着してしまった。
あたかも新春かくし芸大会のように。
最近じゃ『笑ってはいけない』を例に出した方がいいのか?
今では多くの人が楽しみにしているために、こっちの都合で中止にするわけにもいかぬ。
皆様の期待に応えるため。
『楽しい』を提供するために全力でオークボ城していくぜ!!
ということで企画会議。
我が農場の首脳陣が集まって話し合っていくことにする。
「今年も大盛り上がりにしていきたいなあ」
俺が議長として進めていく。
これまでも手を変え品を変えて、毎年楽しいオークボ城を開催してきた。
今回も斬新かつ、これまでの流れをしっかりと継承したアイデアを出していただきたい。
「はいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいッッ!!」
「どうしたレタスレート?」
まず最初に挙手したのはレタスレートだった。
ウチに住み込む元人間国の王女。
新たに人間共和国が樹立された今、彼女がここに囚われる理由はないんだがいまだに農場在住。
まあ別に農場を去らなきゃいけない理由もないしな。彼女の自由意思に任すといいさ。
そしてこれからレタスレートが何を提案するか大体予想がつく。
「今年こそオークボ城・豆フェスティバルイヤーを開催するのよ!!」
「却下で」
「なんでよー!?」
オークボ城を自分の欲望を体現する場にはできません。
第一、その希望を叶えたら次に起こることは想像つくんだよ。
ヴィール辺りが出てきて『豆女ばかり不公平なのだー!』と言い出す。そして翌年はオークボ城・ドラゴンラーメンフェスティバルイヤーになるに決まってるんだ。
さすれば翌々年はプラティがカレーフェスティバルにして、さらに次の年はバッカス辺りが酒フェスティバルになった辺りで現状がカオス化する。
それは断固として阻止する。
オークボ城の原型が変わってしまうので。
「というわけでオークボ城で城以外のアピールは行いません。皆に豆を伝えたいならそれ専用の企画を別で考えてあげるから……」
「ちぇー」
レタスレートは渋々引き下がった。
聞き分けがよくなったのはここ農場で成長した証と言える。
「では他に意見のある方―」
「はいはいはいはい! はいなのだ!」
次に手を上げたのはヴィール。
やな予感しかしないんだが。
「オークボ城・ドラゴンラーメンフェスティバルをだな……」
「だからそれ系の案はダメだっつったろうが!」
ここまでの流れをちゃんと見守ってた?
結局レタスレートの案を前向きに検討しようと後ろ向きに検討しようと、ヴィールが無茶要求する結果に変わりなかった。
世界の強制力を前にした虚しさを感じる。
「そういやご主人様、アレキサンダー兄上がオークボ城のこと聞いて興味もってたぞ?」
「アレキサンダーさんが?」
ドラゴン族最強にして、同時に全生命最強、三千世界最強でもあるアレキサンダーさんは、人と一緒に生きていくことを喜びとするドラゴンだからな。
ご自分でもダンジョンを運営し、攻略者たちを迎え撃っていることだし工夫を凝らした我らがオークボ城に興味を持っていただけるのも自然の流れか?
「しかし何故今さら?」
もうオークボ城何年と開催してきたというのになあ?
「ドラゴンの時間感覚なんてそんなもんだぞ? 下手したら百年単位でボーッと思い過すのだ。そういう意味からすれば最近のドラゴンたちの感覚は忙しないがなー」
「そういうもんか……!?」
まあ、俺たち人間だって見逃したアニメが放送終了して数年経ったあとからハマりだすなんてしょっちゅうだし、そういうものかな?
まあ、だったらアレキサンダーさんには招待状でも送っておくとして、他に誰かの案はない?
「我が君……!!」
「おッ?」
なんか地に響くような声に、俺もビビってしまった。
とにかく聞いただけで鳩尾を圧迫されそうな気迫こもった声。
誰だ、こんな企画段階で覇気を充溢させているヤツは?
オークボ?
オークのオークボだ。ゾス・サイラとの新婚生活はもう堪能し終わったのかい?
とは言ってももう一年過ぎ去っておるしな。
「我が君……私から意見を述べさせていただいても?」
「……どうぞ?」
オークボは『オークボ城』のその名に冠されている通り、この企画の始原にいる者。
すべては彼から始まった。いわばオリジン。
そんなオークボが、ここまでの覇気を撒き散らしながら意見を述べようなんて……。
余程大事なことを言おうとしている?
「我が君よ……! 私はずっと思っておりました、オークボ城はこのままでよいのかと」
「お、おう……!?」
そんな抜本的なところから始めちゃう?
「たしかにオークボ城は好評を博し、これまで開催回数を重ねてきました。しかしそれに胡坐をかき、惰性に陥ってしまえばいずれは勢いを失っていくことでしょう。我々はいつでも挑戦者であらねばいけませぬ!」
「はい……?」
「そして同時に忘れてはいけないモノ……! それは初心! 我々は何故オークボ城を作ったのか? 何故城を建てたのか? そのことをしっかり忘れず、胸に秘めておかねば!!」
熱く語るオークボ。
若々しいチャレンジスピリットと、原点となる初心。
その両方を併せ持って進もう、まことに正しいことだと思う。
して、その心は?
「オークボ城は、そもそも『城を建てよう』という希望から生まれたもの。しかるに最近は、その城というファクターがおざなりになっているのではあるまいか!?」
……言われてみたらたしかに?
よりお客さんに楽しんでもらおうをコンセプトに様々な企画を盛り込んでいった結果、城そのものの要素は薄まったように思える。
元々は攻城戦になぞらえて、城内に潜入し天守閣を獲ろう、というゲームだったしな。
それがアスレチックイベントに進化し、出店や小イベントスペースも乱立し、雪まつりや相撲大会までも同時進行で開かれるようになった。
たしかに原点が薄まりつつあるのかもしれない。
もしかしたらオークボ城は元々城攻めをモチーフとしたイベントだったなんて知らずに楽しんでいる人もいるかもしれない。
たとえば超人気ノベルゲームのソシャゲ化から入ってきたファンが、元々はエ○ゲだったことを知らなかった、……みたいな。
「ですので私が提案したいのは、オークボ城の“城”という点を前面に出した催しです! 改めて素晴らしく立派な城を建てて、オークボ城がオークボ城であることを多くの人に知ってもらいたい!!」
「なるほど」
相槌検定準一級の俺。
それってもしやオークボたちの建設欲がまた噴出しただけなんじゃ? とも思った。
コイツら本当に無から有を生み出すことに命を懸けた連中だからな。俺もだが。
ここ最近あまり新しい建築物も作成してないし、久しぶりに建築した意欲が顔を出して、オークボ城のイベントに乗じただけなのかもしれない。
だとしたらレタスレートやヴィールと同じではないか!?
「……それで初心は保てるとして、もう一つの志は」
言ってたよね?
大切なのは、初心と、挑戦心。
城作りで原点回帰することはいいとして、それで満たされるのは初心のみ。
残ったチャレンジスピリッツをしっかりしないことには不完全ではありませんこと?
「ご安心ください我が君……! 新たなる城作りには、挑戦心も満たす斬新な試みを盛り込む予定です!」
「斬新な試み?」
「ご期待ください我が君! 今年のオークボ城は、過去類を見ぬほど大きな盛り上がりとなるでしょう! 我らオークチームによって!!」
なんだかよくわからんが、既にもう彼らの計画は採用決定になっているらしかった。
果たしてオークたちはどんな城を築き上げるのか?
それは大会当日になってみなければわからない。






