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937 異世界ダイエットに挑戦

 血気盛んな冒険者の皆さまにやっと帰っていただけて、静けさが戻ってきた農場。


 ああしたお祭り騒ぎもいいものだが、こうも知っちゃかメッチャかになっていると穏やかな日常も懐かしくなってくるから不思議だ。


 今年も黄金の穂が実り、季節も冬へと近づきつつある。

 そんな折ウチの妻プラティから言われた。


「……旦那様、太った?」


 ……。

 は?


 いやいやいやいやいや……!


 そんなはずは……そんなはずあるわけなかろう!


 俺が何者かご存じない!?

 農家だぞ、農家!


 朝も早うから畑に繰り出し、鍬を振るい鎌を薙いで、日が暮れるまで体を使いまくる職業。

 カロリー消費はデスクワークとは比較にならない!


 そんな俺に贅肉がつくなんて……あるはずないだろう!


「でもホラ……」


 おおうッ!?

 プラティ? いくら夫婦だからって、こんなに日も高いうちから旦那の上着をまくり上げて……!?


 ブヨッ。

 !? なんだこの肉感は。


「旦那様のお腹の肉……、手でしっかり掴めちゃうんだけど縦向きに?」


 そんなバカなッ!?

 肉体労働者である俺に贅肉がつくだと!?

 そんなことあっていいはずがない!!


「こう言っちゃなんだけど旦那様もそろそろいい歳でしょう? 加齢に伴ってお肉のつきやすい体質になってきたんじゃ?」


 ダブルパンチ!?


 寄る年波と共に肉まで寄ってきたと!?


 中高年に入ると新陳代謝が不活発になって贅肉もつきやすくなると聞いたことがあるが……。

 俺がまさかの中年太り。

 仕事で運動さえしていれば大丈夫だと思っていたのに……!?


「たしかに旦那様は、お国の役人とかよりは運動しているでしょうけど、そういう習慣化した動きって体が覚えてしまうから、体力の消費も最小限で済むらしいわ。だからプラマイゼロからプラスへ押し切られてしまうんですって」


 なんとぉおおおおおッッ!?


 たしかに長男のジュニアも五歳を迎え、次男のノリトもそろそろ喋れるようになるかという年だ。

 プラティとも三人目を……という話が出てたりする。


 子どもが成長するなら俺だって年を重ねているのであり、俺の場合はもう成長ではなく老いだ。


「いつまでも若いわけではないか……!」


 いや、たとえこの身が老いに向かおうと、ある程度の若々しさをキープすることは不可能ではないと思う。

 子どもたちのためにも健康でい続けなければならないし。


 そのためにもまず体重を適正に保たなければ!

 溢れ出した贅肉は万病の元!


 そして着きすぎた贅肉を落とすためのたった一つの冴えたやり方があるとすれば、それは……。


「ダイエット!!」


 いつだったか魔王さん相手に繰り広げたアレを、まさか自分がする羽目に至ろうとは……。


 ちなみにではあったが、何年か前にダイエットを行い見事太り気味から脱却できた魔王さんは現在、あの時の甲斐もなくふくよかな体型とおなりになっている。


 マヨネーズの愛飲をおやめにならないから。


 腹どころか顔つきも丸みを帯び、よく言えば貫禄がついた。

 もはや戦争もなくなった国の王様ともなればいつまでも厳つい顔つきでいいこともなく。福々しい恵比須顔の方がいいのかもしれないが……。


 いや待て。

 いかんいかん、よそはよそウチはウチだ。


 魔王さんとはまた違う事情が俺にもあるんだから、俺は何の憂いも懸念もなしに全力で脂肪を落とさなければ!


「よぉし、やったらぁー!」


 脂肪ぐらい綺麗サッパリ落としきってみせらぁ!


「お? 何だご主人様、大悦闘(ダイエット)かー?」

「はッ!?」


 気づけば背後に忍び寄る影……。

 ヴィール?


「懐かしいなー。百年前だったかあの魔王とかいうヤツとも大悦闘して体を細くしてやったのだ。アレもいい思い出だな」


 いや、百年も経ってないですが?

 いいとこ二、三年前ですが?

 ドラゴンやノーライフキングはすぐさま時間間隔を大雑把にする。


「時を越えて今度はご主人様と大悦闘するのかー。ワクワクしてきたぞ! そうだ羽女のヤツも呼んでくるのだ! 大悦闘にはおれ様のラーメンとヤツの納豆が不可欠だからなー!」

「待った待った待った!」


 慌てて飛び出ようとするヴィールを引っ張る。

 説明しよう! 大悦闘とは、ダイエットの情報が異世界に伝わる時に歪んでしまい、まったく別物となってしまったのである。


 ドラゴン&天使の世界最恐タッグと死闘を繰り広げながら、ラーメンと納豆を繰り返し食らうという内容で、こんなことしてたら痩せる前に死ぬわ、という捧腹絶倒の内容だった。


 しかしこれで前例の魔王さんが痩せたんだからどうしようもない。


 しかし俺は異世界渡りの農夫に過ぎない。

 人類最強の一候補たる魔王さんだからこそあの死闘を耐え抜いたのであって、俺がやったら二秒で死ぬる。


 というわけで丁重にお断りした。


 それよりも俺は安全確実な方法で痩せなければならない。

 じゃあ何をしたらいいのかよって言ったら何よりまずは腹の肉だな。

 腹肉。

 一番目立つし量も多いことだし。


 そして腹の肉を落とすとなればやはり腹筋! 古来からある二大筋トレの一つ!


 よし、一日三千回腹筋して六つに割ってやらぁー!


「一、二、三、四、五、六……!」


 ……きっつ。

 普段してない動きだからって、こんなに筋肉がこわばるものか。

 腰まで痛くなってきた。


 やめとこう。

 腹筋十五回で一旦休憩!


「シックスパックへの道は遠いぜ……!?」


 それにお腹だけ鍛えるのもよくない。

 体は全体的に鍛えなけりゃだもの。


 腕立てしたりスクワットしたり……。


 いや、肉を落としたいなら有酸素運動こそが大切だと聞いたことがある。

 無酸素運動が筋肉を増やし、有酸素運動が贅肉を減らすのだ。


 有酸素運動の代表といえば……ジョギング!

 継続的に行うことで脂肪が燃焼されるのだ!


 よし! それでは農場内を喜び駆け回るとするぜ!

 爆走農家レッツ&俺。


 タッタッタッタッタッタッタッタ……。


 ジョギングすると自然、農場の中になるんだが……。

 視線を感じる。


 しかも継続的に。

 俺の後ろから、ぴったりくっついて追尾してくる馬がいる。


 ドラゴン馬のサカモトと言って、俺の騎乗用として生み出されたホムンクルス馬だ。


 ――『走るの? 走るの?』

 ――『ボクに乗った方が速いよ?』

 ――『ボクに乗った方が速いよ、ねえねえ?』


 と視線で訴えかけられているような気がする。

 いや、これは俺自身の運動量を確保するためのジョギングだから、騎乗したら意味がないのだが?


 しかし走って移動となるとそれは馬であるサカモトの領分で、それを無視したら彼の仕事を奪ったようなものになる。

 実のところあちこちの移動にはサカモトに乗っていたしな。


 太った原因まさかそれでは?


 しかし、このまま走り続けているとサカモトの視線が気になって別の意味で健康に悪い。

 なんて雑音が多いんだ農場の中は!?

 こうなったらジムにでも通うか!?

 そうだ異世界にはスポーツジムがないんだった!


 こうなったら……そうだ!


   *   *   *


 一時間ほどかけて完成したぞ!

 これが異世界ランニングマシーンだ!

 

 人間一人が入れるほどの滑車に軸を通し、回転できるようにする。

 その滑車の中に入って走れば、進んだ分だけ滑車が回り、その場で走り続けられるというシロモノだ!!


 サカモトも滑車の中で走り続ける俺を見て『なんだ移動するんじゃないのか』と草をはみに戻っていった。


 これで誰にも見咎められることなく有酸素運動できるぞ!


 ……と思った矢先にふと気づいた。


 これ、俺がハムスターみたいになってるじゃん、と。

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― 新着の感想 ―
[一言] コレは、農場の発酵マスターと人形国の宰相のコラボで健康に痩せる補助食品を開発して貰うしか無さそうですね…(´・ω・`)
[一言] 適切な食事と、無理しない運動を、続ける事
[一言] わかりにくいけど乗馬って全身運動だからダイエットにはいいんですよ……?
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