930 続・農場軍出陣
我が農場の戦力たちの活躍は一回こっきりでは収まらない。
さらにバトンタッチして次にダンジョン攻略を担当してくれるのは彼女らだった。
「『冷蔵の魔女』ディスカス!」
「『火加減の魔女』ベールテール!」
「『熟成の魔女』ヘッケリィ!」
「『整頓の魔女』バトラクス!」
農場の新世代四魔女たち。
いつの間にやら生産戦闘の両面で主力となっていた。
前世代のパッファとランプアイが結婚して引退。プラティとガラ・ルファもそれぞれ役割を得て身軽に動けなくなった今、彼女らの薫陶を受けし四人の少女人魚が今や安心と信頼のスタメン人魚だった!!
「バトラクス! 戦場の管制掌握をお願い! 情報を常に最速共有!」
「ベールテール前線で敵を食い止めて! ディスカスはバックアップ! その間にバトラクスが大規模範囲攻撃魔法を組み立てるから合図で離脱!」
新世代の四魔女が現状、前世代の六魔女に勝っている唯一の点が連携。
元々六魔女は各分野で名を馳せた天才たちを、世間が勝手により集めて一まとめにしたものだから。
実際、多くの魔女がここ農場で初対面を果たしたりしたものだし、以降力を合わせて農場を盛り立てたりしたものの、どちらかと言えばスタンドプレーの方が得意な彼女らだった。
スタンドプレーの結果によって生じたチームワークってヤツ。
それに対してディスカスら新世代四魔女は、ヒヨッコの頃から仲よしのチームで、ここ農場でも一まとめにして先輩魔女やら先生やらによって鍛え上げられてきた。
一緒に学び、強くなったおかげで彼女らの連帯感は前世代とは比べ物にならない。
それぞれが自分の役割をしっかり定めて、仲間のために動いていく。言われるまでもなく率先して。
ワンフォーオール、オールフォーワン。
一個の生き物であるかのような域にまで達した連係プレーは、彼女らチームから一切の死角を消し去り、完全無欠の生き物として完成させる。
「うわぁ……!」
その獅子奮迅の戦いを見て、冒険者たちは息を飲むばかりだった。
「凄い、凄いけれど……!」
「先の二件に比べたらやや地味……!」
そんな言ってやるなよ!!
たしかに地上の皇帝、嵐の神と化したオークボゴブ吉。それに今や世界最強の一角レタスレート&ホルコスフォンと見比べたら中堅どころだろうけれどもよ!
それでも彼女らなりに頑張ってるんだって!
そして成長途上でもある!
その辺りのポイントを加味してあげて!
さらにバトンタッチして現れたのは単独、魔族ベレナ。
その長く農場に居続けたことによって身に着いた超絶魔法で、手向かうモンスターたちを秒で溶かしていく!!
「おい……、この魔力……この魔法技術……!」
「明らかに現役四天王を越えてないか……!?」
特に魔族の冒険者たちが戦慄をもってこの事態を見守っていた。
「おい……あの女魔族、四つの詠唱を並列進行で行ってないか!?」
「発動タイミングもバッチリ。タスク管理が完璧だ。しかも、あそこまでの高位魔法を!? あんなの四天王でもできるか!?」
と。
皮肉な話なのか、農場に長くいればいるほどスキルアップして実力も上がっていく。
初期の農場メンバーの中には結婚してさっさと農場を卒業していった者たちもいるが、そういう人たちと、農場に残り続けて人類最強の一角まで登り詰めたベレナ。
さて、どちらがより幸せなのか。
「聖者様……私そろそろ上がってもいいですか?」
おや、どうしたベレナ?
もう疲れたかい?
「まあ疲れたは疲れたというか……疲れは主に精神面からですが……」
気疲れ?
じゃあベレナの早上がりを認めてあげて……。
その分の尺を誰に埋めてもらおうか?
「ぼくやるー」
ジュニア!?
この修羅場に似つかわしくない幼子が参戦!?
「あんな子どもまで実力者なのか? 農場では……!?」
冒険者たちももはや当たり前のように感心しているが、そんな場合じゃない!!
ウチのジュニアをこんな危険な状況におけるものかぁ!
とか何とか言ってるウチに早速モンスターが来たぁ!?
迷わずジュニアへ向かってくる! なんて嫌な動きをするんだ、いらん進化を遂げた最新ゲームのAIか!?
モンスターの攻撃!
しかしその動きは虚しく空を切った!
ジュニアが、難なくかわしたからだ!
「あの動きは……!?」
ジュニアの瞳に深い悲しみが見える!
深い悲しみを背負った者だけが会得できる最終的な動きでジュニアにはあらゆる攻撃が届かない!
「てんに還るときがきたー」
ジュニア! ついに反撃を!?
「てんはかっさつー」
なんかよくわからん技でモンスターが吹き飛ばされた!?
ジュニアのポテンシャルがもうわけのわからんところまで来ていた!
「あんな子どもまで、こんなにまで強いなんて……!」
「農場は恐ろしい場所だ……!?」
冒険者たちもすっかり圧倒されて震えあがっていた。
「オレたちは……S級冒険者のハードルですら想像を超えて高く、乗り越えるなんて不可能じゃないかと思えていた……!」
「想像より三倍は高みにある、S級冒険者の難易度に心が折れそうだったのに……。農場の力はそれよりさらに高みにある……!」
「オレたちは思い上がっていたのか……!?」
完璧に自信喪失しているやんけ。
皆さんの励みになればと思って農場住人たちのパワーをお見せしたんだが、これではまったくの逆効果!?
「よいのです聖者様、これで……」
シルバーウルフさん。
ここにきてなんかしゃしゃり出てきた。
でもこのままじゃ、せっかくの実力豊富な冒険者たちが自信を失って続々と辞めていくかもしれないではありませんか。
そうなったら冒険者ギルド的にも大ダメージに!?
「この程度で心が折れてしまうようなら、最初からS級など務まりません。いや冒険者自体も……。冒険者に必要なのは結局、未知の困難に対してけっして折れることのない不屈の心。技術も力もそれに次ぐ」
「そして、ここ農場で遥かにハイレベルな領域を目にしたにゃーん。おかげで彼らの世界は広がったにゃん。見えない目標へ向かって闇雲に進むよりは、明確にわかっている場所の方が一直線に向かえるにゃん!」
ブラックキャットさんも言う。
なんかもしや、これもすべて彼らの計算のうちってこと!?
「さあ、志ある冒険者たちよ。お前たちの冒険はここで終わってしまうのか? 遥か高み見せつけられて、あまりの遠さに諦めたか?」
「そこで諦めないヤツこそにS級の道が開かれるにゃーん。今回の試験で皆に伝えたかったことはまさにそれにゃん! 普通のダンジョン探索では体験できない別次元の戦いを垣間見て、思うところはあったかにゃん!?」
まあ、いつも探索しているダンジョンでは絶対に体験できない世界があったんじゃないかな?
ここに住む俺が言うのもなんだけど。
冒険者たちの意識を改革し、より多くのS級冒険者を誕生させる土壌を作り出す。
それが今回のS級昇格試験の真の意図だったのかッ!?
「それがわかってくれたところで、今回のS級昇格試験は合格者一人もなしで終了することもできる。しかし、お前たちはそれでいいか? せっかくお前たちの目指す地点が明確になったのに、ここで区切ってチャンスは次に……といくか?」
「それは冒険者らしくないにゃんねー? 引き返す勇気も必要だけども、やっぱり目の前にお宝があって手を伸ばさずにはいられない欲深さはやっぱりいるにゃーん!」
冒険者たちの目に輝きが灯る。
野望にギラつく、野性的な光が。
「ダメだ……、こんなところで終わりにさせてなるものか……!」
「せっかくオレたちの目指すS級の形が見えてきたのによ……! 聖者の農場っていう秘境に来ることができたのにタダで帰るなんてありえねえ!」
「シルバーウルフ! いやギルドマスターよ! オレたちにもう一度チャンスをくれ! S級昇格の再試験を! 今度の一回で合格できるなんて思い上がりはしねえ! しかし今がとにかく経験が欲しい!」
「今を逃したら、ここの超優良ダンジョンに次いつ来れるかわからねえ! 二度と来れないかも! だからせめてもう一度、このダンジョンを攻略する経験をさせてくれえ!」
「ここでの経験はきっといい糧になる!」
冒険者たちの情熱がギラギラと燃え盛っていた。
これもまたシルバーウルフさんの計画のうち。
絶対的な壁をぶつけて玉砕させて、ガチガチに凝り固まった頭がほぐれたところで、新しい世界を見せつける。
それによってS級冒険者になるための心構えを各自に植え付け、冒険者全体の底上げに繋げる。
それらを経て、もしかしたら今度こそ本当に新しいS級冒険者が生まれるかもしれない。






