920 試験に呼応する者たち その四
我が名はタマーリム。
遥かなる時の逆巻きより冒険者たちを見守りし者である。
我が人生の大半は、冒険者たちの活躍を見守り、偉業を讃え、その歴史を刻むことに務めてきた。
我が人生が冒険者の歴史と言っても過言ではないほどだ。
もはやファンという範疇を越えて、語り部と言っても差し支えないレベル。
その辺の俄かファンと一緒にしないでいただきたい。
ここ数年は、冒険者ギルドにおいても大きな事件が立て続けに起きて、冒険者を見守る者である拙者も実に感無量であった。
まず戦争終結に伴っての新S級冒険者ピンクトントンの加入。
魔族が侵攻することで冒険者ギルドもどうなるかわからなかったが、何事もなく済んで何よりだった。
それどころか冒険者の形態を魔国にも取り入れるということで、冒険者ギルド支部が魔国にも大量に建てられることになった。
冒険者ギルド大拡大だ。
これこそまさに歴史的大事件で、この瞬間に立ち会えたことを心から嬉しく思っている。
冒険者ギルドは今日も大躍進を遂げているというわけだ。
それにも止まらず、さらに驚いたのがシルバーウルフのギルドマスター就任だな。
S級冒険者シルバーウルフは、かねてから良識と協調性の高さで知られている。もちろん冒険者としても高い能力を有しており、知勇兼備だからこその高い人気を誇っている。
そのシルバーウルフがギルドマスターに就任するというので冒険者フリークスの間では話題沸騰。
S級冒険者とギルドマスターを兼任することなんて冒険者ギルド史上一度たりともなかったはず。
そんな空前のことを成し遂げてしまうなんてさすがシルバーウルフ! この拙者が一番推しているS級冒険者だけのことはある!
シルバーウルフといえばオオカミ獣人としてその個性が冒険者活動の助けになっているというのはニワカでも知っている。
オオカミの能力といえば鋭い嗅覚、さらには骨をも噛み砕く強靭な顎と牙……と言ったところだがこの程度はニワカレベルの答えだ。
上級見守り役である拙者の見解を述べるに、シルバーウルフがオオカミ獣人としての能力を活用している能力でもっとも有用なのは『協調性』であろう。
オオカミは群れを作る獣だ。
それぞれの個体の間で厳しい上下関係を築き、もっとも強いものがリーダーとなって指揮し、コンビネーションで獲物をしとめる。
群れを作り有効活用できることこそオオカミのもっとも優れた能力。
シルバーウルフもその能力をしっかり会得しており、他の冒険者とパーティを組む際は遺憾なくリーダー性を発揮、仲間たちをしっかり統率し、これまでパーティ内での死亡率ゼロパーセントを維持してきたというとんでもない逸材だ。
シルバーウルフがこのまま引退するならば、この記録は生涯のものとして完璧に刻まれ『生涯一人も仲間を死なせなかった冒険者』として列伝に名を遺すことであろう。
『冒険者なのに協調性? 個人で活動してるのに協調性がウリってどうなの?』とか言うバカもいるが、そういうバカは半年黙れ。
本当に言葉尻から揚げ足取りするしかないバカは、喋る前に一旦考えてほしいものなのだ。バカだから考えることを知らないのか、それとも考えないからバカなのか。
たしかに冒険者は基本的に個人活動。ギルドに所属しているものの行動決定権は各冒険者個人にあり、何かあった時の責任も冒険者本人が追う。
それでもギルドを作って相互扶助を行っているのは何のためだ? ダンジョンに入る際にパーティを組むのは?
それは人間一人ではできることがあまりに少ないからだ。
だからこそ群れを成し、チームを組んで、一人では乗り越えられない壁も、仲間と協力すれば乗り越えられる。
その時にこそシルバーウルフがリーダーシップを発揮し、オオカミのごとく強固な群れを作る能力が輝くのではないか。
世の中にはゴールデンバットこそが最高のS級冒険者などと言っているが、それは画一的な見方しかできない視野狭窄バカのセリフだ。
ゴールデンバットなど所詮はスタンドプレーだけの男にすぎんということよ!
この世界でもっとも多くの冒険者たちを見てきた拙者は断然シルバーウルフの方が優れた冒険者だと主張する!
……とまあ、そんなシルバーウルフがギルドマスターに就任なんて、彼が得意な『群れを率いる』能力がさらに活かされるに違いないじゃないか。
これからの冒険者ギルドは益々繁栄していくことになるだろう。
そんな拙者の予言にも等しい推測の先のシルバーウルフ引退発表。
それが最新の、冒険者フリークスたちをもっとも騒がせる大ニュースだった。
シルバーウルフが引退!?
あの冒険者業界をもっとも根元で支えている巨人がいなくなったら、これからどうなるんだ!?
魔国に進出して、発展してはいるものの同時に混迷もしている冒険者業界……キッチリとした抑え役がいなければちょっとしたきっかけで崩壊しかねない。
こんな時勢であるからこそのシルバーウルフなのに……!?
……と思ったら彼の引退の理由が『ギルドマスターの職務に集中するため』。
なんだ引退するのは冒険者としてか……ビビってしまったじゃないか。
しかし今言った状況を鑑みてこそシルバーウルフがギルマス業に専念するのはよいことかもな。
いい手を打って来るじゃないか。よしよし、ちゃんと見えているな。
しかしそうなってくるとS級冒険者に出てくる空席が気になってくるな。
S級冒険者は最大五名までというギルド設立以来の不文律がある。
質の低下を避けるため……というのが理由に挙げられているものの、これまではシルバーウルフ、ゴールデンバット、ブラックキャットの三人体制の時代もあった。
そこからピンクトントン、ブラウンカトウが加わりS級冒険者五枠が埋まったのだが、冒険者ギルドが魔国へと拡大していくこのタイミングで、冒険者ギルドのシンボルというべきS級冒険者が減ることはあまりよくない。
ギルド執行部も拙者と同じことを考えているはず……。
さすれば何か対策を取っているはずだバカでないならな。
……。
ほらほら思った通り!
シルバーウルフ引退と同時に空席になったS級冒険者を選ぶための試験が行われるらしい。
やはり冒険者ギルド上層部もバカじゃなかったな。噂話だけで勝手に盛り上がっているバカどもとは大違いだ!
まあ噂に従えば現状、冒険者ギルド上層部を取り仕切っているのはシルバーウルフだからな。
それなら何ら不安になるところはない。
しかしS級の選抜を試験でやる……というのも珍しい話だな?
今までの慣例から考えると、試験で昇格を決めるのはA級までの話。
S級を選抜する場合、対象となる冒険者が主に二つの条件いずれかを満たした時、昇格が動議される。
条件の一つは、ギルドが定めた五ツ星ダンジョンを五~十ヶ所制覇すること。
もう一つの条件は未発見ダンジョンを三ヶ所以上発見し、正式に登録されること。
いずれも生半可な実力では達成できず、冒険者の真の実力が明らかにされる事績だ。
他にも例外的な事例として、人類の集落を襲うドラゴンもしくはノーライフキングから防衛を成功させたり、『聖なる白乙女の山』でアレキサンダーに謁見が叶えばS級冒険者に昇格させるかどうかの動議が起こせるという。
どちらにしろS級昇格のきっかけは冒険者活動中の功績がきっかけとなり、試験で決められるなど前代未聞。
こうした慣例破りもギルド上層部の……恐らくはシルバーウルフの未来を見据えた決定であるのだろう。
これから冒険者ギルドは拡大し、魔国へと進出する。
いやもう既に魔国の数ヶ所に新しいギルド支部が出来上がり、魔族の新人冒険者が今も多数生まれている。
そういう状況を加味し、人族魔族の冒険者ギルド内での融和を促進していこうというんだろう。
あるいは……ギルドが魔国へ拡大して早速、魔族のS級冒険者を誕生させようというのか。
フッフッフッフ……、甘い、甘いな。
お前たちギルド上層部の目論見は、すべて拙者が見抜いたぜ!!
お前たちの考えなど手に取るようにわかる!
この拙者の知略あってこそよ!
ふむ……そうなるとこのS級冒険者募集、見ようによってはチャンスに思えてきたな。
本来なら長い時間をかけて積み重ねなければならない実績を飛ばし、僅か一日程度でS級冒険者となれるのだから。
今まで拙者は、裏方としてずっと冒険者たちの働きを見守ってきた。
しかし今の、冒険者ギルドの考えをすべて見抜く分析力、知略。
それらを動員すれば拙者だってS級冒険者となることは容易では?
ふ……拙者もついに時代から求められてしまったか……。
そうだな、これまでは人目に知られず陰ながら助けるポジションも飽きてきたし、表に出て活躍するのもよかろうな。
豪商の親も『そろそろ働け』とか言ってきているし。
よかろう、拙者の今まで隠されてきた才能を発揮するステージに、S級冒険者ほど相応しいものはない!
見ているがいい冒険者たちよ!
今まで見守り役に徹してきた拙者が、表舞台に出てくる歴史的瞬間を!
冒険者の歴史は、これから拙者自身が刻むのだ!!






