表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
917/1417

915 愛はすべてを越えて

去る10/24にコミック版6巻が発売されました! よろしくお願いします!

『ほうほう恋バナの匂いがするわね。詳しく話なさい』


 愛と美の女神イシュタルがこっちの話に感づいてきた。

 ヤバい。

 こんな純粋に『ヤバい』という感情しか湧いてこない事態はなかなかない珍しい。


 一抹の不安どころの話じゃないが、この女神を呼んだのはこっちでもあることだし無下にするわけにもいかん。

 懇切丁寧に事情を説明する。


『なるほどなるほど、政略結婚というヤツね。私がこの世でもっとも嫌いなものだわ』


 女神頷く。

 何故だろ頷かれてもちっとも安心する気は起らない。


『結婚とは愛し合う者同士で行うもの! 利害の一致なんかを理由にして結婚なんかできないわ! いい、愛のために国が滅ぶことはあっても、国のために愛を諦めることなどあり得ないのよ!!』

『お前が言うと説得力が天元突破なんだわ』


 ベラスアレス様が呆れ口調で言った。


 たしかに愛のためなら国を滅ぼすことなど何とも思っていない愛と美の女神イシュタル。

 その中で政略を織り込みで妃を決めようなどという今日の催しなど唾棄すべきものだろう。


 よかったやっと話が戻ってきた。


 この事態に対して、神話上最強のトラブルメーカー、北欧のトリックスターすら目じゃないほどのトリックスターな愛と美の女神イシュタルがとる対応は……。


『いいわ、そこのボウヤね今日の主役は?』

「はいッ!?」


 名指しされてリテセウスくん飛び上がる。

 イシュタル女神の出現とともにまったく空気になっていたのでなおさら、気配遮断を破られてキョドッている。


『アナタに本当に相応しい結婚相手を、この私が選び出してあげるわ! 愛と美を司るこのイシュタルには、ヒトの恋情を察知できるレーダーが備わっているのよ! ゆえにこそどの子がどれだけアナタを愛しているか一目瞭然!』

『なんて迷惑なレーダーなんだ』

『まあ、別に愛していなくても、ウチの舎弟のキューピッドが矢を射れば誰でもあなたを愛するけどどう? 一本イッとく?』

『やめろよ、もはや大量破壊兵器なんよアイツの矢は』


 ここにきてベラスアレス神がツッコミ役として八面六臂の活躍をしていた。

 戦争の神をツッコミ役に追いやる愛の女神の恐ろしさ。


『あらでもこの子、よく見たら可愛いわね? ちゃんと英雄の相もあるし、これなら私の愛人になる資格もあるけど。人間の女よりよっぽどいい気持ちにさせて

あげるわよ』

『淫行防止条例!』

『ぎゃいんッ!』


 ベラスアレス神のブロックで愛欲神の暴走は止まる。

 さっきからファインプレーが止まらない。


「あの……神よ、願わくば僕のことを本当に愛してくれている女性を挙げてくれませんか」

『はい?』


 リテセウスくんの真面目な訴え。


「僕はこれから、この国をよりよいものにしていきたいと思っています。そのために必要なのは、僕のことをよく理解して一緒に進んでくれるパートナーです。権力やコネで僕に寄り添おうとする人は相応しくないと思います。それじゃ、一度滅びる前のこととまったく変わりないので……」

『いい答えだわ。やっぱり政策や権力より愛が一番大事よね。アナタの希望に応えて、この場で一番アナタを愛している女性を、女神パワーで選別してあげましょう』


 本当だな?

 ちゃんとやってくださいよ?


 不安をよそに愛の女神は神力をフル解放して……。


『開運! ラブサーチッ!!』


 開運ってなんぞ?

 イシュタル女神からピンク色の閃光が放たれたと思ったら、周りに照射されて全体を覆うように。


『解析完了! わかったわ……、この会場にボウヤのことを心から慕っている愛に溢れる女性はいるわ! それは……、この子よ!』

『え? ワシ?』


 イシュタル女神の指さす先に先生が!?


『違う! アンタの右な斜め後ろにいる子よ!』


 さらに正確な位置を割り出してそこにいたのは褐色肌の魔族……。

 エリンギアだ!!


『彼女こそ、この世でもっとも彼のことを愛していると愛の女神に懸けて証明しましょう! 二人で幸せな家庭をお築きなさい!』

「わぁああああああーーーッ! やったぁーッ!!」


 感極まったエリンギアがリテセウスくんに抱き着く。


 自信はあってもほんの一粒の不安はぬぐい去りがたかったのだろう。『もしかしたら』に恐怖しながらも打ち勝って、見事幸せを掴んだエリンギアだった。


『二人の幸福を、誰よりもまずこの女神イシュタルが祝福しましょう。それがどういうことかわかるわね?』


 女神の鋭い視線が周囲に配られる。

 血塗られた凶剣のように鋭い視線。


『愛する二人の仲を裂こうとするなど何事にも劣る鬼畜行為だわ。そのようなことをする者に女神イシュタルは容赦しません。必ずや神罰が下されることでしょう』

『愛のためなら国でも滅ぼすヤツだぞ』


 ベラスアレス神の補足説明も有難い。


『愛を軽んじる者は愛に苦しめられるといいわ。既に相手のいる者を愛するようにキューピッドの矢を放たせたら、一体どうなるかしらね。フフフフフフ……』

『だから大量破壊兵器なんよソレ……!』


 と、とにかくイシュタル女神のお陰でリテセウスくんとエリンギアの二人は結ばれたぞ!

 やったぁあああああああッッ!


 一時はどうなることかと思ったが、やはり先生の人選……いや神選?……は正しかった!


『はぁ……アフロディーテもといイシュタルの決定はさておき、安易に婚姻によって権力を得ようとする姿勢は好ましくないな』


 ベラスアレス神も今さらのように厳かに言う。


『力とは、それぞれの根気によって積み重ねていくもの。そうでないものほど肝心の時に役立たぬものだ。我が父ゼウスのしがらみから解放された人の子たちよ。これからは自分たちのために力を養うがいい。この聡明で賢明なる新指導者を盛り立て、本当の意味で強き国土を作り上げるのだ』


 まさに神らしい厳かなお告げをなさっている。

 ……これで前半の醜態さえなければな。


『私は戦争の神ではあるが、戦乱の剣はチラつかせるだけでも充分な意味を持つと考える。お前たちが平穏な世界で無事に過ごせることを願う。……さあ帰るぞアフロディーテもといイシュタル』


 なかば無理矢理話をまとめようとしたのは一刻も早くイシュタル女神を連れて帰りたかったから。


『えー? もう帰るの? せっかく久しぶりに来たんだからしばらく残って見学したーい』

『だまらっしゃあッ!! お前を滞在させていいことなんてまったく想像できんのだよ! 北欧のオーディンが「アイツを自分の世界に住まわせるぐらいならロキを野放しにした方がまだマシ」って言ってたの知ってる!?』

『どいつもこいつも失礼ねえ。こんな美しい女神を視界に入れておけるなんて至福と思えなくて?』

『目の毒だ!!』

『まあ別に誰に許可を得なくても私は住みたい場所に住むけれどね。誰も私を制限できいないのよ。久々のこの世界に俄然興味が湧いたから、向こう百年はここでスリリングな恋物語を見守るわ! 起こらなければ自分で引き起こす!』


 また神々の奔放な遊びが始まろうとしている。

 そこへ……。


『六十の病パンチ』

『ぐぼへッ!?』


 新しい神が現れ女神イシュタルに顔面パンチかましたッ!?


 誰だこの大鎌を持った死神みたいなのは。


『初めまして。私はクルの冥界からやってきた使者の神ナムタル。エレシュキガル様よりの命令でイシュタルを連れ戻します』

『げええええええナムタル!? なんでアンタが異世界であるここにいるのよ?』


 なんや女神イシュタルはあの死神と知り合いのようで、何やらメチャクチャ険悪な雰囲気?


『私の主エレシュキガル様は、このイシュタルの姉に当たるのですが、奔放やらかし体質の妹にいつも悩まされているのです。しかし掟から冥界を出ることのできないエレシュキガル様に代わって部下であるこの私が、大体こうして後始末に派遣されるのですよねー』

『誰も頼んでないわよそんなこと!! 不細工引きこもり体質のお姉ちゃんは、陽キャな私が羨ましいだけなんだわッ! ぐぼえッ!? ちょっと痛い! 顔ばかり殴らないでよ美の女神の顔を!』

『むしろ顔以外殴りませんが?』


 まったくもって容赦しない死神。

 あらゆる世界の神々を魅了してやまないはずの美女神にまったく心動かされない鉄の心。まさに死神という感じ。


 かなり酷いことをされているのに同情の念も湧いてこないのは、きっと女神イシュタルだから。


『クッソ世界の枠さえ跨げば追ってこないと思ったのに一体なんで?……ハッ、もしやベラスアレスちゃんアナタが!?』

『お前の恐ろしさは充分承知しているから対策は取ってある。お前の姉上とLINEの交換ぐらい済ませておるわ!』


 地味に世界の危機を救ったのは軍神ベラスアレスの機転だった。

 機転の内容は問題児の姉にチクるという情けなさ極まりないものだったが。


『いやぁああああああッッ!! 私は自由なの! 何物にも縛られない、だって自由恋愛だから! 見てなさい私は必ず戻ってくる! すべての愛と美のために必ず戻って来るわぁああああああッッ!!』

『いいから黙って引きずられなさい。戻ったらエレシュキガル様から直々の説教ですからね』


 嵐のように現れて嵐のように去っていく女神だった。


 なんかわけのわからない流れではあったけれどとりあえず、先生が女神イシュタルを召喚してくれたおかげで、リテセウスくんとエリンギアの結婚話も何とか丸く収まったのだった。


 さすがに神からの祝福を直接受けて、それにケチをつけようなどという命知らずはおるまい。


 おめでとうリテセウスくん、おめでとうエリンギア。

 二人で手に手を取って、新しい人間国を築き上げて行ってくれたまえ。


 さ、用事も終わったことだし農場へ帰りましょうか先生。

 ……先生?


『よいかお前たち。どれだけ国の中で権勢を誇っても国自体が立ち行かなくなったら何の意味もなかろう? だから権力を求めるのではなく国そのものを富ませることが権力者の本当にするべき……』


 いつの間にか権力に目のくらんだ人間国首脳部の人たちに特別指導を行っていた。


 さすが先生!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
bgb65790fgjc6lgv16t64n2s96rv_elf_1d0_1xo_1lufi.jpg.580.jpg
書籍版19巻、8/25発売予定!

g7ct8cpb8s6tfpdz4r6jff2ujd4_bds_1k6_n5_1
↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[良い点] 婚約成立おめでとう! リテセウス君 [気になる点] 使者の神 → 死者の神 ・・・ ですよね? 引き裂く者は現れ無いかもしれませんけど 愛故に割り込む女性はきっと現れます! (断言!) …
[気になる点] LINEとはド直球できましたね。
[良い点] 先生は気軽に神を召喚したがる事以外は本当に人格者でいらっしゃる
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ