896 異世界で革命は許されるのか
農場内での試験運用も終わって、いよいよトランプの本格運用が始まる……!
といっても家族で普通に遊ぶだけなんだが。
一番の目的である我が子ジュニアにも楽しんでもらえるだろうか?
五歳児は果たしてトランプのシステムを理解できるのか……、と思ったが……。
「えぼりゅーしょんきんぐー、ろいやるすとれーとふらっしゅー」
よかったちゃんと理解しているようだ。
トランプの中でもそんなに難しい方のゲームの用語を覚えて……。
さらには便乗して妻のプラティまで……。
「はあはあなるほど? 十一から十三までは十と同じ扱いで? さらに一は十一と都合のいい方に使い分けられるのね? それで二十二を越えちゃったら負けと……!?」
息子に便乗してトランプのゲームを覚えつつあった。
次男ノリトはまだ理解できる年頃に達していない模様。
そうして家族でトランプに興じる夜もあったりして愉快さが増してくる今日この頃……。
* * *
ある日、農場に見慣れた面子が集まってきた。
魔王さん。
アロワナさん。
初期農場の頃は頻繁に遊びに来てくれた人たちだが、それぞれ魔国人魚国の代表としての社会的立場もあり、さらには一家庭を持って父親という立場を得てからズンズンと遠ざかっていくのだよ。
男の友情関係は。
そんな中での久々の顔合わせなんだから充分活用すべき。
こないだ開発したばかりの新製品の自慢とか!
俺が開発したわけじゃないけど!
「ほうほう、聖者殿がまた新しいものを作り出したか」
「来るたびに新鮮な驚きに出会えますな」
魔王さんもアロワナさんも揃ってトランプに興味津々。
なれば流れるようにゲームに入るのが男たちの不文律。
デュエルしようぜ!
「うむ!」
「受けて立ちましょうぞ!!」
少しの間だけ子育てから解放されて、父親から一人の男に戻る時間があってもいい。
さてでは、いい歳した男たち三人集まってするカードゲームは一体何がよかろう?
せっかくだから普段よりも頭を使ったゲームをやりたいよな。
子どもらと一緒になってワイワイやれるのよりも、同世代で知恵を絞ってやるような……。
かといってポーカーとかブラックジャックとかバカラなどは狙いすぎ感があるように思える。
なんだコイツ気取ってんな、みたいな。
そんな風に見透かされる危険もなくいい匙加減でやれるトランプゲームって何かあったかな……?
……。
一件ヒットしました。
「……大富豪?」
そんなゲームが世にあるという。
選ばれし者だけが参加できる、光り輝く聖域。
……俺、大富豪ってやったことがないんだよな……。
何故なら、俺は選ばれし者ではないから。
選ばれし者だけが大富豪に参加できる。
まず大富豪は、ある一定の人数で行われるゲーム。
四人でやるのが一般的だろう。
そこからまずハードルが高い。
友だちいないヤツはどうやって人数確保すればいいんだ?
そういう条件ならこないだやったババ抜きや七並べも同じであろうが、前述のようにより単純な七並べやババ抜きのルールであれば子供でも理解し家族でやった経験もあるかもしれぬ。
しかし大富豪のルールは複雑!
出せれた札より大きな数を出せばいいという基本ルールはいいとして、同じ数字ならまとめて出してもいいとか、二が一番強い数字だとか色々分けわからんルールが多い!
大体なんで二が最強なんだ!?
一ならわかる!
一、……別名Aと言われて特別感があるし、大抵他のゲームでもエースはキングより強い。
皆がエースを特別扱いしている中、なんで大富豪だけエースより特別な存在を作る?
そう言うところも大富豪の複雑怪奇だが、しかしそんなところは所詮序の口。
大富豪にはローカルルールなどというものがある!!
ローカルルールの奇々怪々さに比べたら、二が一番強いなんて複雑でも何でもない。
八切り? 脱税? スート縛り? 階段? 天変地異? 十一バック? マナバーン? 都落ち?
複雑すぎてわけわからんすぎる……!
なんでそんなに地方で特色をつけようとする!?
大富豪で村おこしでもする気か!?
こんな複雑怪奇すぎるルールの遊び、子どもじゃまず覚えきれない。
ポーカーの役覚える方がずっと簡単。
つまり何がいいうたいかって言うと、大富豪を使いこなして楽しむことができるには最低でも小学校高学年の頭脳が必要だってことだ(偏見)!
その年齢になることには親兄弟とトランプ遊びというのも恥ずかしくなってきてるし(思春期)。
だとしたら共同プレイヤーは自前で調達するしかない。
その年ごとで一緒に遊んでくれる人というとそう……友だち!!
一緒に大富豪をやろうとしたら、友だちとするしかない!!
そのハードルがどれだけ高いか! ボッチにとっては凄まじいばかりの難易度!!
むしろより大人なカードゲームというべきポーカーやブラックジャックの方がある意味難易度は低い!
何しろカジノにさえ行けばディーラーさんが相手してくれるんだし。
友だちのいる青春時代にのみ許された、選ばれし者どもの高貴な遊び!
大富豪!
それが友だちのいないボッチたちにとってどれほど踏み込みがたい聖域か!!
つまりそう、大富豪とは陽キャのトランプ遊びと言っても過言ではない(過言)!
そもそも上がった順位に即して富豪とか貧民とか順位付けしていくのもそう!
陽キャはすぐそうやってカーストを形成しようとする!!
そんなわけで学生時代の俺が近づくことすら許されなかった陽キャの聖域、大富豪!!
しかし今ならば踏み込める!
異世界に渡って、気のいい同年代の友人を得たい今ならば!
「そういうわけで大富豪をやりましょう」
「おお! 何やら豪勢な名前ですな!!」
皆さんも乗り気で早速大富豪が始まった。
ただやはりルールを理解するまでにけっこう時間がかかった。
「ん? 何故にが一番強い数字なのですかな?」
「八切り? 七渡し? 六戻し? 十飛び? 数字で様々な種類があるのですな?」
しかしそもそもが国を束ねる王様二人。
理解は物凄く早く、大富豪の奇々怪々面妖なるルールをスイスイ飲み込んでいく。
すべての準備が整ったところでゲーム開始だ!!
……いや、待て?
と始まる寸前に思った。
そもそも富豪というのは資本主義の概念。
貨幣をたくさん持っている人が富豪。
そのような遊びを生粋の王者……封建制の権化である魔王さんやアロワナさんにさせてよいものか?
しかも大富豪には、どんなローカルルールを交ぜ込んでも必ず残って存在感を発揮する、あの目玉ルールがあるじゃないか。
革命。
同じ数字のカード四枚を出すことによって発生する、数字の強さがまったく逆になってしまうフェイバリットカード!
しかし革命なんて、王制においてもっとも忌むべきカタストロフではないか!
宗教に置き換えればハルマゲドンでサタンが勝利を収めるようなもの!
そんな概念を、ゲームの中とはいえ名君二人の前でやっていいものか?
しかも実際ゲームが始まったら、その革命を各王様ご自身で発動させるシチュエーションもありうるってことか!?
想像したら罪深さがボルテージしてきた……!?
いいのか?
この面子で大富豪を始めてしまって本当にいいのか!?
「感動しましたぁああああああああッッ!?」
うわなんだッ!?
ヒトが葛藤しているってところに乱入してくる新たなファクター。
誰だ!?
リテセウスくんか!?
魔王人魚王に加えて、人間大統領までやってきて三種族のトップが揃い踏み!
ここでサミットでも始めるの!?
「民主化促進のためのアドバイスを窺おうとお邪魔したんですが、尋ねる前から従前の回答を用意しているなんてさすが聖者様! 目からウロコが炸裂しましたよ!!」
何のことだい?
大統領化してますます性格の変わるところがすこぶるなリテセウスくん。
もはや『立場が人を育てる』の域を大きく超えている。
「富豪! 貧民! 革命! 王制にはなかった民主主義の中にある概念をゲームを通じて学べる! 実に有意義です! 早速この遊びを人間国中に広めたいと思いますッ!!」
だから待ちやがれってばよ。
皆すぐ俺が異世界で再現したものを拡散させようとする!
「それは名案だ! 聖者殿、魔国でもこの紙束を広く伝え、民たちの安らぎに仕様ぞ!」
「耐水性のトランプもありますか!?」
魔王さんとアロワナさんも前向きだ!!
結局トランプも異世界に広まっていくことを止められないのだった。
そして結局、二王、一大統領、一聖者で大富豪はプレイされてそれなりに盛り上がった。
 






