892 卒業生の実力
オレの名前はホビロナス。
いずれ人間族最強となる選ばれし者だ!
その証拠にオレは、選ばれし者のみが入れる農場学校で現在修行中。
メキメキ成長して、力をつけていっている。
ここまで急激に強くなるには、ここ以外では不可能だっただろう。
何しろここは聖者様の農場。
今、世界中で話題に話題になっている、ここに来ればどんな夢も叶うという聖なる場所。
世界のすべてがそこにあるという。
巷では多くの者たちが聖者様のおられる場所を求め、あちこちを探し回っているという。
しかし残念。
聖者様の農場は、本当にごく一部の真に選ばれた者にしか辿りつくことが許されぬのだ!
その選ばれし者の一人こそが、この俺。
いずれ世界最強となる男ホビロナス。
オレは物心ついた時から最強を目指して鍛えてきた。
父上から『体ばかり鍛えていないで勉強しろ!』と何度も怒られてきたが、頭など鍛えるよりは体全体を鍛えた方がずっといい。
何故なら頭は体の一部に過ぎない。それよりも全体を満遍なく鍛えた方がいいに決まっている!!
そうして強くなっていけばいずれは人魔戦争に参陣して、目覚ましい戦果を挙げて、その功で出世してお家を栄えさせることも可能。
そう信じて鍛えていったのに、オレが初陣を飾る年齢になるより前に戦争は終わってしまった。
それでもいつか何かあった時のために体を鍛え続けた。
父上からは『もう平和になったんだから、体ばかり鍛えてないで知性も磨きなさい!!』などと言われる。
しかし何と言われようとオレは最強を目指すことをやめない。
男に生まれたからには、一番の高みを目指さなくてどうするのか!!
そう思って鍛え続けた結果、十五歳を迎えたある年にお眼鏡に適った。
聖者様の農場へ行くことを許されて日々修行している。
巷では『聖者キダン同盟』とかの聖者様を信仰する者どもが溢れかえっているが、ソイツらはどんなに祈ったり忠誠を誓ったりしようと聖者様の下へたどり着くことはできない。
聖者様にお目見えするには本当の意味で『選ばれ』なくてはダメなのだ。
オレは選ばれた。
オレには資格がある。
この農場で鍛え高め、最強となる資格が。
農場には、オレが強くなるためのきっかけで溢れかえっている。
想像を絶する強力なモンスターたち。世界二大災厄と言われるドラゴンやノーライフキング。
それらが直に接して指導までしてくれるんだから、その有難味は世界一といっても過言ではない。
あとなんか偉い怪力無双な女の人もいるし。
ここで鍛え、マッスルしていけば俺は程なく世界最強になれることだろう。
栄冠はすぐそこだ。
オレたちを直接教えてくれるノーライフキングの先生は『ホビロナスくんは、もう少し知力にも重きを置いた方がいいのう』とは言うが、そこはそれ。
すべては筋力。
筋力はすべてを解決する。
農場で一番筋力のありそうな女の人にも聞いてみたけど『バカね! 筋力よりも豆よ! 豆が世界のすべての問題を駆逐するのよ!!』って言ってたし。
とにかく筋力を鍛えて鍛え、恵まれた環境を最大限に利用しつつ俺は鮭委の高みへと駆け登る。
そうして過ごして一年が過ぎ、ただ今二年目。
後輩も入学して来てますます修行生活は充実している。
皆は『修行じゃなくて学生生活』とは言うけれど……。
* * *
そんなある日、オレにとってもとても興味深いことが起きた。
今日もまた特別授業が行われるという。
この農場学校では割としょっちゅう特別授業が行われる。
魔王とか人魚王がよく遊びに来るので、そのついでに特別なお話をしに来てくれたりする。
オレとしては話よりも直接手合わせとかしてみたいんだが。
そして今日来た特別ゲストは、なんと新しく人族の代表となった人間大統領リテセウス。
何とここ農場で学んでいたことがあるらしい。
つまりはオレたちの先輩?
それを聞き多くの者らが湧きかえって『農場で学んだら王様にもなれるのか!? スゲェ!』などと言ったりしていたが……。
……何言ってるの? 王様と大統領は違うだろ?
授業中ですらスクワットして真面目に授業を聞いていなかったオレですら理解しているんだぞ?
とにかくオレが興味津々なのは、大統領にまで登り詰めた農場卒業生がどれほどまでに強いのかってことだが。
きっと死ぬほど強い。手合わせ願いたいものだが、きっと魔王や人魚王と同じようにお話だけして終わりなんだろうな。
今日も退屈な授業だぜ。
そこへ教壇に立ったリテセウス人間大統領は、のっけの第一声から予想だにしないことを言ってきた。
「キミたちには殺し合いをしてもらいます」
なんて!?
想像だにしなかった言葉にオレたちは困惑!
そんな困惑も置き去りにしてリテセウス
「僕は今日、人材を探しに来ました。未来の人間共和国を担う若き人材を」
はいはい。
それは大かた察しが付く。オレ以外の多くの人族が『ここでアピールしたら将来は人間国の重鎮に!!』と期待一杯だったからな。
しかし、その流れからのあのセリフとは……!?
「ただ知識があったり機転が利くだけでは人間共和国の官僚は務まらない。政の第一線に立つには、どんな事態にも揺るがない強い心……座った肝っ玉がいる。そして心を支える強靭な肉体も……」
おおッ!?
これはオレ好みの展開!?
「そこで僕みずから学習中のキミたちの実力を図りたい。『殺し合い』と言ったのは当然僕一人とキミたち全員での戦いだ。キミたちだけを危険にさらして僕一人安穏としているのは、指導者にあるまじきことだからね」
おおおおおッ!
まさにオレ好みの人ではないか!!
こんなにもオレの思考に近い御方が先輩の中にいたとは!
しかも人族の代表まで登り詰めている! やっぱりオレの修行の姿勢は正しかったということだな。
「さあ、今から胸を借りるつもりでかかって来なさい。僕は三十パーセントの力で受けて立とう」
なんだと!?
せっかくの人族最高の男と手合わせする機会なのに、手加減などしてもらったら何の意味もない!
こうなったらまずオレから行く!
農場で修行した俺のパワーを見せてやらああああ。
食らえッ! 農場仕込み無調整パンチ!!
痛ぇッ!?
想いっきり顔面にヒットしたのに、なんでオレの拳の方が痛いんだ!?
「よく鍛えたパンチだ。さすが先生は、僕の後輩たちもよく指導してくださっている」
対するリテセウス大統領の方は……少しも痛そうじゃない!?
顔面を殴ったのに、鼻血も流していないのはまだしも痛みに顔を歪めていないというのは!?
「その頑張りに免じて、少しだけステージの段階を引き上げてあげよう。これからの勉強の参考によく見ておくといい。これが僕の六十パーセントだ」
うおおおおおおッ!?
大統領の周囲から凄まじいオーラが噴き上がる!?
桁違いだ!?
これでなお全力の半分ちょっとでしかないと!?
今の時点でオレは、象に踏み潰される五秒前のアリンコの気分なんだが!?
「皆、現状に満足せずひたすら自分を鍛える道へまい進してほしい。キミたちが卒業の暁には、その任に耐えられると判断した者だけをガンガン人間共和国行政府にスカウトしていくつもりだ。しかしそのためには知力も必要だが、筋力も必要だ。皆、心身のバランスを崩すことなく満遍なく鍛えてくれ」
リテセウス大統領……!?
農場卒業生の力、これほど凄いなんて!?
オレは農場で一年過ごして充分に強くなり、このまま漫然に過ごしていても充分に世界最強になれると思っていた。
しかしオレのそんな考えは甘かった、甘すぎた!
オレはもっと農場で必死に鍛えなかれば世界最強にはなれない!
農場学校は三年制だと聞いた。
だとしたらオレがここで学べる期間はもう二年切っている。
残りの時間を最大限活用して、そして卒業後も己を高めるためには……。
あの最強なるリテセウス先輩に弟子入りするしかねえ!
そのためにも人間共和国の官僚として採用されなくては!
そのためにもたくさん勉強しないとだぜ。さすがに何も知らないと官僚には採用されないんだから!!
このホビロナスの最強への道はまだまだ続く!






