887 運命の再会
書籍版最新十二巻、明日発売になります!
どうかよろしくお願いします!
まだまだ人間大統領のリテセウスです。
大仰な肩書きを持つのも、大仰な対応を受けて場合に寄っては困りもの。
聖者様も、そういうのが苦手なので俗世に関わろうとしないのかな? と思ってしまう。
そんな僕はまさに過剰歓待のド真ん中。
結婚相手にと引き合わされた相手は……。
「……エリンギアさん!?」
何と知り合い。
かつて僕が農場で学んでいた頃、同じような経緯で農場までやってきた魔族の若者たちがいた。
額面的には、魔王軍の幹部候補生で、常ならぬもの目白押しの農場で多く学べということだったんだろう。
そこで奇しくも魔族と人間族の若者たちが一緒に学ぶようになった。
今思うと人魔融和の第一歩のような環境だった。
そんな魔族側の農場留学生の一人としていたのが目の前にいるエリンギアさん。
魔族の女性。
かつては戦勝国のエリート候補生ということでプライドの塊みたいな人であったが、農場での生活で彼女にもそれなりの成長をしたようで、卒業する頃には随分人当たりのいい人格になっていたようにも思う。
そんなエリンギアさんと、このような場所で再会することになるとは……!?
彼女は本日、農場で一緒に過ごした日々と違ってドレスを着用して花咲く乙女のようだ。
実際乙女だけれど。
まあここは舞踏会上だしTPOは弁えてるよね。
「えへへ、来ちゃった♥」
何ですかその語尾にハートマークがつきそうな語調は!?
農場での日々が一気に思い出される。
そして、そんな僕たちの会話に好感触でも得たのか、引き合わせ役の魔族がウキウキと話し出す。
「お気に召しましたか! このエリンギアは私の姉の息子の結婚相手の曽祖父の友人の又従弟の娘の姪に当たりましてな!!」
ほぼ他人。
「女だてらに魔王軍のエリート候補に入りまして、腕は確か! ここ最近もレッサードラゴンを駆逐したりダンジョンを連続制覇したりと目覚ましい成果を上げております!」
「でしょうね」
農場で一通り鍛えられたら、それぐらいの手柄はあげますでしょうよ。
ごくごく当たり前すぎて驚いてピョンと跳ねることもできない。
「このまま出世していけば、その極みに四天王となるのも夢ではないでしょうが、所詮女! 位人臣を極めるよりも家庭に入って夫を支える方が数倍の幸せとなりましょう。それが人王という他国ながらも最高地位にある人ならばなおさら!!」
「ん-、その言い方はムカつきますね」
「でしょうでしょう! ですので是非ともこれを機会にいいお付き合いを……へい?」
高らかなテンションであった上級魔族の話しぶりが、鼻っ面を叩かれるようにして止まる。
「努力の価値に男も女もない。エリンギアさんが頑張って打ち立ててきた成果を、女というだけで全否定するのはおこがましいんじゃないですか?」
「え? あの、いや……!?」
「彼女の実績が魔王軍四天王に相応しいものなら四天王に抜擢するといい。それが当たり前の話だ」
他、思想とか行状とか、考慮すべき点はあるだろうけれども、少なくとも性別なんかは考慮すべき点には入らないと思う。
当人にはどうにもならないところで評価を決めてしまうのは、間違いだ。
そんなふうに語る僕へと熱視線が送られているのがね……わかるんですよ。
「素敵……♥」
当然のようにエリンギアさんがね。
『ますます惚れ直したわ』と言わんばかりな視線なんですよ。
やめてくださいますかね!?
「……だからぁ、まあ。当人が望むなら結婚はまだまだ先にして四天王のポジションに挑戦するのも一つの道かという……ね?」
「いいえ、そんなことはないわッ!!」
ここでついにエリンギアさん当人が発言!
その勢いが怒涛!!
「この私エリンギアは、四天王の座などに興味などありません! このリテセウスの妻として陰となり日向となって、彼のことを縁の下から支えていきたいと思っております!!」
魔王軍の最高位階に興味がないって言い切っちゃうのもどうなの?
「リテセウスが重大な責任を負ったのならなおさら、彼のもっとも近いところで彼を支えて、彼の偉業を成し遂げる手助けをしたいと思っています!!!!」
「エリンギアさん? ちょっと、声がぶっ飛びすぎ……!?」
「したいと思っていますッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
いかんエリンギアさんのテンションがMAX振り切って天元突破なさっている。
人生最大の獲物を前にして興奮を抑えきれていない感じだ。
……思えば、初めて出会った時もそんな感じだったなあ。
まるで回想の導入。
僕とエリンギアさんは農場で初めて出会ったわけだが、その時から僕との接し方が彼女だけ殊更異様だった。
まず猛烈に敵対視してくるし。
人魔戦争の終結から、まだそんなに時間が経っていなかったということもあるが、人族に対しての敵意? というか見下してくる感情が強くて、僕だけでなく他の人族留学生も辟易したものだった。
しかしながら一緒に授業を受けていく中で、互いに競い合うシーンなどもできて、そこで僕が圧勝してしまったことあるごとに。
それで少しは大人しくなってくれるかな? と期待したところ結果はまったく逆だった。
エリンギアさんに襲われた。
その際、聖者様は『ツンデレに襲われるのはラノベ主人公の宿命』などと言っていたが、どういうことだろう?
その意味はいまだにもってわからない。
「とにかく農場を卒業してから完璧にリテセウスとの線が切れて、このままでは二度と会うこともできないかと思っていたところ、これは千載一遇の大チャンス! ここから絶対に結婚まで持ち込む!!」
なんか決意を固めておられる。
どうしよう……。
農場を卒業して心穏やかになったことランキングに入る項目が、このエリンギアさんなのだが……。
再び僕の心の平穏が乱される!
「とにかくお久しぶりリテセウス!」
きゃあ!?
エリンギアさんから僕にダイレクトアタックきた!?
「アナタの活躍は聞こえているわよ! 人間国の支配者にまでなってしまうなんて、さすがはこの私が認めた男ね!!」
支配者じゃないです、ただの社会的代表です。
「そんな最強の立場についた今でも結婚相手を決めないなんて、何か理由があるのかしら!? たとえば……、その、特定の誰かを待っているのか?」
その特定の誰かが、特定の誰それだといわんばかり。
「さすがに一国の頂点ともなれば、その配偶者にも一定の資質が求められることでしょう! ……この私ならば、その要求に応えられると思わない!? アナタと同様農場で学んで、少しは進歩的な思想の持ち主であるつもりだわ! 卒業して魔王軍に戻ってからは、その経験を十二分に活かして様々な功績を挙げてきた! さっきのそこのハゲが言ってたわかりやすい、戦功だけじゃないのよ!!」
ハゲいうな。
事実でも言っていいことと悪いことがある。
「軍縮に伴う魔王軍の組織再編など、主に進めてきたのは農場からの出戻り組がメインなのよ! 他にもいまだ人族を敗者と見下す連中への意識改革に努めたりとか、たとえ遠くに離れていても、リテセウスの役に立てるように頑張ったわ!!」
「ん、ありがとう、ハハハ……!」
「そんな私なら、これからリテセウスの隣にいてもさぞかし役に立つ者と思わない!?」
要するに『私を嫁にするとこんなにお得!!』というアピールをしているわけだが……。
たしかにエリンギアさんは伊達に農場を卒業しているわけではないし有能無能の話をしたらガチの有能であろう。
このまま魔王軍に残り続けたら、四天王入りも冗談ではなく充分射程範囲内だろう。
指導者には、その伴侶にも一定以上の能力が求められる。
それも事実だ。
だから人間大統領となった僕にもそれ相応の奥さんがいてくれたら、それに越したことはないんだがな……。
だが……!
「お断りいたします」
「なんでッ!?」
きっぱりお断りを入れられたエリンギアさん。
衝撃で固まる。
「僕は能力だけで奥さんを選びたくありません。夫婦とはそういうものではないはずだ」
「なん……ッ!?」
「夫婦とは、人生を共有し合った男女が病める時も健やかなる時も一緒に歩んでいくもの」
だからこそ高い能力を要求された男の妻にも高い能力を要求されることは、ままある。
僕のように、多くの人の生活を預かる者なら、それも無視してはいけない大事なこと。
「しかしもっと大事なことは他にある! 相手の女性を愛しているかということ!!」
「んごッ!?」
そうだ。
これからの人生を一緒に生きていくのなら、互いに愛し合っているかどうかこそがもっとも重要なことではないか!
僕が誰を愛しているか!
結婚相手を誰に選ぶかは、それこそがもっとも重要なことであった。
「だからエリンギアさん!」
「ひゃいッ!!」
「僕はアナタを愛しているのでこの場で結婚を申し込みたい! 僕がアナタから、結婚の許可を頂きたいのです」
「ふぇええええ……!」
エリンギアさんが赤面してかつ硬直されていた。
「アンタのこう言うところがいつも……!」
「ん? なんか言いました?」
「その難聴癖も……!」
エリンギアさん、震える声で答える。
「も、もちろん結婚するわよ! でも勘違いしないでよね! 別に政略とか能力の問題じゃなくて好きだからアナタと結婚するんだから! アンタの言った通りにね!!」
さすがエリンギアさんは、プロポーズの言葉すらツンデレ風味だった。






