880 神を超えるものオンパレード
はい、俺です。
酷い蹂躙プレイを見た。
万象母神ガイア様のお導きで、遥か地下深くに封印された古代神……クロノスさんとその仲間たちのお勤め明けに立ち会ったわけですが……。
案の定、戦いになった。
だってガイア様がそうなるって言ったんだもん。
遥か昔に戦争を繰り広げて敗北して、そのお陰で何千万年と封印されてきたということだから恨みに思う理由は充分。
むしろ恨んでいないわけがない。
さすれば自由にした途端やりそうなことといえば復讐するは我にあり。
憎しみは何も生まないわ! 復讐なんて誰も望んでいない!
なんて言えるのは無関係な人間だけということで。
クロノスさんたち側には仕返ししたいという気持ちがあるのは十二分に理解できるので先回りで対策を打っておくのは大事なこと。
その対策というのが俺たちってわけなのです。
俺with農場の最強戦力たち。
ガイアさんから声かけられたときはどうしようかと思ったものだが、別に俺たちが協力しなくてもクロノスさん解放は強行しそうだったので、こっちには協力する以外の選択肢がなかった。
世界全体を人質に取られるようなもんじゃん、こんなの。
だったらやるしかねえわ。
ということで選りすぐりのメンバーを募って、クロノスさんたちの封じられているという地獄の十三丁目辺りの位置。
地底深くのタルタロスという場所の入り口にまでやってきた。
ほぼ異界よ。
異世界転移した俺ではあるが、こんな次元を超えたところまで踏み入ることになるなんて思いもよらんかったわ。
いい経験をしている。
ガイア様がムニャムニャ呪文を唱えると、いかにも重く閉ざされた門がグゴゴゴゴゴゴ……と開いていった。
地獄が鳴動するかのような響きだった。
ここが、クロノスさんを封じているという地の獄タルタロスの出入り口。
ここを開いてしまったら、もう後戻りはできない。
門に碑文が刻まれていて『この門をくぐる者よ大志を抱け』とあった。
格言ごちゃまぜ?
とにかく開けた門前で待っていたら、呼応するようの奥から大挙して押し寄せてくるモノたち。
神々はハデス神やらポセイドス神で慣れていたから何となくわかったが、それと比べても出てきた神は、気配やら威厳やらの圧が凄まじい。
推測するまでもなくこれが神々の前王クロノスであることは一目瞭然。
この人(神?)が本気で暴れたらハデス神とポセイドス神がタッグでかかってもボコボコに殴り返されるんじゃね? と思う程度には重剛であった。
そんな大神クロノスが案の定、復讐を謳って襲い掛かってくるんだから当方としても迎撃の用意あり。
行くぞ我が農場の仲間たち! 正当防衛アタックだ!!
まずドラゴンのヴィール、次にノーライフキングの先生。さらには天使ホルコスフォン納豆ヘルカスタムとどめにウチの妻プラティが母親譲りの聖唱魔法で薙ぎ倒していってた。
強い。
我が農場の仲間たちガチ強いやん?
黄金聖闘士かよ?
神相手に一歩も引かないどころか木っ端のごとく蹴散らされていくんだから、俺も見ててちょっと体が震えた。
とどめにレタスレートが出てきて、クロノス神の顔面を鷲掴みにすることで完全決着がついた。
「必殺! くるみ割りアイアンクロー!!」
『あだだだだだだだだだだだだだッッ!? 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬッ! 顔が割れる顔がッ!? 神の王の顔がぁああああああああッッ!? ギブギブギブギブッ! ギブアップ! ギバーーーーップ!!』
新世代が現れるまで神の王者を名乗っていた者の悲痛な叫びが聞こえた。
あれはもう心が折れてますな。
その様子を眺めてブルブル震えている二神がいた。
『クロノスのクソ親父があんなに一方的に……!? 神のメンツ丸つぶれ……!?』
『マジヤベェよ農場の者たち……! アレキサンダーと人魚の歌姫にさえビビッときゃいいと思っていたのに、そんなのおかまいなしだよ最近の人類……!?』
冥神ハデスと海神ポセイドスのご兄弟だった。
現役の支配神たちが、こんな旧き神々の幽閉場所まで何の御用で?
『そりゃパパ上クロノスが出所するなんて聞いたら気になって身に来るのが当然だろ! 我が世の春が久からずではないか!?』
『せっかくゼウスが謹慎になって生きやすい世の中になると思っていたのに! ゼウスがいなくなってパパ上が復活したら結局息苦しいだけじゃないか!!』
大地と海を支配するこの主神たちも、自分たちの体制を守り通すために必死であった。
しかしアナタたちが心底恐れる旧権力者は今、お姫様に握り潰されようとしていますよ物理的に。
「ヒー豆、エンド!!」
『ぐおぉおおおおおッッ!! 中身が弾け出るぅううううううッッ!?』
その姿にはもう神の威厳もあったものではなかった。
強くなったなとは思っていたけれど、天井のない子だなレタスレート。
『農場の連中恐ろしい……!?』
『金輪際未来永劫逆らわんとこ……!!』
それを傍目にガタガタ震える現役支配神。
一体何なんだろうこの風景は?
ただ収監中の年配神を痛めつけるだけの企画になっておる……!?
『さあ、レタスレートちゃんもういいわよ。ハイご褒美の煎り豆』
「わーい」
ガイア母神がレタスレートのことをちゃんと扱いこなしている?
これが万物の母の能力?
『これくらいでわかったかしらクロノス? アナタがタルタロスで引きこもっていた間。地上では凄まじき進化が起こり人類はかつてない大パワーアップを果たしたのよ。神をも超える力を得るほどにね……!』
『いたたたたたたたた……! まだ顔がミシミシ言ってる……!?』
カッコよく導入しようとするガイア母神に対しても、まだ痛み驚きに聞く態勢の整っていないクロノス神であった。
『……人が神をも超える力を手に入れるとは……ゼウスどもは一体何を考えているのだ? こうなればいつ神の地位が脅かされるかわかったものではない!!』
逐一仰る通りです。
『もはやこの世界で神だけが威張り散らせるような時代ではないのよ。神や精霊……超常存在も含めたすべての存在が助け合って、この世界は運行していくべきなのよ』
『うぬぅ……!? 万象を生み出せしガイア神が言うなれば、そうなのかもしれんが……!!』
立ち上がるクロノス神。
ようやくダメージから立ち直ったようだ。
『……だから外に出てもみんなで仲良く暮らせと言いたいのか!? しかし! それでもゼウス、ポセイドス、ハデスの三神は許すわけにはいかん! 息子でありながら父に挑み、このような地の底に押し込めるような連中と仲直りしろということではないか!?』
殴った側は忘れても、殴られた側はいつまでもその痛みを覚えているものだった。
戦争に敗けて幾万年も幽閉されてきたクロノス神に、出てきてすぐ仲直りしろといっても、なかなかに難しい。
『パパ上、パパ上』
『その節は本当に申し訳ありませんでした』
そんな悲憤慷慨のクロノス神へなだめる様に歩み寄るのが主な加害者のうち二名。
『うおッ!? ハデスにポセイドス!?』
『いつもお世話になっております』『お勤めご苦労様です』
いつもは神なりに傍若無人な二名だが、さすがに父親に当たる旧神に対しては下手に出る。
『貴様らぁ! どの面下げてこの大神クロノスの御前へとノコノコ現れたァ!? まさか貴様らまで、過ぎたことは水に流そうとでも言いだすんじゃなかろうな!?』
『落ち着いてくださいパパ上』
『これが落ち着いていられるか! しかも貴様ら二神だけか!? いつも仲よしのゼウスはどうした!? アイツを伴わずメンバー不足で出てくるなど結局このクロノスを侮っている証拠だろうがぁ!!』
『…………』
『へぶしッ!?』
うおおおおおおッ!?
唐突にハデス神が父であるクロノスさんをビンタした!?
ここは和解の場ではなかったのか!?
『……父上、冗談でもオレたちとゼウスが仲よしなんて言い方やめてください。キレますよ?』
『す、すみません……ッ!?』
普段温厚なハデス神ですらキレさせる一言があった。
それはクズな兄弟のことについて触れられること。
『し……しかし本当に和解を目指しているんなら、ゼウスも加えて雁首揃えるべきではなかったのか? どうせあのクズのことだから私から頭を下げてくるのが当然とか言ってシマの天界から出てきてないんだろう?』
『さすがパパ上、一番出来の悪い息子のことをちゃんと理解していらっしゃる。しかしその予測は間違いです』
『なんと?』
『今ゼウスのヤツも幽閉されておるのですよ。アナタと同様に』
『なんなんとッ!?』
驚く父の神。
『ついこの間やらかしがありまして、その責任を取る形で封印されることとなりました。だからパパ上と顔を合わせることは、パパ上が娑婆に出てきてもあり得ぬかと』
『ヤツの息子のヘパイストスが気合入れて幽閉用の宮殿建築してたからなあ。縛鎖 神殿だっけ?』
『こないだ一七六回目の改修が入って、第八四八〇式縛座縛殿無間叫喚獄層三七重多元屈曲潮汐呪縛双界曲宮にバージョンアップしたそうな』
『マジで外に出す気ねえな』
それらの衝撃事実を聞かされてクロノス神、呆然。
自分の幽閉中、世の中が大きく動いていたことを想像だにできなかったんだろう。
しかし即座に実感が回ってきたようで。
『そうか、フハハハハハハハ! ゼウスめ結局ヤツも自分の息子に倒される運命であったが! 因果は巡るものよ!!』
『ろくでもない因果ですけどね』
『それを聞いて胸がすいたわ! もはや何をもってしてもどうでもいい! 和解でも平和でも何でも進めるがよいわ!!』
こうしてゼウス神のざまぁで溜飲の下がったクロノス神との和解はスムーズに進んだ。
すべての平和の懸け橋となったゼウス神は素晴らしい。






