868 冒険者、魔国進出
冒険者という職業がある。
皆大好き冒険者。
特定の勢力に属さず、己個人だけで危険に飛び込む。
頼れるものは己が才覚のみ。
ある時は凶暴なモンスター、またある時は複雑に入り組んだダンジョン。
とにかく危険で、普通の人が恐れて寄り付かぬものに自分から飛び込んでいく。
ゆえに『危険を冒す者』と書いて冒険者。
皆アウトローが好きだからな!
有名大学卒のエリートが主人公で何が面白い!?
大多数の進む出世コースからあえて逸れて独自の道を突き進む!
実力如何でいかなる栄光も掴み取ることができる、そんなドリームに誰もが皆心の底では憧れているはずだ!
……という感じで。
こういうファンタジー異世界で冒険者こそアウトローの代表格。
子どもがなりたい職業、勇者を抜いてナンバーワン。
そんな冒険者です。
こちらの世界では現状、冒険者は人間国側にしかいない。
対する魔国ではモンスター退治やダンジョン探索などは、魔王軍が行っているからだ。
勤め人が強い地域なんね。
さらに言えば人魚国では冒険者以上のガチアウトロー、魔女が幅を利かせてるのでそれはそれで安全。
ともかくも国家勢力である魔王軍が概ね魔国の危険を排除してきたんだが、そんな情勢に変化が表れ始めた。
大きなきっかけは戦争終結。
魔族と人族の間で行われていた種族間戦争がつい数年前、終わりを迎えた。
未来永劫続くと思われていた戦争で、突如終結したことで色んなところに影響が出ている。
敗北した人族側はもちろんのこと、勝者であるはずの魔族ですら、その影響から逃れきることができななった。
そのもっとも顕著なところは軍縮だ。
前述のごとく魔族への危険すべてに対処するための魔王軍ではあったが、危険の最たるものである戦争がなくなった以上、今の規模を維持しておく必要性も、余裕もないってことだ。
自然魔王軍は規模縮小へと向かっていき、既に少なくない人数が退役して新しい職に就いている。
例を挙げればウチの農場にいるバティとかベレナとか。
彼女らのように新しい道を自分で見つけ出せるものはいいが、大多数はそんなに器用じゃない。
考えもなく野に放っては路頭に迷う者も出て、却って治安が悪化するであろう。
そのためにもちゃんとした再就職先を……、魔王軍人が戸惑うことなく就くことのできる新しい働き口はないか……、と模索するのもお上の仕事というわけだった。
そこで冒頭の冒険者の話に返ってくる。
リストラもとい自主退役となった元魔王軍の軍人に、人族特有の冒険者こそ打ってつけの再就職先。
冒険者のおもな活躍先はダンジョンもしくはモンスターの出没地。
割と魔王軍ともろ被りする。
人類同士の戦争を除けば魔王軍と冒険者の職域はもろ被りだった。
そこに目を付けた魔国上層部は、人間国より冒険者のシステムを直輸入し、退役した魔王軍人の一部を冒険者として再雇用させることにした。
一種の民営化であった。
いざという時には軍に復帰し、即時戦力として再構成できる予備役の待機場所としても最適。
魔国側でいかにして冒険者運用していくか?
人間国にある冒険者ギルドに管理運営を委託するのか? それとも魔国は魔国側で独自の冒険者ギルドを運営していくのか。
その辺はよくよく話し合いを重ねながら、結局は経験豊かでノウハウガン積みしている人間国の冒険者ギルドにすべてを委ねることになった。
それまで魔王軍が取り仕切っていた魔国各地のモンスター対策やダンジョン管理はフリーの冒険者たちが行うようになり、入れ替えは既に始まっている。
この民営化運動自体、話がスタートしたのはもう何年も前からだからな。
いまやプロジェクトは最終段階と言ってよく、魔国全土のダンジョンやモンスター対策は冒険者の管轄下にある。
人間共和国の立ち上げを目の前に控え、こちらの成果もしっかりと見届けたいとやってきた俺だった。
何目線?
しかもただ見届けるだけでは何なので、ちょっと趣向を凝らした視察を試みたい。
俺は身分を偽る。
人間国から遠征しに来た冒険者という身分にしてもらって、聖者という実態を隠して潜入するのだ。
それでもって魔国で活動する冒険者たちの働きぶりをチェックすることにしよう。
上手くすれば魔王さんの統治の助けにもなるしな。
* * *
というわけでやってまいりました。
ここは魔国のある一地方。
首都から遠く離れて鄙びた感のある寒村だった。
「随分と寂れた雰囲気だなー、魔国なのに。意外だ」
「魔国は、中央集権の国家ですので中心地から離れれば離れるほど格差が大きいようですね」
と言うのはお共で同行しているオーク&ゴブリンたち。
俺は一人でもよかったんだけど、それじゃ心配だからってプラティから無理矢理付かされた。
本当に心配症なんだから。
「魔王家は代々名君を輩出しているそうですが、その分目の届かぬところで奸臣佞臣が好き放題やるケースが多くあるそうです。だから魔国では地方に行くほど魔都からは想像できないほど廃れた場所も多いと」
「国王がしっかりしている分、地方官がテキトーにやっても何とかなる素地ができてしまっていますからね。その点人間国とはまったく逆と言われています」
かつて地上を旅してまわったアロワナさんも似たようなことを言っていた。
人間国では旧王族がちゃらんぽらんだった分、各地方の領主さんがしっかりしていて国を支えていたが、魔国ではその構図が逆になっているとか。
魔王さんが超絶優秀であるゆえに地方領主や代官がボンクラでも何とか国が立ち回っていく。
テキトーな領主の統治区域にダンジョンがあったりすると適切な管理もなされずモンスターが溢れ出て、周囲に被害をもたらすんだそうな。
そういう被害を未然食い止めるためにも冒険者システムは重要で、冒険者は自分の生活のためにこそ率先してダンジョンに入りモンスターを仕留めていく。
そもそも人間国の王族が頼りにならないってところから生まれたシステムでもあるので、軍縮フォロー以上の効果が期待される。
「それで今回訪れるダンジョンは、どんなところなの?」
「魔国の東辺境にあるダンジョンで、ランクとしては推定二つ星。冒険者の本格攻略はまさにこれから始まるそうで、我が君にはダンジョンの確定ランクの調査と、冒険者がしっかり動けているかどうかを確認していただきたいそうです」
「『そうです』って?」
「シルバーウルフ様からのご伝言です」
あの人か……!
シルバーウルフさんもギルドマスターに就任して途端、魔国側の冒険者ギルド管理まで担わされるようになって単純に仕事量が二倍になったわけだ。
こう言っただけで大変さが如実に伝わってくる。
それであるのにいまだにS級冒険者を兼任し、かつゴールデンバットという問題児まで抱え。
クローニンズの一人の面目躍如が窺える。
「シルバーウルフさんのためにも、ギルド幹部に有用そうな人材を見つけたらガンガン推挙していくことにするか」
「御意」
そんなこんなで現地到達し、冒険者としての身分を照会して村での滞在権を確保する。
この冒険者としての身分もシルバーウルフさんに軽く用意してもらった。
ちなみにB級冒険者だ。
ギルドマスターに身分偽装を加担してもらった。
俺もあの人の仕事増やしてない?
「よぉし! では早速ダンジョンに乗り込むとしよう!!」
「あの、我が君……!」
意気揚々とする俺にオークゴブリンたちの一人が尋ねる。
「もしかして我が君は、普通に冒険者を職業体験してみたくて、ここへ来たのでは?」
「…………」
何のことかな?
雄弁な沈黙をしてしまった。
いいじゃないか別に。
異世界転移者が冒険者に憧れるのは当然のこと。
異世界転移&転生者が就く職業ナンバーワンが冒険者。
二位が錬金術師。
農業関係者は少数派。
俺だって初手の選択次第では冒険者になって世界中のダンジョンを席巻し、『俺なんかやっちゃいましたかね?』っていう未来もあったかもしれんのだ。
そう思うと一遍本格的に冒険者をやってみたいという欲が出るのも当然のことかもしれないではないか!!
だから、こんな軽い気持ちで職業体験できる機会を逃す手はない!!
「そのために偽装身分作らされるシルバーウルフ様の気持ちも考えてくださいよ……!」
いいじゃないか!
とにかく俺は今日を使って、自分の中でありえたかもしれない未来を満喫するんだい!!
やってみよう冒険者!







