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860 三神降臨

 先生が使った魔法は、毎度おなじみ召喚魔法。

 自分の助けとなる精霊や幻獣などを呼び出すための魔法だが、それを使うのが先生となれば次元も違ってくる。


 精霊や幻獣より遥かに高位のモノですら呼び出せるんだ。


 それは何か?

 そう神。


 ノーライフキングの先生はその気になれば神すら召喚できる。

 それは同ランクの高位アンデッドである博士や老師ですら不可能なことだという。


 そんな先生は割といたずらによく神を召喚して、時にはトラブルの種になったりもするんだが……。


 今回、よりにもよって人間国の多くの人が見守る中で、歪む次元を潜って出てきたのが……!


 冥神ハデス。

 海神ポセイドス。

 太陽神アポロン。


 の約三名だった。

 それぞれが大地の神々、海の神々、天の神々のトップクラス。

 一部厳密には違うけれども実質的にトップ。


『この大地に住まう者すべてが我が子。……たとえゼウスが侵略のために送り込んできた尖兵であろうとも』

『本当にあのクズ神はろくなことをせぬ。母なる海といえどもあやつの愚かさだけは受け入れきれまいよ』

『同じ天空の神として慙愧に堪えません……。心の残機もなくなるほどにってね』


 ハデスは地上を治める守護神として大きく、ポセイドスは大海の支配者として深淵。若き神アポロンは太陽神として輝かしく、いずれも神に相応しいいげんに満ち溢れていた。


 三界神の揃い踏み。目の当たりにする人々の衝撃はいかなるものか?

 それこそ実際に殴られる以上のショックかもしれぬ。


 ある人は跪いて祈りを捧げ、またある者は感激のあまりその場で意識を失った。


 この世界の人々にとって神とはそれぐらい重大な存在ということだ。

 まだまだ近代にも入りきらないこの世界にとっては無理からぬことだろう。


「しかし、神様が三人も揃って何用です?」


 呼び出されただけでこんな大騒ぎになっちゃうんだから、みだりな降臨はご遠慮願いたいところなんですがね?


『聖者よ、おぬしのことを立証しなければならぬのだろう。そのために我ら下界へとまかりこしたのよ』

「えー?」

『そなたにはかねてより世話となっているのだから労をとるのに何の障りがあろう。我ら神々が率先して、そなたが聖なることを認めようではないか』


 神三人。

 並んで揃い、声を合わせて。


『我、大地の神の名において、この者を聖者であると認めよう』

『我、大海の神の名において、この者を聖者であると認めよう』

『私も、天空の神の名において、この者を聖者であると認めよう』


 神の言うことだから、ただ言葉に発するだけで止まらず、キラキラ輝く何かが降ってきて俺の周囲を回ると、我が身に宿るように消えていった。


 これは今さらながら俺が聖者として正真正銘揺るぎないものになったって証明?


『まあ、そなたは我らに認められるまでもなく様々な偉業を成し遂げられてるんだから、それだけで聖者であることは確定事項よ』

『我々からの任命など……そう、たとえるならば既に興行何千億の実績を持った映画監督に行政が与える「何とかで賞」みたいなものと思うがよいぞ』

『むしろ権力の方が巨匠にすり寄ってる感じだね』


 そのギリギリな発言やめていただけませんか?


 ともかくそんな感じで神三名との会話が弾んでいると……。


「ちょっと待て!……いや、待ちなされ!」


 そこへ乱入してくる物言い。

 神に対して恐れを知らぬその声は、神に仕える聖職者からだった。


「その任命は、この余にこそ相応しいものではないか!! この教皇クインセッドにこそ!」

『誰お前?』

「だから! 大神ゼウスの代理人にして全世界の信仰の統括者! この世でもっとも神聖なる者、教皇クインセッドじゃ! 神なら余のことぐらい知ってて当然ではないのか!?」

『頭に矢が刺さってるけど大丈夫?』

「そこじゃなくて!!」


 相手が神であろうと物申せる面の厚さはさすが聖職者。

 いや、聖職者のそこに感心したらアカンのではあるまいか。


『よくわからんが、何故余が貴様ごときを認めねばならんのかな?』

「だからさっきから何度も言っておろう! 余こそは大神ゼウスの代理人として認められた人族教会の教皇……!」

『だからそこよ』


 ハデス神がビシッと指摘。


『余は、魔族を守護する大地の神。それなのに何故ゼウスの信徒などを認めてやらねばならぬ?』

『海神ポセイドスも右に同じ』


 そうそれ。

 まさにそれであった。


 この世界は基本、人族魔族人魚族の三大種族に分かれてそれぞれに違う種族の神々が守っている。


 人族の担当は天空を司るゼウス神だ。


 なので魔族担当のハデス神、人魚族担当のポセイドス神に人族教皇を認めろと言ってもお門違いにしかならない。


『むしろお前ら、流れの違う我ら神々を散々こき下ろしてんだろう? 知ってるよ余ら』

『「海や大地の神など本当の神ではない! 神のふりをした悪魔だ!」とか言ってるんだって? 下界の出来事は割と神界にも伝わりやすいって知ってた?』


 皮肉たらしく言ってくるハデス&ポセイドスに、青い顔して脂汗ダラダラ流す教皇。


「いや、あのそれは……!?」

『普段自分が罵っている相手から信任を受けて権力を振るおうなど、大した厚顔さよのう。まさにあのクソゼウスの眷属といったところよ』

「そ、そうだ! ゼウス様! ゼウス様はどこにおられる!?」


 教皇は目を血走らせて周囲を見回す。


「ハデス、ポセイドスといて、それらに並ぶ天空の神ゼウス様がいるのは当然のこと! 我ら人族の守護神よ! 至高なる神の中の神よ! 我を助けたまえ!!」

『父上ならいないよ』


 それに答える太陽神アポロン。

 若い神。


『だから私が代理でいるんだけど。父上はこないだ世界を滅ぼしかねない大ポカをやらかして、その落とし前で封印されてるんだよねー』

「封印!?」

『償いきるために向こう何千年かは出てこれない。でも封印場所を作製したヘパイストス兄さんが積年の恨みで勝手に改造してるから数億年は復活不可能だと思う』


 教皇がもっとも崇め讃える神、もはや世界に存在していなかった。


 しかもあっちこっちから買った恨みで弱り目に祟り目、刑期数億年で出所できなかったら、その間にこの文明終わって新たな文明が興って、それも終わるんじゃね?


『だからキミが生きてる間は到底父上の加護は期待できないんじゃないかねー。諦めて宗旨替えしよ?』

「そんな……!? そんな……!? 余がこれまで捧げてきた祈りもすべて無駄だったというのか? だ、だからこそ人間国は戦争に敗けて……!?」

『それはまた無関係』


 戦争に敗けたのは純粋に旧人間国の落ち度であって神は関係ない。


「そ、それでいいのですか!? 同じ天の神々ならば、父親であるゼウス神の解放に努力すべきでは!?」

『なんで私がそんなことしないといけないの?』


 天空の神の王子の無慈悲な拒否。


『父上ってさ、ご存じの通り性格アレだから大概皆から嫌われてるんだよね。比較的可愛がられた私ですら苦手なんだから冷遇されてきたヘパイストス兄さんとかベラスアレス兄さんとか怨敵だよ。むしろ父上を解放しようとしたらそういう神々を敵に回すし。そんな苦労までして助け出そうと思うほど私も父上のこと好きじゃないなあ』

『お! アポロンくん、よくわかってるじゃないか!!』

『兄弟である我らですら耐えられないレベルなんだから! 本当アイツ自分一番でやってられないんだわ! 実の姉妹が貞操の危機を感じて純潔の誓いを立てた時はドン引きしたわ!!』


 共通の悪口で盛り上がる神々。


 その隣で信仰を拠り所にする人は、衝撃のあまりにヘタリと座り込む。


「そんな……さすれば余の信仰は……余の権威はいずこに……!?」

『そんなの最初からなかったんじゃない?』


 とどめの追い打ちをかけてくるアポロン神。


『我ら三神がこうして降臨したのはさ。キミのような神を利用しする人間を一回誅しておきたいからさ』

「神を利用するなど! そのような! 余は教皇! 神の第一のしもべにございます!」


 神への忠実を申し出る者が、実際に神を目の前にしたら一体どんなことになるのか。

 ある意味でもっとも恐ろしい実験が、今目の前で行われている。


『キミは神の代理人を自称するが、それでキミ自身の欲求を神の言葉として発するのは間違いじゃないのかい? それじゃあ神こそがキミの代理人になるんじゃないのかな?』

「滅相もない! 余は……!!」

『そんなことは一度もないと言えるの? キミらだっていつも言ってるはずだよね?「神は常に見守っている」と……』


 神はすべてのウソを見抜かれる。

 その現場に立ち会ってしまった。

 神の権威を借りて勝手放題してきた俗人に、しっかりその報いが向かってくる。


『今回下りてきたのは、いつもお世話になっている聖者くんへのお返しの意味もあったが、せっかくだから神による天罰が本当にあるのだって人の子たちに知らしめておこうと思ったんだよ』

「それは……余に天罰が下されるというのですか?」

『他に何がある?』

「そんな! 余は天神に仕える教皇ですぞ! 誰よりもアナタたちに祈り、アナタたちを奉じてきた! アナタたちの声を聴いて、アナタたちへの信仰を世に広めんと力を尽くしてきたのです!! 天罰からもっとも遠いのが余ではないですか!!」

『よく言うね。キミ、神の声を聞いたことなんて一度もないくせに』


 アポロン神の言葉に、場がしんと静まり返る。


『私たち天の神は、キミらに語りかけたことは一度もないんだからさ。それなのに言葉を聞いたなんておかしいと思わない? キミたちの聞いた声は、他の誰かの言葉じゃなかったのかな?』

「そ、そんなことはありません! 我ら聖職者は、間違いなく神の言葉を……!!」

『あれぇ?』


 太陽神アポロン、その称号に合わぬ冷たい視線を信徒に向ける。

 その酷薄な感じにヤツも天空神の一角なのだなと納得してしまった。


『私の言葉を否定するのかい? 神の信徒が、天空神である私の言葉を? 神の言葉を疑うようではもう信徒の資格なんてないね?』


 肯定すれば神への逆賊、否定すれば神を信じぬ者。

 信仰を利用して私腹を肥やし続けてきた者が、ついに逃げ場のない袋小路へと追いつめられた。


 これから教皇に待ち受ける結末は、いかなるものか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 三神からの聖者認定の祝福 ・・・ めでたいですな ♪ こうなれば どれか一つの勢力に 肩入れ出来無いと、言い訳も立つので 大統領就任は完全に無くなったでしょう。 三界統一議長とか、より…
[一言] さすがにギルティは無しだけど教会には今までしでかしたマナ枯渇のため残りの人生を大地のために捧げよ。 とりあえず死なない場所は提供するが裕福になることもかなわない。
[気になる点] この『世』にこそ相応しい     ↓ この『余』にこそ相応しい
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