857 ヒール襲来
そうして人間共和国初代大統領決定戦。
プレジデントファイトがスタートした。
優勝したものは以降四年ぐらい大統領として人間共和国の長として君臨する。
何故四年なのかって?
スポーツ式典は四年サイクルと相場が決まっているのだ。
プレジデントファイト基本ルールは
・命に係わる攻撃をしてはならない。
・一対一で戦う。
・人族としての威信と誇りを失ってはならない。
・闘技場がリングだ。
という感じ。
といってもほとんどの人は余分に仕事が増える人間共和国大統領……ヒューマンプレジデントを求めているとは言い難く、完全なババ抜き状態。
むしろ心からその責務を望む者がいれば喜んで差し上げようという雰囲気だった。
「グババババババババ!! ならば余が貰ってやろうではないか! 人族の長の位をな!!」
何ッ? あえて自分から重責を担う奇特な方が!?
一体何者か!? と注目したら、見た瞬間驚いた。
視線の先に立っていた男性に、矢が刺さっていたからだ。
しかも頭に。
頭に矢を刺している!? 頭の右側から刺さって、左側から矢じりが飛び出している!?
矢を頭に貫通させたまま高笑いしている!? 怖いし不気味ッ!?
そんな初老に差し掛かった男性は何者か?
「アレは……教皇クインセッド!?」
知ってるんですかダルキッシュさん!?
「人族教会の元教皇です! 旧人間国時代は神の名を振りかざして傍若無。王族に支払うのとは別の教会税などを取ったり、ヒトの土地に勝手に教会をたてて元から住んでいる人々を追い出したりと迷惑になるようなことしかしておりませんでした!」
また迷惑な存在だなあ。
そういえば俺のような異世界からの来訪者も、教会の人が召喚したんだっけ。
益々迷惑が止まらない。
「敗戦後は王族ともども指名手配され、私腹を肥やしていた幹部も多く捕まったと聞きますが、頂点に位置する教皇だけはついに捕まらなかったと……! それが今になって自分から出てくるとは……!!」
「邪悪なる魔族が逃げ去ったからよ! さすれば人間国の真の支配者である我ら教会が復権するのは当然のこと! さあ、愚鈍なる子羊たちよ! 王者の帰還を喜ぶがいい!!」
「何を言う! 旧人間国の時代、王族と共に私腹を肥やし続けた貴様らは多くの人族にとって憎しみの対象だった! 何よりお前たちが操る法術魔法のせいで土地は荒れ、飢えと貧しさを強いられた! 貴様らののさばっていた時こそ暗黒時代だ! 誰が復権など望むものか!」
ダルキッシュさんが、さっきまでとは打って変わった険しい表情で言う。
教会が我が物顔でいた旧時代を思い出してのことだろう。
「戦争に敗れ、魔王軍が駐屯してからも王族は潔く投降したというのに貴様らは逃げて隠れ、村を荒らすわテロ活動を画策するわ……! 存在自体が迷惑でしかない! 領民への危害を排除することこそ領主の務め! ここで姿を現したというなら、我らの手で討ち取ってくれるわ!!」
「迷える子羊め……! 余には向かうというのであればちょうどいい舞台があるではないか?」
「? どういう意味だ?」
見るからに悪役な教皇の登場は、ダルキッシュさんだけでなくプレジデントファイト参加者や観戦者の多くの人々たちの気づくところ。
嫌悪と警戒をもって注目する。
あとやっぱ頭に刺さっている矢にも注目せずにはいられない。
「今ここでは、人間国の新しい支配者を決める催しが開かれているのだろう?」
「支配者ではない! 皆の意見を取りまとめるための代表者だ!」
「悠長な……! ならば、この神の代行者たる教皇クインセッドが支配者になってやろうと名乗りを上げた。王族が滅びた今、教会の長である余こそ、その位に相応しいものはおるまい」
「ふざけたことを!」
吐き捨てるダルキッシュさん。
「誰が代表を務めるとしてもお前だけはあり得ない! 貴様は人間国の旧悪の象徴のような存在ではないか! かつての腐敗を切り離し、新しい人間国を作り上げることこそ魔王軍の方々と約束した、だから主権を返還してもらえたのだ!」
「しかし、ここでは今まさに新支配者を決めようとしているのだろう? それで余が勝ち抜けば、誰にも文句は言わせず余が新王というわけだ……!!」
そう言って笑う教皇の目は鬼気迫っていた。
追いつめられたがゆえに、心の余裕が失われたのか。ゆえに普通では物怖じするような無茶な選択肢も選べる。
「戦いで決められるのだろう? では余の手の者が、身の程知らずの国王候補を皆殺しにすれば、おのずと王座は余のものじゃ。この国を再び我が手に収めてくれようグッフッフ……!!」
濁った笑いを漏らす教皇。
そこまで狙って今というタイミングで公の場に現れたというのか……!?
頭に矢を刺してまで……!?
「何をバカなことを!! お前のような悪人はそもそも参加資格はない! 今ここでひっとらえて縛り首にしてくれるわ!!」
ダルキッシュさんの号令で、居合わせた他の武装者たちも呼応して雄叫びを上げる。
戦意MAX。
やっぱりダルキッシュさん人を率いる才能があるんではないかと思える。
「ほう、やるか?」
次瞬、教皇の前に数人の屈強な男たちが並んだ。
明らかにカタギじゃない風体だ。
体つきは隆々だが眼光は荒み、けっして仲よくはできないであろうことが直感でわかる。
しかもさらに異様なことに、教皇を守るように居並ぶ複数人のならず者は、いずれも指摘せずにはいられない異様な特徴があった。
たとえば、教皇の隣に立つある男は全身の肌が赤色だった。赤身ばしった……という感じではなく鮮明なルビーレッド。
肌の色としてはあまりに不自然だった。
他にも一人は、ゴム毬を組み合わせたかのような肥満体系だったり、また一人は目が異様に大きい上に全部黒目だったり、さらにある一人は金属人間……とでも言わんばかりに全身ギンギラだった。
ここ異世界へ渡ってから、様々な人種を見てきた俺だが、いずれも今まで見たことがないような特徴だった。
「ひぇっひぇっひぇ……! この者たちこそ教会が秘術によって呼び出した勇者たちよ……!」
「勇者……!?」
「魔族に支配された僅かな間で、余の常識すら忘れてしまったか? 邪悪なる魔族と戦うために我ら教会が召喚した、正義の英雄のことよ。過去幾人という勇者が、魔王軍の侵略をはね返してきたか、知らぬわけでもあるまい?」
「その勇者召喚のために大量のマナを地上から吸い出し、そのせいで土地が枯渇し慢性的な作物がとれなくなったことも知っている」
俺もまたその勇者召喚でこの世界に呼ばれた口ではあるが……。
……そうか、あの宇宙映画に出てくるモブみたいな風体の方々は、異世界から召喚された方々というわけか。
きっと俺がいたところとはまた別の世界から呼び出されたんだろう。
そうじゃなきゃあのSFチックな風体は説明つかん。
「ここにいる者たちは、魔王軍が攻め込んできてからも片時も離れず余に仕えてくれた真なる忠誠の勇者よ。この者たちが余の代わりにお前たちを打ち倒し、王座へと押し上げることであろう」
「ぐぬ……!?」
そう言われてダルキッシュさんは『ぐぬぬ』と唸る。
あのいかにも強者の陰でイキりちらしてそうな教皇は恐ろしくないとわかる。
しかしその教皇が威を借っている勇者たちは紛れもない曲者で、一筋縄で行かないのは確実。
たしか勇者というのは、召喚された際に神から一つスキルをプレゼントされるはず。
それが超強力でだからこそ戦争の時うの切り札になった。
しかもここに居並んでいる人たちがいかにもスペースなインベーダーで、スキル以外にも何か異様な能力を持っていても不思議ではない。
そんな得体のしれない相手が一人ならず、複数と戦わなければいけないんだ。
歴戦の経験者とはいえただの人族である領主さんたちが正面からぶつかり合えば……。
数の優位があるため『勝てない』とは言わないまでも、相当な犠牲が伴う。
誰が代表になるにしろ、これから新しい人間国が始まっていく中で、貴重な人材である彼らを失うのは避けたい。
俺はダルキッシュさんの後ろに回ると耳打ちした。
「彼らの参加を認めましょう」
「聖者様!? 本気ですか!? あんな害悪な連中に、代表となる可能性を一パーセントでも与えるのは……!?」
「大会に参加させれば、ヤツらはルールの下で戦わなくてはならなくなります。ヤツらが余分に暴れることを防ぐには、ルールで縛るのがいいでしょう」
「そうかもしれませんが、それでヤツらが優勝してしまったらもっと酷いことになるのでは? 万が一にも教皇などを新国王にしてしまったら魔族からの信頼を裏切ることになります!」
その点については大丈夫。
既に俺の脳内には、万が一にもヤツらをプレジデントファイトで優勝させないためのプランが練り上がっている。
そして、そのプランはもう一つの問題……国家代表の責務から逃げたいダルキッシュさんの願いにも都合がいいと思う。
では、そのための根回しをさっそく実行に移そう。
まずは人材の確保だ……。
* * *
農場を通じて連絡を入れて、彼に来てもらった。
「リテセウスです! 聖者様がお呼びとのことでやって来ました!!」
人族のリテセウスくん。
かつて農場で学んでいた若者の中で断トツの才覚を見せていた青年だ。
農場卒業後は地元へ貢献する生活を送っていた。
「よくきてくれたリテセウスくん! 人族のキミだからこそ頼みたい用事ができた!」
若くて精悍なるリテセウスくんよ!
今こそキミの能力をいかんなく発揮し、新たなる人間国のピンチをチャンスと変えてくれ!!






