856 天下一大統領会
俺です。
俺ですが……。
ダルキッシュさんの招待を受けて人間国へとやってきた。
人間共和国の立ち上げ話が出てきて随分経つから、ついにまとまって建国のお披露目でもあんのかな? と思ってホイホイ詣でたわけですが……。
実際見てみたら現地の様相は思ったものとだいぶ違う。
やたら殺気立っていた。
なんか武器片手に行き交っている人もおり、虚空に拳を突き出してシャドーボクシングなどしている人もいて……。
まさにこれからいくさに出んとしているかのようだ。
一体何事?
俺がひたすら混乱していると、やっとこの疑問に解を出してくれる人が。
人族領主ダルキッシュさんが歓迎に出てくれた。
「聖者様! よくぞおいでくださいました!」
「まだ俺の来る段階ではなかったと感じております」
ダルキッシュさんまでどうしたんですかそんな全身甲冑で固めて、剣まで携えた完全武装じゃないですか。
これじゃあ新たな人間共和国の誕生を宣言するんでなく、どこぞへ戦争しに行こうという風ていですぞ?
「それはある意味正解といえなくもないですな。これから始まるのはまさに戦い……!」
「へッ?」
「新たなる人間共和国の長を決めるための戦いが催されるのです!!」
耳を疑った。
なんだそれは? 説明を聞いてもさっぱりわからないので、引き続きダルキッシュさんから事情を聞くことにした。
ダルキッシュさんたち人間国の領主さんたちは大いに話し合い、新しい人間共和国の在り方を模索してきた。
議会を置いて、そこでの話し合いにより国を動かしていくことが決まったが、その議会を取りまとめる議長が一向に決まらない。
どうしても何をやっても決まりそうにないのでダルキッシュさんは非常の手段に打って出たらいい。
「戦って決めます」
「えー」
「議長の座を望む者が集まって対決し、戦って、戦って、戦い抜いて……。そして最後に残った一人が議長……人間国の新しい長に据えることとしたのです」
血生臭い。
近代国家思った以上に原始的な方法で築き上げられていくようだ。
「今日の催しは、『我こそは』と腕に覚えのある猛者が一堂に会し、ニンゲン共和国議会の議長を奪い合う戦いの場! つまり人間国王座決定戦なのです!!」
近代かと思ったら戦国時代だった。
いいのこれ?
せっかく平和が訪れて、話し合いによる理想てきな近代国家が建設されると思っていたのに。
いいの? こんな古代ローマ制みたいなやり方で? パンとサーカスだよ?
まだまだファンタジー異世界に民主制は早すぎるかな? という気分になってしまった。
しかしそうなったら、何で俺はこの場に呼ばれたんだろう?
人間共和国設立の祝祭であればお付き合いで参加することもやぶさかではなかったんだが、全然そんな段階じゃないやんけ?
「それはもちろん聖者様にもご出場いただこうと……!」
「何に?」
「それはもちろんこの王座決定戦に……!」
嫌だよ!?
あまりにありえなさ過ぎて二度聞きしてしまったけれど、俺は国家を率いる立場に立つのも嫌だし、戦いのも嫌!
この世で一番嫌なことのナンバーワンツーを争う二要素が揃い踏みじゃないか!?
大体俺がそんなこと望む人間性なら召喚された時勇者になって成り上がり譚になっておったわ。
むしろ聞きたい、何故俺が参加すると思った!?
「それは……その……、参加してくれる可能性がミリでもある人たちなら片っ端から声を掛けようと……!」
「?」
「最初はね、冒険者ギルドに打診したんですよ。組織としては今や人間国で最大規模ですし、集団を動かすことにも慣れているでしょうから。さらにギルドマスターは兼任で現役のS級冒険者でもありますから、腕っぷしも強い!!」
シルバーウルフさん……。
また俺の知らないところで彼が苦労を背負っていた。
「しかし断られてしまいまして」
「おや、めずらしい」
苦労人のシルバーウルフさんがハッキリNOと言うなんて。
「冒険者はあくまでアウトサイダーなので権力の中枢に身を置くべきではないと……! 他に大物の冒険者へオファーしたかったのですがそれも断られてしまい……!?」
何やら悔しげなダルキッシュさん。
何この……!? むしろ出場されたらマズいんじゃないの? 議長の座を狙うライバルが増えるんだから……!?
「あの……ダルキッシュさんは出場するんですよね……?」
「!? それはもう! 何しろ私は領主ですから! 人間国の! 誇りある! 領主ですから!!」
何故力の限り言う?
「協定なんですよね……! 領主は全員強制参加と……! とにかく一般参加枠さえ埋まれば選ばれる確率が下がるのは真理。だからと言って出場辞退してしまったら領主のメンツが立たない……!」
「何を言ってるんですか?」
「しかしながら一般参加枠が思ったより埋まらず……、事実、冒険者ギルドが外れてしまったらアテはほとんどない! 本当に聖者様しかいない! もしくはもう種族の垣根を越えて魔族から募集するか……!?」
わかった。
薄々予感はしていたけど、その予感通りのようだ。
彼ら……人間共和国の代表になることを嫌がっている!!
理由は恐らく面倒くさいから!!
俺も同じような理由で国家元首になんて断固なりたくないから気持ちはわかる。
俺の器なんて農場主が精々よ!
「私の器など領主が精々なのです! それなのになんかの拍子で国王みたいなものにならされたら堪ったものではない! きっとこの世界にはまだまだ在野の有用な人材がいるはず! 新しい時代には新しい導き手がいてこそ! そうは思いませんか聖者様!?」
うん、俺もそう思う。
そして俺ももう後進に譲るべき旧世代だと思います。
だから抜擢しないでくれお願いします。
「こうなったら本当に魔族候補も視野に入れないと……! マルバストス総督はまだ帰国してないよな……!? 頼めば出場してくれないだろうか……!?」
ついにはここ数年間、人王に替わって人間国を治め続けてきた魔王軍の重鎮マルバストスさんの名前まで出てくる。
いや待って。
魔王軍占領府を率いていた総督が新生人間国の代表になったらただの現状維持じゃん。
それ以前に自国の運営は自分たちでやるべきだし他国の介入は許さんべきでは!?
これもう完全に学級委員の選出みたいになっとるやん。
誰もやろうとしないから多選一択。
壮大なるババの押し付け合い。
今思い出してもホントに誰もやろうとしなかったな学級委員。
「さすがに他国からの干渉を招くのは……! やはり人族たちの国は人族こそが上に立つべきではないでしょうか?」
「では聖者様がやってくださいますか?」
「嫌です」
そもそも俺は厳密に人族じゃないしな。
所詮異世界からの流れ者よ。
「いや……、我々も覚悟は決めてきているのです……! 戦いによってすべてを決めるこの大会……! ここで優勝したならば腹を括って大役を引き受けようと……!」
めっちゃ苦渋のこもった口調だった。
そんなに嫌か? というより面倒くさいんだろうな……。
「領主たちの間では、決して手を抜かぬように戦うという約束が交わされています。皆本気で戦いに臨もうと。……だから聖者様! 聖者様も是非ともご協力を!!」
嫌だ!!
キミらがいくら悲壮な決意を固めたからって俺までリスクを背負ういわれはない!
「むう……し、仕方がない。ではもう一つ聖者様にご相談したいことがあるのですが……!」
「何かな?」
「『人間共和国の議会の議長』というとどうしても長ったらしくなって響きが悪いのです。この大会、皆その座を巡って(表面上)争い合うわけですし、もっと歯切れのいいいい方はないでしょうか?」
ふむ……!
たしかに『議長』だけじゃ何の議長かもわからないしなあ。学級会議でも家族会議でも会議の長なら『議長』だ。
しかしまあ、来たるべき人間共和国の運営を決める会議であれば、その議長は実質的な国の代表にもなる。
そのための呼び名も思い当たらないわけでもない。
……内閣総理大臣……もあるが、ここはもう一つ……。
大統領。
……でどうだろうか?
大統領の方が拳で戦うイメージあるしな。
これから始まるのは、新たなる人間国を治める大統領を決める争い。
誰が勝手も恨みっこなしだぜ。
それではプレジデントファイト、レディゴーッ!!






